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09 推測と対策

「国軍二百とは言え、此処を落とすつもりなら、少し数が少ないかな」


 普通に考えれば、王家直轄地を国軍が落とす必要は無い。が、街壁に工作を仕掛けている以上、クレリアナに何かしら仕掛けるつもりなのだろう。

 とは言え此処は迷宮都市でもある。

 他の町や都市と比べても探索者という“戦える者”が集まっているし、王家直轄地である為に配備されているのも私軍では無く騎士及び兵士だ。

 国軍とは言え貴族の私兵が二百で落とせるレベルでは無い。


「どさくさに紛れてオレをどうにかするつもりであれば、そもそも事前に手出しはしないだろうし」


 軍がクレリアナを攻める事自体が陽動で、その隙に虹銀ランクを狙うというつもりであれば、そこでこそ斥候兵の出番だろう。

 それを先んじて襲撃したのであれば、むしろ最大戦力を潰しておきたかったと考える事が出来る。


「或いは、そう見せかけた上で、他の場所狙いか?」


 街壁に仕掛けを行い、虹銀ランク探索者にも手を出しておけば、クレリアナが標的だと思わせる事が出来る。

 そこに意識を向かせておいて、実は他の場所が狙いであれば、確かに策としては有りだろう。

 しかし、そもそも代官経由での情報では消息不明だ。つまり、昼間は森等に隠れているなどして、現状ではその動向が把握出来ていないのだから、狙いを逸らす必要性は少ないと言えるだろう。

 その場合有り得るのは、クレリアナの近隣か、或いは全く逆方向に狙いがあり、クレリアナに目を向けさせておく場合だが、そうなると子爵軍の動きは侯爵軍とは別の可能性が高い。

 何しろ、王都とクレリアナの間に子爵領が位置するのだから、全く逆側を狙うとなると王都側への移動を要し、動向が把握される可能性が上がるのだから。


「しかしなあ。ここに来て時期を同じくして別々の動き、とも考えられないよな」


 子爵軍が動く理由として考えられるのは、子爵が捕まった時、あるいは子爵が処罰される時であろう。

 しかし、子爵が捕まってから時間を経ている事、そして未だ子爵への対処が決まっていない此処での動きとなると、子爵軍単独での動きとは考え難い。

 そうなると・・・。


「なあマディナ、東方軍にリオネロの私軍はどのくらい混ざってるんだ?」

「東方軍に、ですか。

 ええと、報告書上ですが騎兵五十、特兵五十、重歩兵三十、歩兵三百ですね。全体のおよそ半数が侯爵軍から・・・って、まさか」

「ああ、東方軍は現在、調査の手が入っているとは言え、そもそも辺境伯に貸し出されている形での警戒展開中の軍だ。

 東方軍内部と、侯爵軍と子爵軍による外部とから連携して動けば、隣国アーラース王国との緊張を増す事も可能だ。

 狙いがアーラースとの連携なのか、或いはアーラースが動いた隙を突いてのものかは分からないが、可能性としては大きいだろ」


 隣国アーラース王国との国境線を有する、ロモ辺境伯領に配備されているのが東方軍となる。

 辺境伯とは、その領地が他国との国境に面している為に、有事の際には独自に軍を動かせる権限を有しており、東方軍司令を兼ねている為、貴族階級こそ伯爵ではあるが、扱いとしては侯爵と同様となっている。

 そもそもここ数年の改革によって、王家傍流である公爵家が侯爵位となっている為、辺境伯は王家直系の血筋を除いた貴族家としては一番位が高く、当然その分、私軍の規模も大きい。

 しかし領地は他国に隣接している為、私軍だけでは有事の際に不足となる事から、他貴族の私軍からも援軍が指揮下として入っているのだった。

 東方軍に編成されているのは、東方貴族に分類される貴族の私軍で、これは王都を中央に見立て、その東側に所領を持つ貴族の事である。


「東方軍の中には当然、バード伯爵家の私軍も含まれていた筈だが、これは当然、ペラガルロ子爵の意に従う者達に置き換えられているだろうしな」


 つまり、だ。ここで侯爵軍と子爵軍が組んで動けば、内部でも同調して騒ぎが起こし易いという事になる。

 加えて言えば、辺境伯の私軍は国境線の監視もその任にあるが、援軍である他貴族軍は辺境伯領都にある東方軍地で、有事に備えているのだ。内と外から一気に領都を落としてしまえば、国境線に置かれている辺境伯軍は隣国と挟まれ、十分な動きが出来なくなる事は明らかである。

 勿論、その為には間にあるクレリアナが邪魔となる。

 しかし現状では、狙いがクレリアナにある可能性は無視出来ない状況の為に、此処の守りを薄くは出来ないのだ。


「距離的に一番近いクレリアナが防御に徹するしか無い現状では、ロモ辺境伯領都で有事が起きても、迅速な対応は出来ないだろう。

 実際に事が伝わり、準備し、動いたとしても、領都に援軍が着く迄に五日以上は必要だろうしな」

「狙いはロモ辺境伯領都、アドルファーの街である可能性が高い、そういう事ですか」

「勿論、そう見せて更に別、という可能性もあるけどな」

「・・・動きようが無い、ですね」


 可能性という点だけで言えば、辺境伯領都アドルファー狙いである可能性が一番高い。

 そもそもが国境に面した辺境伯の領都であるのだから、その位置も隣国、アーラース王国に近い。

 特に国同士で不仲という訳では無いが、辺境伯を置く程なのだから当然、仲が良いという訳でも無い。

 そんな状態で、バゼーヌ王国内での混乱があれば、その隙を突いてアーラース王国が軍を動かす可能性は大きい為に、バゼーヌ王国としても動き難い要素となる。

 上手く行けば、ロモ辺境伯領をそのまま奪い、小国として独立する事も可能となるだろう。

 アルが報償を蹴った事で、蜥蜴の尻尾切りで済ませる事は出来なくなった事から、王太子はリオネロ侯爵にも詮議の手を進め始めていたのだ。侯爵がいくら王家傍流であるとは言え、内容が内容である為に、ルネッリ公爵家自体の取り潰し、リオネロは罪人となる可能性が高かった。

 つまり、リオネロ自身が、バゼーヌ王国での居場所を失いつつあったのだから。


「まあ、ここは天浮島を動かすしか無いだろうな」

「まさか、天浮島で撃退を?」


 恐る恐る、マディナは問いかけた。

 何しろそれは、一番避けたい手段であったのだから。

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