02 王国からの提示
「とりあえず、王国から提示されている、皆さんに関係する内容を伝えておきます。
未だ詳細面で変更や追加があるかも知れないので、その点はご了承を」
そしてマディナから伝えられた内容は、かなりの無理を感じるものであった。
アルに対しては、事前に事態を押さえた事に対して、国から褒賞金として金貨五十枚、またペラガルロ子爵の全資産より二割となる白金貨三枚と金貨四十七枚、銀貨八十五枚。
はっきり言えば、下手な地方貴族が持つ資産より多い。どれだけ溜め込んでいたのか疑問が生じる額である事は間違い無い。
ライザに対しては、ペラガルロ子爵が引き継ぐ前の段階での、バード伯爵家の資産全てに加え、この二年間で所領貴族として得られたであろう概算での利益、金貨十枚。
バード伯爵家の資産に関しては、既に処分されてしまっていた物は相当額で、残っている物に関しては物品のままでも、相当額でも応じるとの事。
また、後嗣としてバード伯爵家を名乗り、女伯爵として立つ権利も示された。
イルナに対しては、所謂巻き込まれた被害者として、国より報償金として銀貨五十枚が示された。
はっきり言って、一番少ないイルナへの報償金だけでも、考えられない程高額である。
「つまり、口封じと言うか、口止め料って事か」
「口止め料?」
「ああ、イルナには馴染みが無かっただろうから分からないか。
ライザは、ある程度分かってる感じだな」
「ええまあ。一応貴族の出ですから。
良い、イルナ。もしこの話しがどこかから漏れて、探索者の多くに知られる様になったら、どうなると思う?」
「え? どうなるって?」
これはイルナが世間知らずな訳では無い。
自分の立場に伴う責任感に薄い貴族であれば、同様に事を理解しない可能性が高いのだから。
「簡単に言うと、迷宮内で王国の軍が魔物の異常種実験をしていて、被害はどこから出るかしら」
「ええと、迷宮内なら探索者だよね。
一部の小迷宮以外は、基本的に探索者くらいしか潜らないし、だから管理もギルドが受け持ってる訳だし」
「そう。つまりは国軍の所為で探索者に被害が出る可能性が有る。そしてその実験について、管理するギルドにも知らせていないんだから、余計にね」
「ああそっか。
つまり、王国が探索者への被害を無視した事になる訳だね。
でも、探索者は基本的には自由民が多いから、王国が責任を取らないといけない訳じゃ無いよね?」
「でも、いざ魔物の大発生が起きれば、どの国でも基本的にはギルドを介して探索者の力に頼るでしょ。戦争の場合、傭兵みたいに参加を募る事も有るし。
要は、王国は必要が有る時は探索者を頼るけれども、通常時は探索者の命を軽視しているっていう事になっちゃう訳」
そう、しかも正規の国の方針での実験であれば当然、ギルドに相談の上で行われるのが当然だが、今回はそうでは無い。
それは非公式であった為か、公式なものだけれど他国等へ情報を隠す為であった為か、どちらかとなる。
どちらにしろ、結果として探索者の命が軽視された結果に至る事は避けられないのだから、ギルド及び探索者は喧嘩を売られた事と同意となる。
「その結果、多くの探索者が王国に反発して他国に流出したり、ギルドが支部を閉鎖したらどうなるかな?」
「ああ、成る程ね。
だから此処で聞いた話しは表沙汰になると困る訳か。
この話しって、わたし達以外だと、ギルドの一部、上の方の人しか知らないって事ね」
だからこその高額提示であろう。という考えに至る訳だ。
とは言えそれで、無かった事にはならないのだから、逆に言えば余計に反発を受ける可能性もあるのだから。
「なあ、マディナ。
この提示はどこから出たものだ?
流石に国王名義じゃ無いんだろ」
「ええ。署名には王太子殿下の名が有るわ」
「王太子・・・ね。あのお坊ちゃんは、未だ分かって無かったのか」
「お坊ちゃん、って」
「ああ、以前にも似た様な事があって、忠告したんだけどな。
立場が立場だけに、分からなくは無いんだけど、金さえ出せば相手が引くと思ってる節が有るんだよ」
実際、王国としての対応というのであれば此処は、国王或いは該当する部署の担当官による署名で提示される事となる。
対して、今回の提示は次期国王とは言え、現状では王家の一人でしかない王太子による提示である。
王太子は、王家を守る為の近衛騎士団長という立場を持ってはいるが、近衛騎士が受け持つ範疇は王城及び、王家の者が王城を離れる際の護衛となる為、今回提示された内容に関しては、何の権限も持たない。
無論王太子による提示である為に、全く王国と関わり無いとは言えないが、それでも王国としては“非公式”な対応である事に代わりは無いのだ。
「とは言っても、ライザへの提示を台無しには出来ないからなあ」
「え、私のですか?」
「伯爵家の資産には、ご両親との思い出の品も有るだろうし、バード家を継ぐのはライザの目標でもあっただろ」
「アル、それは貴族家に生まれた女を見過っていますよ」
「そうなのか?」
「そうです。私はアルに嫁いだ身ですよ。
あえて言うならば、既に私はローウェン家のライザですから、バード家の後嗣は既に存在しないんです」
この点は、貴族家に生まれたからというよりも、ライザだからという要素が大きい。
確かに貴族の有り様としては、ライザの考え方は規範的と言えるものの、それを実践する様な貴族は極少数なのだから。
「そうなると、そもそもこの提示を受けるという選択肢が存在しないな。
という事で一筆書くから、マディナは返しておいてくれ」
「そうなるだろうとは思っていました。
そもそもお金的にも、皆さんにとってはそれほど魅力的では無いでしょうしね」
「まあね。アルさんの家であれを見ちゃったからなあ」
「イルナ、あれはアルのお金よ」
「それはちゃんと言っておいただろ。
あそこに置いてあるのは、いわば共有資産だから、今はオレだけの物じゃない」
「あの額を見てしまうと、すんなり受け入れ難いんです」
「どうせ近い内に、増えるぞ。
もう直ぐ薬草回収だしな」
「そうでしたね。その件も話し合わないといけないんでした」
そして、国からの提示をさらっと流し、天浮島での細かなやり取りへと移ったのであった。




