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16 新たな二つ名

諸事情で投降が途切れてしまいましたが、再開です。

 探索者ギルドの特別訓練場は、広さとしてはそこまででは無いが、闘技場の様に観覧席が周囲を取り囲んだ作りをしている。

 常時の目的として、上位ランク探索者の実演や、稀にある探索者同士の決闘を行う為に用意されている場所ではあるが、先のアルとライザの決闘の様に、観客等周囲にあまり影響を出さずに済みそうな場合は他の、通常の訓練場が使用される為、あまり使われる事は無い。

 今回の場合、武器の試しにより、どういった影響が発生するか不明の為、観客席との間にしっかりとした結界防壁が張れる施設が必要であろうという事で、特別訓練場が開放されたという経緯となったのである。

 まあ、簡単に言えば結界防壁にかかるコスト、つまりは魔石消費費用を減らす為に、余り使われないという事情がそこにあるのは公然の秘密であったが。


 しかし、わざわざ良く別訓練場での武器の試しは、早々に終わった。


 ライザの剣はアダマントと、竜鱗粉を混ぜた、強度に優れた合金であるアダマンタイトの塊が用意されたが、まるで熱したナイフでバターを切る様に、力や勢いが無い状態でさえ簡単に切り裂いた。

 イルナの杖は、軽く当てた程度でも、三倍程度のイメージでアダマンタイト合金を容易く拉げさせた上で、数メートルも跳ね飛ばした。

 はっきり言えば、無茶苦茶である。

 用意された合金は、素材で言えば白金ランクであり、人が作り出せる物としては最上級の一つなのだから、虹銀ランクである神器や伝説級の武器防具、あるいは神獣等の魔物以外であれば容易く切り裂き、または打ち潰す事が可能であるという事を示した事と同意なのだ。

 しかも、魔法的な効果によって成されている為に、それが結界や強化防御力と言った魔法的な対象であっても、同様の結果となる。

 つまり、通常考え得る物理防御、魔法防御のいずれも相応に無視した結果となると、観覧者達に突き付けたという事になる。

 流石に虹銀ランク素材や魔物に対する結果となれば、試す事も実質的に困難である為に分からないが、それこそ白金ランクであっても、通常であれば相対する事がほぼ無いのだから、ほとんどの探索者にとっては驚異でしか無い事は簡単に理解出来る。

 何しろ、攻撃が当たればそれで終わり。防御の一切が意味を成さないのだから。

 マディナによって、虹銀ランク関係者に関わる事への意味を感じさせる目的で用意された試しの場は、早々にそれを目にする事となり、観覧者達は声を失ったのであった。


 多くの探索者にとって、それは畏怖を感じる光景であった事は確かだ。

 しかし、本当の意味で声を失わせたのは、武器よりも、その後に行われた防具の試しが大きかった。

 今回、装備と外見を大きく変え揃えた事に合わせて、エーファによって二人用に、新しいローブが用意されていたのだ。

 そのローブは、形こそローブであったが、半透明シースルーで、やはり光の反射で淡く虹色に輝く生地で織られていた為、ライザとイルナの姿を隠す事も無いどころか、どこか神秘性さえ帯びさせていた為に、余計にギルドに現れた時に目を引いたという事でもあった。

 そんなローブには、背面に六枚の垂れがあり、アルによって重力魔法と開放魔法の刻印が成されていた。

 魔力を通し、刻印魔法を発動させる事により、開放魔法によって着用者の周囲に保護結界を生じさせ、重力魔法によって空中を飛ぶ事を可能とし、重力魔法と開放魔法の組み合わせによって空中での姿勢制御と移動を可能としているのである。

 加えて、魔法が発動すると背部の垂れが、まるで羽の様に広がり、同時に丈の長いローブがたなびく為、より一層神秘的な姿を現していた為に、より観覧者達に声を失わせたのであった。

 

 ある者は言った。『天使、あるいは天女である』と。

 ある者は言った。『虹銀ランクの従者は神の御使いである』と。

 ある者は言った。『人ならざる不可侵の存在である』と。


 そしてその場でライザには“戦天使ヴァルキュリア”、イルナには“光天女セレスティアル・メイデン”の二つ名が生まれるに至ったのだが、これがエーファというシルキーのノリで用意された衣装的外見が理由である事は、当事者を含めた極一部の者以外に知られる事は無かった。

 勿論エーファとしても、外見的インパクトで二人との関連性を失わせようという狙いこそあったものの、ここまでハマるとは想定していなかったのだが。

 ちなみに、蛇足ではあるが、空を飛ぶ為の刻印魔法の組み合わせが付与された段階で、想定されるライザの短いスカートや、イルナの広がった裾から、中が覗けない様に魔法的処置が施されているのは、アルの独占欲の現れであるとして、やはり極一部の者から暖かい目で受け入れられる様になる事を、アル本人が知らなかったのは、アルにとっては幸いであったのかも知れない。



 新しい装備の試しと、その前後でマディナからの話しを聞き、二人は天浮島を経由して帰宅した。

 ギルド長室から転送門に向かう間、ギルド内を通った時に『戦天使だ』『光乙女だ』と声が挙がっていたが、二人は色々考え込んでいた為に、その声が耳に入っていなかった。

 その時に入っていたら、その二つ名は定着せずに済んだかも知れないけれど、もはや手遅れとなった様であった。

 ともあれ二人が考え込んだ原因は、マディナに聞いた話しの中の一つ、何故虹銀ランクという最高峰のランクを与えているのか、その理由に関してであった。


『経験と実績によって、その立場を保証するのが探索者のランクです。

 金Ⅲランクでさえ、下級貴族と同等の扱いと見なされ、当然そのランク認定に見合うだけの実績と人柄を必要とするのはご存じですよね。

 単に戦闘力が高いというだけでは、金Ⅱランクが最高位となりますし、素行が悪ければそもそも、金ランクに昇格出来ません。

 虹銀貨所有者はその力故に、取り込もうとする者は後を絶ちませんから、人との繋がりを避ける様になる傾向が非常に高いのです』


 という言葉だ。

 これは当然の事であろう。

 それなりの家柄で生まれ育ち、そういう環境に居たのであれば未だ、割り切りも出来るであろうし、そもそもある程度の想定、心構えもあるのだから。

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