15 受け入れ、或いは諦め
「うん。何でアルが、と言うか、刻印魔法が扱える人達が表に出て来ないのか、分かった気がするよ」
「そうだね。便利かも知れないけど、危険な物もいっぱい出来そうだしね」
「実際には、刻印魔法の取っつき難さとか、広がり難い事情もあるけど、概ねそんな感じだな」
そもそもの話し、刻印魔法は表意文字を、方式に従って並べる事で成立する。
つまりは表意文字そのものへの知識が必要となる。
加えて方式に従うその規則性もまた、きちんとした知識を要する事になるのだから、簡単な物であればともかく、相応の付与効果を発揮させるのであれば、相当な特殊知識が不可欠となるのだ。
対して儀式魔法に用いる魔法陣は、記述は特殊とは言え古代神語と呼ばれる言語で記述する為、言語知識が有れば記述出来る。
記述方式も、記載された内容が発動する為に不要で、それこそ最初に属性が記述されようが、最後に属性が記述されようが、魔法陣の中に記載されていれば有効となる。
そう考えれば、難易度が全く違う事は明らかなのだ。
この大きな差が、一般的な付与魔法は儀式魔法を用いて行われている最大の理由となるのである。
逆に言えば、その分刻印魔法が扱える者の価値が高く、その優位性は非常大きい事から、時には強権を発動し、時には表に出せない方法での取り込みさえ行われる事となり、余計に扱える者達は、表に出て来なくなっているのだ。
この悪循環を避ける為、扱える者の地位向上によって、一定の安全を図ろうと取り組んだ国もあったが、そもそも難易度の高い魔法である事から稀少な存在である事は変わらない為に、他国はおろか国内からも狙われる事を防ぐ効果は低かった経緯があるのだ。
・・・ただ、一つだけ明らかな事がある。
この手の難易度が高いものを扱う様な連中に、割と良くあるパターンに『何となくやってみた』というのがある。
先のアルの発言、『どこまで出来るのか試してみた』というのは、この最たるものであろう。
その結果は“やり過ぎ”という結末を産む事になる。
結果の産物を求める側からすれば、それは価値が非常に大きいのだが、やらかす側からすれば、求められる物を作ろうという気質の減少が進んだ状態にあるのだから、互いが反発し合う状態となるのは避けられないのだ。
閑話休題。
「まあ、遺失技術クラスなのはもう、アルとエーファだから仕方が無いとして」
「・・・ねえ、ライザ。やっぱり何か間違ってる気がするよ?」
「仕方無いとして! 私達はアルに守られてるって思えば、これはこれで幸せだよね」
少なくとも、ライザが現実逃避を覚えた事は、間違いが無い様であった。
「あ、でも、もう一つ気になった事があるんだけどね、自重して無いって言ってたけど、付与出来るのって最大六なんだよね。
実際には重量軽減と切断、あと復元の三つだけかな。私達が知らない付与が未だされてるなんて事、無いよね?」
杖の方は、素材に対する付与なので目一杯行っているが、剣は素材に対して二面ずつ、計六の付与が行えるのは形状が理由となる。
実際には杖にしろ剣にしろ、スペースに空きが有るので刻印魔法であれば、未だ付与する事は可能ではあるのだけれど、魔力の流れ的に効率良く効果が得られるとは限らない事から、杖は三、剣は六が最大と考えた方が確実なのだ。
実際に刻印してみた結果、効果が落ちた、他の刻印に干渉して発動しなくなったでは、その杖や剣自体がガラクタ化してしまうのだから、余裕を持って止めておく事が望ましいのである・・・が。
「あー、勘違いしてるかも。
剣も杖も、それ自体には二つずつしか付与してないぞ。
復元は剣の方は鞘に、杖の方はホルスターの方に付与してあるから、両方とも二つ。
そこにこれから、個人認証用の付与をするから、それで三つになる。
剣の方に空きが有るのは、これ以上の付与は使う人によって変わるだろうってだけだから、ちゃんと空いてるぞ」
ちなみに、杖には十の属性魔宝が施されている為、使用者を考えなくても十分だろうという判断の結果だった。
この魔宝は、ライザの場合は剣状の帯布それぞれに、飾りの様に取り付けられていて、杖程効率的に魔法発動支援効果は無い反面、魔法耐性効果は上がっている状態となっている。
「まあ、剣への付与追加は、実際に使ってみて何か思い付いたら言ってくれればそれで良い。
とりあえず特定認識だけやっておこうか」
明けて翌朝。
ライザとイルナは武器の試しを行う為に、二人で行動していた。
使う武器が虹銀ランク探索者の従者という時の物である為、二人共、昨日行った変色薬効果を維持したままであった。
当然ながら、天浮島経由でギルドの敷地内に設置された転送陣に出て来たのであるが、そこは虹銀ランク探索者本人であるアルが居ない状態。
王侯貴族やギルド上層部だけで無く、それなりの古株や大手チームやクラン、有名探索者辺りにも、虹銀ランクは不可侵である事を知っているが、それで実際に干渉しない、自分達のところに引き込みたいと思わないかと言われれば、当然否となる。
そこに、本人ではない、従者の様な状態と認識されている二人だけが現れれば、そこを経て繋がりを持てないかと考える事は、別段不思議な事では無いだろう。
ましてや今は、薬草採集のお祭り騒ぎで、各地から探索者を始めとして、商人等、様々な人達が集まっているのだから、余計に騒ぎは大きくなる。
そして、そんな状態を見れば、事情が分からない、あるいは虹銀ランクに対して表面的に“探索者として最高ランク”程度の知識しか持たない多くの探索者も、万が一と考えて混ざり、ギルド内が大騒ぎになるまで時間はかからなかった。
収拾がつかないと思われるその騒ぎを収めたのは、いち早く状況を見定めて報告に走った職員の知らせで出て来たギルド長、マディナの一声によるものであった。
曰く、『本人ではなくても、その行為に不満を持たれれば、その瞬間に虹銀ランクが敵に回るぞ』と。
その上で、ライザとイルナが出て来た目的を聞き、その試しの為にギルドの特別訓練場を貸すので、希望する探索者にそれを見せて欲しいという依頼が行われたのであった。
依頼の目的は、虹銀ランク探索者の関係者と、一般探索者との明確な差を見せつけておく事。
要は示威行為である。
本人ではないからと、どこかで甘く見て、馬鹿をやらかす可能性を摘んでおこうという訳である。




