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29 神と邪神

「自分が受けた方法が分からないの?」

「何らかの魔道具、なんだろうけどね」

「ちょっと待って、アル、イルナ。

 どういう影響があるか分からないって、どういう事かな?」

「簡単な話しだよ。

 普通なら技術とか知識とかっていうのは、少しずつ教えを受けつつ、自分で身に付けて行くものだろ。

 でも、オレが受けた方法は、何かを教えて貰うとかそう言うのではなくて、刻印のイメージ情報を、強制的に頭の中に詰め込まれる、そんな感じになるんだ」


 情報をそのまま流し込む事は、本人の意思や経験を伴わない。

 確実に身に付ける事は出来ても、そんな不自然な方法が行われれば、受けた側にどの様な弊害が生じるか分からないのだ。

 加えて、どの様に本人の意思を無視して情報を流し込めるのか、また、流し込むべき情報の扱い等々、不明な事が多すぎる為、現状で不明な事が多すぎるのだ。


「で、でも、今のアルは特に何か、問題が有るっていう訳じゃ無いんだよ、ね?」

「どうなんだろうな。

 個性とか、個々の差異程度で影響が出ている程度で、分からないだけって可能性もあるし、ある程度までは問題無くても、実は寿命が短くなってました、なんていう影響だったら、それこそ、その時になってみないと分からないから」

「そ、そんなあ・・・」

「いや、そういう可能性もあるってだけで、何も無い可能性もあるから」

「・・・誰、ですか?」」

「ん? ライザ?」

「誰なんですか! アルにそんな事をしたのは!

 私が今直ぐ行って、力尽くで引っ張ってきます。

 アルに謝罪させて、影響があるのか喋らせて、それから徹底的に痛めつけてっ・・・」

「待て待て、落ち着け」

「だって、アルにそんな、そんな事をっ!」

「あー、イルナ、頼む」

「え? あ、うん」


 泣きながら怒る、あるいは怒り過ぎた結果か、とにかく混乱状態のライザを落ち着かせる事をイルナに任せ、気を落ち着かせる効果があるお茶を入れに、アルはキッチンへと向かうのであった。


「落ち着いたか?」

「はい。取り乱しました。ごめんなさい」

「いや、謝る必要は無いんだけどな」

「そうそう、ライザはアルさんの事が、それだけ大好き、って事だもんね」


 顔を真っ赤にして俯くライザ。

 出会ってほんの数日で、何故ここまで好意が寄せられているのか、アル自身分かっていないが、時間も気持ちも他人に分かるものではない事も理解している為、そこは好意を素直に受け取るしか無い。

 好意を寄せられて嫌では無いのだから、それで良いだろうという事である。

 だからこそ、話しておかなければいけない事もあるのだ。


「うん、ライザの気持ちは嬉しいから。

 とは言え、やった奴らをどうにかするのは無理だろうな」

「何で?」

「いやもう、ほとんどが生きてないから。

 やった奴らは、とある邪神崇拝集団だよ。そしてそこは、ほぼ壊滅状態になってる。

 ごく一部は逃げ延びているかも知れないけれど、主要人物は残っていないから、再興も無いだろうしね」


 そもそも神には、善神と悪神が居ると言われているし、教会によっては悪神を奉っているところもある。

 それはそうだ。人にとって“悪”神であっても、世界にとって必要であれば、それは受け入れなければいけないのだから。

 例えば自然神の多くは善神であり、かつ悪神でもある。そうした、受け取り様によってどちらでもあってどちらにもなる神も居る。

 しかし、神とはそれが善神であっても、人に都合良い存在という訳ではない。

 それを認めたくないのか、それでは不満なのか、神では無い何かを神として奉り、信仰する者達が居る。神では無いのに神としているそれを“邪神”、邪な心が生み出した神と呼ぶ。

 こうした信仰者達は、自分達の都合を優先する為に邪神崇拝を行う為、反社会的な行動を取るなど、問題を起こす事が少なく無いのだ。


「邪神崇拝・・・」

「まあ、壊滅した集団だからな。

 壊滅時に、件の、オレが情報を流し込まれた部屋も崩壊していて、どういうものだったのか分からないんだ」

「成る程。

 もし残っていれば、悪影響があるかも探れたかも知れないのにね」

「無い物ねだりしても仕方が無いだろ。

 今、こうして生きてるし、それで良いさ」

「うーん、まあ、そうかもね。

 悪影響が有ろうが無かろうが、それこそわたしやライザも、探索者なんかやってれば、自分が何時死ぬかも分からない訳だしね」

「探索者じゃなくても、病気、魔物、戦争。他にも色々あるし。

 イルナと知り合って、アルと知り合えて、こうして生きているんだから、それで良いんだよね」

「ま、そういう事だな。

 さて、今日貰った報酬を仕舞いに行くんだけど、ついでにイルナは、調合室を見ておくか?」

「あ、うん。そうだね。

 足りない物が有ったら明日買えるしね」

「それじゃ、私も行こうかな。

 何も出来ないけど、見てみたいから」


 アルは付与、イルナは製薬と、それぞれ出来る事があるのに、ライザは何も出来ないという事で、自分が居る意味を考えてしまう部分も若干有った為に、この家の設備を見て、自分に出来る事を考えようという意図があったのは事実である。

 しかし、アルはそもそも、何かを求めて一緒に居る事を受け入れは訳では無かった為、気が付いていない。

 イルナは、ハッキリとではないものの、そうしたライザの気持ちに気が付いた為、後々フォローしようと考えたのであった。

 そうして地下の倉庫に向かったのだが、そこでライザとイルナが目にしたのは、予想外のものだった。

 先日案内された倉庫には、武器庫と防具庫の他に、薬やアクセサリー等が置かれたアイテム庫があり、そこは既に二人共見ていたのだが、それ以外にもう一つドアが有った。

 そのドアを開けると、何も置かれていない狭い部屋が見えるのだが、一歩踏み込んだところで突然転移した。そのドア自体が転移門となっていたのだ。

 転移した先は、転移前と同じ狭い部屋に思えたが、幾つもの箱が置かれていた事が、明らかに転移した事を示していた。

 そして、置かれた箱は蓋が開いていたのだが、そこには多数の硬貨や、金銀の塊、宝石や貴石といった、所謂価値ある物が、その種類毎に分けられて入れられていたのだ。

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