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Extra4 ギルド長の疑問

 特別訓練場で訓練を始める前に、ライザとイルナはギルド長室に連れて行かれた。

 別に、騒ぎを問題視したという訳では無くて、単純に試しの為の前情報を得たいという理由と、観覧希望探索者の整理を行う為の時間を要する為、という理由説明であったが、それは理由の半分であり、もう半分は、折角アルが居ない状態なので、マディナが二人に話しておきたい事があったのだ。


「成る程。そういう理由で髪色や目の色も変わっていたんですね。

 それにしても、流石にその装備は驚きですけれど」

「あー、流石にこんなのを持ち出したら、マズかったですかね?」

「いいえ、そういう意味では無いですよ。

 むしろ、よくその装備使用が許可されたなあと思いましてね」

「えっと、どういう意味なんでしょう?」

「簡単な話しですよ。

 ある程度の装備程度なら、確かに安全性を考えれば、それなりに無茶な物を出して来そうですけれど、そこまでの物となると逆に、使用者を選びますからね。

 あの子、ああ、アルがそんな物を貴女達に渡すのが、少し意外だったんですよ」


 例えば防具。

 より良い素材の物であれば、防御力が高くなり、その分確かに安全性は上がる。が、しかし、それは単純に上がるだけであり、その身に纏う者との差が大きければ意味は無く、むしろ危険性も同時に上がる事となる。

 確かに、防護力が上がればその分、これまででは防げなかった攻撃も防げるだろう。

 しかし、これまで防げなかった様な攻撃を防ぐという事は、その分の衝撃もまた、その身に受けるという事であり、むしろ結果として、苦しみが続く可能性もあるのだ。


 例えば武器。

 より良い素材の物であれば、攻撃力が高くなり、その分確かに安全性は上がる。が、しかし、それは単純に上がるだけであり、それを扱う者との差が大きければ意味は無く、むしろ危険性も同時に上がる事となる。

 確かに、攻撃力が上がればその分、これまででは手に負えなかった相手にダメージを与えられるだろう。

 しかし、これまで手に負えなかった相手にダメージを与えるという事は、その分そういう相手と相対するという事であり、むしろ結果として、攻撃を受ける可能性もあるのだ。


 無論、それなりに良い装備は、安全性を上げてくれる。

 しかし、その差が大きくなれば成る程、使いこなせない部分が出て来て、単純に安全性が上がるだけとは言えなくなる。

 これまでと変わらない程度の相手を想定してであれば、優位性は上がるだろう。

 しかし、良い装備を身に纏う事はそれだけで、それを狙う者も現れるし、その効果を期待した依頼を受ける状況も出て来るのだ。


「正直なところ、もう数ランク下の装備ならばまだ、分かるんですけどね」


 そう言いつつ、部屋の隅から金属製と思われる棒を二本持って来たマディナは、先ずライザに、上から振り下ろすので、身体強化した状態で、剣で受けてみる様に言った。

 軽く振り下ろされる棒に対して、それに合わせる様にライザは受けたつもりであったのだが、何の手応えも無く棒は切断され、切れた先はライザの肩に当たってから床へと落ちる。

 その様子に呆然とする二人であったが、マディナは間を置かず、次はイルナに、今度は棒を杖に当てる様にするから、二倍程度で跳ね返すイメージで魔力を通す様に言った。

 軽く杖に当てる様に振られた棒は、杖に当たったと思われたその瞬間に、小さな反動をイルナに与えると共に、当てた部位がひしゃげて反対側へと弾け飛び、残った先の部分がイルナの腕を打つ。


「さて、今の様に、本当に軽く合わせただけで、この結果です。

 勿論当たったところで、防具の方で防ぐでしょうから、その事だけで大きなダメージを受ける事はほぼ無いでしょうけど、それは相手がそこで攻撃を止めてくれた場合、ですよね。

 それ以前に、その武器、今の貴女達にとって扱い易いですか?」


 そう、ランク差が有れば有る程に、扱い難くもなるのだ。

 例えばランク差が一つ程度、黒鉄Ⅲランクの探索者が銀Ⅰランクの魔物と闘った場合、絶対に倒せないとは言い切れない。

 運が良ければ、慎重に事を運べば、倒せる場合もあるだろう。

 しかし、黒鉄Ⅲランクの探索者が銀Ⅲランクの魔物と闘った場合はどうだろうか。

 はっきり言えば、逃げる事さえほぼ不可能という状況となる。

 それと同じで、差が広ければそれは、十分に活かし切れない状況を生む事にもなる。


「そんな状態の物を、あの子がお二人に渡すと言うのが、納得出来ないんですよね」

「ええと、それって虹銀ランク探索者の身内に見合ったレベルに、自分達を上げろっていう事なんじゃないですか?」

「それは無いわね」

「え? でも」

「あの子、アル=ローウェンの過去の話は、お二人は聞いているのかしら?」

「邪神崇拝の事、ですか?」

「そう。その辺りを聞いてるなら問題は無いでしょう。

 あの子のこれまでの人生、その多くは正直なところ、恵まれていないなんて言う程度のものでは無いわ。

 そもそも自分の意思も無く、それが当たり前として押し付けられてきた世界こそ、あのこの世界のほとんどだったわけだからね」


 アル=ローウェンは現在十七、その内の十四年は邪神となる為の対象、その一人という扱いでしか無かったのだ。


「だからこそ、家族、身内、他者との関わり方は相当に鈍く、薄く、そして特殊よ。

 知識としては“知っている”みたいだけれど、それだけでしか無いから、他者との関わりも表面的なものが基本なのよ。

 ただ、人間として、と言うよりは生き物としてかしらね、本能の部分では関わりを求めている部分もあるでしょう。

 そういう部分によるんでしょうけれど、あの子は一度認め、受け入れた相手、つまり身内には異常な程甘いのよ」


 甘すぎる程に甘いから、どんなに高価な、どんなに稀少な装備であろうと、それを順々に与え、慣らして行くくらいの事は無意識下ですら行う。

 何しろ、それ以外には無関心か殲滅対象のどちらかしか居ない程なのだから。


「まあ、何か考えあっての事なんでしょうけれどね。

 それより、そろそろ準備も終わったでしょうから、もう少し話したいなら、試しを終えてからにしましょうか」

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