08 暗雲
明けて翌日、とりあえず武器を確保している事を知らせておいた方が良いだろうと、アルは朝からギルドへと来ていた。
毒物の解析作業をしたいという事、また襲撃者が居た事から大事を取って、イルナは家で留守番する事にした為、ライザも一緒に家待機となった。
何しろ、イルナが作業するのは天浮島である為、どこよりも安全と言えるのだ。
アルも虹銀ランク探索者としての格好で、天浮島から転移門を使ってギルドに移動するのだから、危険性はかなり低い。
ギルドに着くと、その姿を見つけた職員からギルド長室に案内された為、マディナの方からも何かしらの話しがある様だと気付く。
あまり頻繁にギルド職員やマディナが家に出入りすると、必要以上に注目を集める可能性がある為に、基本的にはギルドに顔を出した時に、必要が有れば呼び出す形としていたのだけれど、用事がある場合の連絡手段を考えるべきかと思うアルであった。
「おはようございます。
朝から来られたという事は、何かありましたか」
「ああ。うちのシルキーから報告受けてな」
襲撃した連中の動きや、武器と毒物を回収した事を報告する。
流石に王国の、しかも暗部の装備品である為、ギルドに提出するのは自制し、持って来てはいないが、実際にはその程度、既にギルドでは現物を含めて情報を掴んでいるであろう事は推測済みである。
あくまでも、持って来なかったのは表面的に、自分からは王国に配慮したというポーズを作っただけである。
「そうですか、分かりました」
表面上は平静に、しかし心の中では頭を抱えるマディナであった。
何しろ、形の上では虹銀ランク探索者であるアルは、探索者ギルドに属する扱いなのだから、そこへの国軍暗部による襲撃は、ギルドとして無視しておける話しでは無いのだ。
勿論、基本的には明らかに国の方が問題であり、不当に探索者が扱われている証拠があるというのでもなければ、ギルドが一々介入する事は無い。どこの国にも勢力にも属さないという独立性を保ち、運営されるという大前提が、国家権力等によって覆される様な事態でなければ、探索者個々に生じる問題等は自己責任の範疇として扱われるのだから。
しかし、今回の場合はギルドの中でも最高ランク探索者に対する介入行為である。
しかも、王国の暗部が動き、その数も二十四人と多い為、それ自体が既に異常である事に加え、その異常事態に対して王国の方から事前にギルドへの通知も無い。
軍の斥候部隊二十四人など、それこそ国同士の戦争時でもなければ動く人数では無いのだ。
それらを含めて考えれば、バゼーヌ王国がギルド最高ランク探索者に対し、一方的な襲撃を行ったとも取れる。つまりはギルドの勢力を削ぐ為の、国家権力の介入と見る事も出来るのだから、自己責任の範疇として扱う状態を越えている。
一つ間違えれば、バゼーヌ王国とギルドの全面戦争にもなり兼ねない事案となるのだ。
但し、マディナも深夜の内に、代官より一つの報告を受けていた為、ここで頭を抱える事になっている問題は、それを聞いてアルがどの様な行動を選択するかによって、ギルドを巻き込んだ大きな騒動に発展しかねない為であった。
「こちらにも一つ、代官から報告が入っているんですけどね」
「その言い方だと、あまり良い話しでは無さそうだな」
「そうですね。良い話し、では無いですね。
リオネロ=ルネッリ侯爵の事です」
それは、ペラガルロ子爵の言い分に同調して、ライザとイルナの引き渡しを要求していた、バゼーヌ王国軍務局長の名であった。
既に知らされていた王国の対応からは外されていた事から、アルは不満を感じ、王国側から示されていた報償を蹴る事で、意思を示した相手でもある為、アルの意識も今まで以上に緊張を帯びる事となった。
「リオネロ侯爵が自領から姿を消しているそうです。
同時に、侯爵の私軍から百五十人程、確認出来ない状態とか」
「それは、何時発覚した情報なんだ?」
「詳細までは不明ですね。
ただ、ギルド経由の情報と合わせると、少なくとも三日以上前かと。
それとですね、関係しているかは現状では不明ですが、国軍預かりとして軟禁状態にある、ペラガルロ子爵の私軍から五十名程の消息も分からなくなっているそうです」
国によってその扱いが異なるものの、バゼーヌ王国の場合は基本的な軍制が引かれている。
国が持つ軍関係は正式には、王家を直衛する為の近衛騎士団、一人一人が最低でも中隊長権限を有する騎士で構成された騎士団、そして兵士や衛士をとりまとめた軍となる。
これらは王国直下の構成であり、王国軍となると、各貴族が持つ私軍がここに加わる事となる。
通常時は各貴族の資産によって賄われ、運営されている私軍ではあるが、いざ他国との戦争や、大規模な魔物の討伐等が行われる場合は、王国軍として動く事となる為に、ある程度は王国直下の軍と同様の装備が配備されているのだ。
「ふむ。それで、その消息不明な連中の構成は?」
「侯爵軍は騎兵が十、特兵が五十、重歩兵が二十、残りの九十程が歩兵。子爵軍は重歩兵が十、残りの四十程が歩兵という事の様ですね。
なお、侯爵軍は即時展開可能であった待機部隊、子爵軍は一部を除いたほぼ全軍の様です」
騎兵は、そのまま騎乗した兵の意味だけれど、十程度となるとおそらくは副将や部隊長程度で、実際に騎兵としての働きは考えていない可能性が高いだろう
重歩兵や歩兵もそのまま。
問題は特兵となる。これは文字通り特殊兵となるが、この枠の中には斥候兵に加え、輜重兵や医療兵も含まれる。
先の暗部にも関わる斥候兵二十四が、この五十の中に含まれていると考えた場合、残りは半数程度。兵の数から考えると、既にほとんどの斥候兵が居ない状態と考えられる。
「で、家を襲撃した連中はこの中に含まれるのかな?」
「その様ですね。
真偽官立ち会いの元で言質を取ったところでは、侯爵軍の者達だと代官から報告を受けています。
クレリアナへの工作も、この者達による様ですよ」
つまりは先行偵察を兼ねて都市への工作、そしてアルの家に襲撃をかけたという事であろう。
では、その意図とは何なのだろうか。




