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06 新しい家人

 そもそもシルキーは、家を守る習性はあっても、所詮嫌がらせをしたり、怖がらせたり程度の影響しか無い存在である。というのが通説だ。


「まあ、家のシルキー・・・エーファという名前なんだけど、家の範囲が二つの天浮島も含まれてるみたいで、その結果か能力が異常な程凄くてね」

「凄いって・・・」


 アルを含めて全員が苦笑いではあるが、アル以外は『アル関係だから』と思っての事であったのは内緒である。


「まあ、ここまで話しを聞けば、何となくオレに話しを振った理由も想像は付くけど」

「はい。その二十四人は国軍の斥候部隊所属の者達の様です」

「それは装備から?」

「そうです。

 実際の照会に関しては、代官を介して王都に確認中ですが、未だ一刻程しか経っていないので、暫く時間が必要でしょうね」


 斥候部隊と言えば聞こえは良いが、国軍は探索者と違い、迷宮に潜って罠を解除したり先行偵察する事は、訓練の時程度であってほぼ無い。

 軍務で罠や鍵の解除と言えば、それは敵性勢力内への潜入等で行われるものであり、先行偵察も戦争中以外では同様となる。つまりは国の暗部に属する部隊と言える事となる。

 自国の暗部が自国内で活動していない、等と考えるとすれば、今此処に居る面子の中では一般民であったイルナくらいのものであろう。

 とは言っても、一都市に二十四人は流石に多いし、それが虹銀ランク探索者の家を探っていた可能性が高いとなると、その国の常軌を疑わざるを得ないだろう。

 その為、マディナは在住都市の問題として代官に対し、急ぎ情報を上げた訳だし、代官としても虹銀ランク探索者に対し、自国が喧嘩を売った可能性が有るともなれば、自己判断で対応出来る域を逸している。

 その為、緊急時の連絡手段を用いても、王城へと問い合わせたであろうし、王国としての返答も、何を置いても最優先で返答を変えして来る事が推測出来る。


「ただ、アルさん達の依頼報告と合わせますと、此処クレリアナの街壁に、何か仕掛けを行っていたのも、おそらくは同じ部隊でしょうね」


 このマディナの推測は、ほぼ当たりであろう。

 少数人数の暗部に属する者が動いているのであれば、まだ個別の可能性もあるが、アルの家の前で確保された人数と、街壁に仕組まれた陣の痕跡も含む数を考えれば、偶々個別で同時期に、別々の暗部が動いた可能性は低いと考えられるのだから。


「二十四人もの斥候部隊を瀕死状態とするシルキーの存在は、色々と聞いてみたい事もありますが、個人の情報ですので控えるとしまして、今回の依頼報告についても急ぎ、代官に報告を上げないといけない様ですので、ここで引き上げて頂いて結構です。

 居住地に絡む問題でもありますので、何か分かりましたら報告致しますね」

「了解。それじゃオレ達は家で待機しておくとするか」


 この時点で、ライザとイルナは、国軍が自分達の住む家を対象としていた事に恐怖さえ感じていたが、アルとマディナが平静に見えた事で、自分達が過剰に反応しているのではないかとさえ思ってしまっていた。

 その為に、結果的には二人も冷静でいられたのだが、それが大きな勘違いであった事を知る事無く終わったのである。

 そもそも国の暗部に関わる者ともなれば、基本が失敗を許されない状況に対する事となり、相応の実力と、忠誠心、そして“どんな事をしても”遂行する意思を持つのだから、兵士はおろか、多くの騎士達よりも実力を持つのだ。

 それが二十四人、しかも死者無く確保されたという状態から、件のシルキーがいかにおかしい存在であるのかは推測出来るのだ。

 そこに気付かず済んだ事は、ライザとイルナにとって良かったのか悪かったのか、微妙なところであろう。


 帰宅し、ドアを開けた時、目の前に現れたのは、侍女メイド服と呼ばれる使用人服に似た衣服を纏った、輝く様な金髪を持った美女であった。


「お帰りなさいませ、マスター。奥様方」


 綺麗に頭を下げると、さわさわと衣装が音を立てる。その衣服は見るからに柔らかく、淡い光沢によって光を放っているかの様にも見え、侍女が着るには不釣り合いとも思われる高級感が漂っている。

 一礼の後上げた顔は、何かの造形物の様に整っており、異性同性に関わらず、すれ違う十人が十人振り返ってもおかしくは無いと思わせるに十分であった。


「あれ? ええと、アルさん、この人は?」

「申し遅れましたイルナ様、そして初のお目通りとさせて頂きますライザ様。

 わたくしは当家に棲むシルキー、エーファと申します」

「「えええっ?!」」


 とりあえず、その場でやり取りをしていても仕方が無いという事でライザとイルナを宥めつつ、リビングへと移動。

 既に準備が済んでいた様で、ソファーに三人が腰を下ろすと間を置かず、エーファがお茶とお茶菓子を並べる。

 これはシルキーとしての能力の一つで、家の住人が一定範囲に帰って来れば、それを察知する事が出来る為であり、侍女として人が真似出来るレベルを超えている事もあって、シルキーが棲む家は相場の数十倍を出しても求める者は後を絶たないのだ。

 何しろ家事などの手伝いをしてくれる、出来過ぎた侍女役としてだけでなく、家を守る護衛役、家を維持する技術役をもこなすのだから、シルキーの存在がどれだけの恩恵を与えてくれるかを考えれば、別段おかしな話しでは無いのだから。

 とは言え入手出来ても、シルキーに気に入られなければいけないという、かなり厳しい条件が付くのだが。


「ええと・・・貴女がシルキー、なの?」

「はい。間違い無くわたくしは、家付妖精と呼ばれるシルキーです。ライザ様」


 にっこりと微笑んで返すエーファを、ライザとイルナは凝視してしまうのであった。

 見た目は十代半ばから後半、おそらくはライザとイルナより若干年下という容姿をしており、どう見ても妖精、情報生命体という事から連想出来るものでは無く、人と見分けが付かなかったのだから。

 何しろ、シルキーを含む妖精の存在は知られてはいるが、一生の内でそれを目にする者はかなり限られ、加えて言えば、来客対応をシルキーが行ったとしてもこの姿では、それこそその客が妖精であると認識していない可能性も高いのだから、ライザとイルナが驚くのも無理は無い。

 ましてや、ギルドで聞いた“国軍の斥候部隊二十四人を撃退した”様な存在には見えなかったのだ。

 もしアルが『実は隠していた侍女』だと言えば、そっちの方を信じてしまった可能性が高かったであろう。

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