12 虹銀装備への変更
「まあ、その製法自体、広まる可能性が低い事は分かった。
確かに、それなりに変装効果はあるだろうけど、それなら髪型や、装備も普段とは変えないと厳しいんじゃないか?」
実際のところ、ライザとイルナの今の装備は、全体をローブで隠してはいるものの、それ以外の防具はアルから貰ったものだ。
防具屋で売っていた物に付与を施した為、見た目だけで言えば他者も同じ装備が出来ない訳では無いけれど、防具として考えるとかなり高価な物であり、少なくとも現状ではクレリアナで、一部でも同じ装備を纏っている者は居なかった。
そこへ、いくら髪と目の色を変え、印象を変更したとしても同じ装備では、変装の意味は薄いだろう。
「防具もそうだし、武器も変えるべきだろうなあ。
エーファ、どう思う?」
「はい、マスター。
奥様方には別室保管の装備品を提供するべきかと。
それと、髪型も変えた方がよろしいと思います」
「あれかあ・・・あんまり表に出したくないんだよな」
「マスター、お言葉ですが、奥様方は“身内”ですので問題は無いかと」
「あー、まあそうなんだけどな。
いいか。二人の安全性も上がるし。
それじゃ、折角髪と目の色も変えてる事だし、エーファは二人に見繕ってやってくれ」
「畏まりました。
それでは奥様方、こちらへ」
そう言ってエーファは、ライザとイルナを案内しようとする。
二人は当然、今の会話の事が分からず、呆けた状態であったのは、アルもエーファも説明していないのだから仕方が無いところだろう。
「ええと、アル。つまりはどういう事なのかな?」
「ん? ああ、オレのこの虹銀ランク時の装備と一緒で、天浮島素材で作った装備があるから、二人にもそれを、って事だな」
天浮島素材、つまりは他に出ていない独自素材での装備という事になる。
だからこそ、あまり表に出したくなかったし、実は倉庫に隠し扉があり、その奥に秘蔵してあるのだ。
その割に、女性用装備等までもが作られていたのは、作りや面積率等々での効果を調べる為であったが、作っても安易に処分出来ない為、秘蔵、と言うより実質死蔵し隠されていたという事情である。
そして、みんなが装備合わせを行っている間に、アルにはもう一仕事有った。
天浮島の移動である。
通常時は、アルが拠点としているクレリアナの上空四千メートル以上に在る為、肉眼で見る事も、地上に影を落とす等して影響を与える事もほぼ無いが、地上を探索するには高度はともかく、半径五十キロ程度の制限がある為、探索場所付近への移動が必要となる。
移動、と言うより、天浮島の制御は二種類あり、細かな制御は天浮島の設備を用いなければいけないが、単純な制御だけであれば、所有する虹銀貨を介して、魔法を用いる様に制御内容をイメージし、魔力を送ればそれで済む。
今回移動させ、探索に用いるのは迷宮島の方だ。薬草島の方は、年に一回行っている採集時期が近い為、移動させる訳にはいかないのだ。
アルとの契約によってギルドが行っている採集は、クレリアナにとってお祭りでもある為に、その期間に前後を含めて一週間程、普段目にする事が無い天浮島を上空数百メートル、時には百メートルを切るところまで降ろし、その姿を表す事になっている為だ。
それによって、ギルドから信任された探索者が採集するだけでは無く、天浮島の偉容を目にしようと、近隣から集まってくる者達も出る為、お祭り騒ぎが更に大きくなり、結果としてより大きな経済効果が生じるのだ。
とは言え、アルが虹銀ランク探索者となってから未だ二年、実際に薬草採集によるお祭りも二度目でしか無い為に、昨年で情報が流れた事から、今年は更に多くの人出が想定されていた。
加えて、今年は試験的に採集期間を一週間とした為、天浮島の偉容は、その三日前を含めた十日間、クレリアナ傍の草原上空に在り続ける必要があるのだから、今この時点で動かせるのは迷宮島の方になるのであった。
「マスター、奥様方の着替えが一通り済みました」
綺麗に一礼するエーファの姿は、妖精シルキーと言うよりも、出来た侍女という印象であったが、この態度は住人に対するものでしか無く、中身は悪戯好きの妖精であることは変わらない。
「着替えは良いけどさ、何でそれなんだ?」
それが、エーファの後から入って来た、ライザとイルナの装備を見た、アルの最初の一言であった。
二人に共通するのは、防具、と言うよりも服という感じの装いが、光の反射によって淡く虹色に光る事であろう。
その点で言えば、アルの虹銀装備と同じだが、黒地をベースとしているのに対し、二人の装備は白地をベースとしている事だろう。
ライザの装備は、ドレスの様に、肩や胸元が露出しているが、スカート部分は短く膝上だった。
そこに、腕には肘までを覆う手袋、足には膝を覆う長さのソックスに、膝下までのロングブーツ。
その上から、スカート状に腰から足下を覆うのは、聖職者が肩からかけるストールの様な、剣状の帯布で覆われている為、立ち止まっていればロングスカートの様にも見えるのだが、動けばスカートとソックスの間に露出した、白い太ももが覗く。
イルナの装備は、教会の聖職者が着る様な立ち襟の服は胸元まで開き、袖は袖口に向かって広がる形。
一見ロングスカートの様に裾に向かって広がるズボン。
その上には、大きな襟に、腰辺りまでの丈のマントを羽織っている。
露出度的にはライザの方が多いが、イルナの方も十二分に女らしさが漂うものとなっている。
髪型も、ライザは髪を左側で一つに括り、イルナは首の辺りで一纏めにした上で右肩から前へと垂らしていた。
「雰囲気はまあ、普段と全然違うのは認めよう。
ただ・・・」
「あ、やっぱりこの初期装備って、ダメだったかな?」
一応ライザもイルナも、エーファから簡単な説明は受けていた。
所謂隠し部屋の中に仕舞ってある物は、表に流せばそれだけで、かなり騒ぎになる様な代物だと言う事を。
何しろ、実際には家の敷地内では無く、天浮島に造られている倉庫と言うだけで、そもそも忍び込む事はほぼ不可能であるのに、更に隠し部屋に仕舞っているのだから、それだけでも慎重な扱いが分かるのだ。




