17 虹銀ランク探索者
虹銀貨の所有からすれば、その所有権は一方的に、しかも前置き無く押し付けられるものでしか無い。
つまり、そんな心構えを持った者が所有者となる確率は低いのだ。
何しろ、それなりの家柄の者など、全体からすればほんの一握り以下しか居ないのだから当然であろう。
そして、心構えを持っていなかった者からすれば、ただ偶々虹銀貨を、突然所有する事となった途端に、擦り寄られ、時には様々な手段を駆使して取り込もうとして来る様になる権力者等には、困惑と共に、厄介さを感じたとしてもおかしくは無いのだ。
そして、それを行う権力者等からすれば、自分達にとっては当然の行為である為、行う事に疑問を持たない。
結果として、意識の差が生じ、互いの間に大きな亀裂が生じる事は、もはや当然の流れであるのかも知れない。
実際、これまでの虹銀ランク探索者は全員が、本拠地を定めず、極力他者と関わらない生活をおくっていた。
現時点で存在が確認されている三人の内、既に認定されてから二百年近くを経たドゥイリオ=モンテスは、その殆どを自身が所有する天浮島で過ごしている。
記録上では、探索者としては年を経た五十を超えるまで、現役で過ごしたという。
その時代ではかなり高位の魔法を操り、名の通った探索者であった様であるが、その名は迷宮研究者としての方が知られていた。
しかし、流石に体力的問題から現役引退を考えていた矢先に、虹銀貨を得たと言う。
現役引退し、それまで自分が集めてきた研究成果をまとめる事で余生を送ろうと考えていたドゥイリオに対して、その存在を取り込もうと行われた様々な行為、対応は、はっきり言えば邪魔でしか無かった。
要は、自分が考えていた環境を、権力者や有力者、そしてその手下が阻害しようとしている様にしか感じられなかったのだ。
行き着く結果として、ドゥイリオは天浮島に籠もる事が増えて行き、他者との関わりを減らし、時には削り、最終的には極々限られた者としか関わらなくなった。
そして事件は起こる。
その限られた者に、関わりを持ちたいと願う者達の行為が集中し、それに怒ったドゥイリオは、天浮島との転移門を設置していた街--探索者として本拠としていた街であった--が、所属する国の王に対して貴族や商人への対処を迫ったものの対処が行われる事は無かった。
これは、貴族や大商人らが裏で繋がり、国政に対してある程度の力を有す様になっていた等の事情があり、王家の力が弱まっていたという事もあったが、状況がどうであれ、王自身も一言の意見も示さず、何の対処も行わなかった事は事実であった。
結果として起こったのが、後に“ストリンドベリの悲劇”と呼ばれる事件である。
ドゥイリオ所有の天浮島の一つが、ストリンドベリ王国の王都上空へゆっくりと、その姿が見える高度で移動を始めた事から、ドゥイリオが王都、或いは王城に現れるのではないかとの噂が流れ、多くの貴族や商人が王都へと集まった。
そしてある日の夜、ドゥイリオに対し様々な動きを行っていた貴族の屋敷が一斉に襲われたのだ。
事の大小を問わず、取り込もうと動いていた全ての貴族や商人の館に、その主と共に完全に破壊し尽くされたのだ。
館を襲ったのは人の姿に似、人と同じ様に武器や防具を装備したゴーレムの様であったとされているが、その強度、そして動きは、館を守っていた私兵ではとても敵うものでは無く、たった一体で数十人の兵は殲滅され、館が倒壊するまでに十分程しかかからなかったとさえ言われている。
各館を壊し尽くした人造の兵隊達は、一旦王城前に終結した後に、堂々と転移門で天浮島へと移動。全ての人造兵が消えた後、その転移門も消滅すると、天浮島はまたゆっくりと、元来た空を戻って行ったと言う。
その後分かった事だが、ほぼ同時に各貴族の所領にある本宅や別荘、商人達の別宅や店舗等も襲われており、資産等のほぼ全てと当主を失う結果となった。
救いは、戦う姿勢を示さなかった家族や使用人等は逃げる事を許され、または外に放り出され、命だけは助かった事くらいであろうか。
後に、襲撃をした人造兵はゴーレムでは無く、デゥムと称される人造の人型兵器である事が示され、その戦闘力に恐怖する者達も現れたのだが、多くの者達は、その権力等で好き勝手に振る舞っていた貴族や商人が消え、また残された家も力を極限まで削がれた事によって、むしろ賞賛する声を上げた。
しかし、同時に国力を低下させたストリンドベリ王国は数年の内に、隣国エルヴォラード王国に吸収される様にその姿を消したのである。
もう一人の、エレアノール=ザヴァリシュは、アルと同じバゼーヌ王国の北方にある小さな開拓村出身のハーフエルフであった。
父親が精霊族で、母親が狐人族のハーフであった為、魔力と身体能力に優れ、十五才になると共に探索者となったが、種族特性の一つでもある両親譲りの美貌と、母親譲りの女らしい身体付きもあって、多くの探索者パーティー等から声がかかる事となった。
しかし、元々両親共に探索者であり、エレアノールが生まれる事となった為に開拓村の護衛職となって定住したという経緯があり、女性探索者の危険性は小さな頃から聞かされて育っていた事もあって、基本ソロで活動をしていたのだが、ある時、靡かないならば力尽くでと考えた領主の三男がリーダーを務めるパーティーに迷宮内で襲われたのだ。
領主の後嗣を長男、その補佐を次男が務める事から、家を出ざるを得ない三男の為に、領主が金に飽かせて用意した装備と、集めたパーティーメンバーであり、本来であればエレアノールが抗う事等出来なかったのだが、その時何故か、普段以上に魔法の威力も通りも良く、身体の動きも段違いであった。
それによって、追う者と追われる者の立場は逆転し、撃退する事が出来たのは虹銀貨を得た為であった様ではあるが、エレアノールがそれに気付くのは、撃退した後、迷宮を出てからであった。
結果としてその時は助かったのだが、その分これまで以上に求められ、引き込もうとする者が増えた事により、所有者となった天浮島との転移門を年に一度、一週間の期間で繋がる様にした上でギルドに任せ、本人は本拠を定めない、放浪生活を送る事となった。




