18 戦闘適正
虹銀ランク探索者は、能力的にも存在的にも特殊な存在である。が、それによる優位性は表向きのものであり、実状は多くの苦労や苦悩を抱えている事を、ライザとイルナは知る事となった。
それによって二人は、それぞれ思うところもあったのだが、帰宅してからのアルの最初の一言で、そんな思いは一時棚上げとなる。
「リオネロの動きが分かったぞ」
マディナを介しての情報ではあったが、現在ではその職を凍結され、王国法に従い三等親内の関係者を含めた館等も王家監視下に置かれたという、バゼーヌ王国軍務局長リオネロ=ルネッリ侯爵の話しである。
あのペラガルロ子爵の件で、裏に居たと思われる人物の事である為、二人としても、アルの助けがなければ今頃、どういう目にあっていたのか分からなかったのだから。
「奴らは少数毎に移動していて、東方辺境伯領都まで一刻程度の距離にある森の中で集結しつつある。
そこに向けて移動している少人数の集団が未だ幾つかあるから、集結完了は明日午前中といったところだろう」
「そうなると、動くのは昼過ぎくらい?
或いは、日が暮れてからかな」
「いや、昼間は目立つし、夜は東方辺境軍陣営内との動きと合わせようとしても、同士討ちになり兼ねない。
状況から考えると、早くて明後日早朝、夜明けより一刻程前といったところだろう」
実際には、ある程度明るい状況でも、外部からの襲撃に合わせて内部でも騒動を起こせば、状況を撹乱する事は可能だろう。
但しそれでも、確実性という面では難しいと言える。
昼間であれば、距離がある内に発見される可能性が避けられず、その分対処される余地を生み、また、周囲に出ている兵も戻り易い為に、自分達が囲まれてしまう可能性が生じる事となる。
夜間であれば、確かに近距離にまで近付き易くはなる反面、陣営内で同調して動く者との見分けが困難となり、無秩序な乱戦となり兼ねない。
一軍とは言え、その数は少数であり、消耗を避けたいと考える事は容易に想像出来る。
しかし、夜明け前の、未だ見通しが効き難い時間帯であれば、少数勢が逆に利点となり発見を遅らせ、陣営近くまで寄せた時に夜明けを迎えれば、広間程では無いが見通しもそれなりには効く。
今回の、ペラガルロ子爵私兵を含んだリオネロ侯爵の私軍状況を考えれば、ある程度情報が流れ、東方辺境軍が予測警戒していたとしても、夜明け前後を狙う以外に方法は無いと考えたのである。
今のところ、東方辺境伯領を狙うという確定情報が得られているのは、天浮島の探索能力を用いたアルだけであり、他の要所も警戒しなければいけない王国側としては、警戒を強化する対策は出来ていても、防衛体制に移れていないのだから、リオネロ侯爵の私軍が付け入る隙もあったのだ。
「て事で、オレは明後日の夜明け前、奴らが動き出すところを狙うつもりだ。
二人はどうする?」
「え? どうするって・・・」
「数が少ないとは言え、それでも二百人程となれば、十分に一軍だ。
虹銀ランク探索者として動くから、装備的に見ても危険性は無い筈だけど、自分達の目で見てケジメとしたいとかでもなければ、わざわざ相手する必要も無いだろ。
だから、二人も行くかどうかは、好きにして良いぞ」
アルの予定としては、完全な壊滅狙いだ。
その為乱戦にでもなれば、対応出来ないとは思わないものの、手数が増えて面倒になる事は確実の為、二人が出向いたとしても手を出させる気は無く、一気に対処するつもりなのだ。
つまり、深夜の内にわざわざ出向いても、見てるだけになるから、家で寝ていた方がマシかも知れないという事だ。
「それでも、うん。ケジメとして終わりは自分の目で見ておきたいかな」
「ライザはそうだよね。
わたしは巻き込まれた形だから、どうしてもって言う訳じゃ無いけど、やっぱり今の家族の事だから、結末の場には居たいかな」
「んー、まあ見学だけになるんだけどな。
何回か一緒に迷宮には潜ったけど、対人はあの時以来だし、見ておいた方が良いか」
「対人って・・・相手は軍隊だよ?」
「虹銀ランクってのは、そういうのを相手に動く事もあるからなあ。
一軍程度の人数相手なら、白金ランクパーティーに依頼が出る事もあるし」
実際には、パーティー単位で一軍、数百人を越える規模を相手に出来ると言う訳では無い。
依頼が出る場合は、広範囲魔法を使える者がパーティー内に居るとか、そのパーティーが中心となり、他の探索者と組んでの動きとなるのだ。
しかも、実際の軍隊に対して動く場合は戦争時程度であり、国の軍隊だけでは足りない場合も、先ずは傭兵ギルドに依頼が行く為、探索者が動く場合は多く無い。
しかし、虹銀ランクというのは伊達では無いのだ。
「まあ、今回は二百人程度だからな。
二人に、虹銀ランクってのがどういう事をやっているのか、知って貰う意味では、見学は有りだろうし、止めないけどね」
「ん~、でもさ、二百人だよ。
アルさん一人で大丈夫なの?」
これが普通の反応だろう。
例え広範囲魔法が使えたとしても、それは仕掛けた中心部こそ被害を与えられるが、周辺に至る毎に威力は落ちる。
それは魔法の特性であり、範囲から外れた人数が多ければ多い程、より多くの相手と接近戦を強いられる事になる。
そうなれば、いくら接近戦も強いとは言え体力という限界値があるのだから、数で押されれば厳しくなるのは、言うまでも無い事なのだ。
しかし、こうした前提はアルには通用しない。
「そうか、前提を知らないんだったか。
オレは戦闘適正だと、探索者向きじゃ無いんだ。魔物よりは対人戦向きだからな」
戦闘能力に関しては、主に迷宮に潜って魔物に対している探索者と、敵対国や犯罪者等の人間に対している兵士や騎士、傭兵等とでは、普段の訓練内容や行動指針からして異なる為、その戦闘適正は大きく異なる。
戦闘能力がいくら高くても、戦闘適正が低ければ、能力の低い相手に負けるという状況は数多くあるのだから。
しかし、虹銀ランク探索者は適正によってなるのではない事、そして過去との関連で、アル=ローウェンという人物は、対魔物よりも対人に適正が高い、特異な探索者であったのだ。




