23 状況報告
「まあ、どうであれ元メンバーだし、気になる事もあるとは思うけど、気にしない方が良いだろうな。
それよりマディナ、聞きたい事がある」
「え? 呼び捨て?」
「ああ、そう言えば今までは、皆さんの前では『ギルド長』と呼んでいましたね。
既にご存じでしょうけれど、アルさんは私より、ギルド内で立場が上ですから」
「ああ、そういう事ですか」
「はい。それで、何でしょうか?」
「回収した魔晶、未だ有るかな」
「はい、回収したのが二十七個、検証には二個使ったので、未だ残っていますよ」
「二十七個って、どれだけ増やす気だったんだよ。
ま、いいや。どれでも良いから一個見せてくれ。あの時はチェックしなかったからな」
その言葉を受け、マディナは一旦ソファーを立ち、執務用の机上に置いてあった木箱を持って来た。
渡された木箱を開けると、その中には色の濁った魔晶が三個入っていた。
それを見るアルの顔は非常に厳しく、近寄り難い雰囲気となる。
「アルさん、もしかして」
「ああ、多分例のやつだな。以前似たのを見た事がある。
見たやつは未だ、ここまで濁っていなかったが、ほぼ確実に、改良と言うか改悪品だろうな」
「そうですか、分かりました。
その方向での調査も進めますが、実は二つ程困った事が」
「困った事?」
「一つは、例の貴族。ペラガルロ子爵が自分は与り知らない事だと」
「自分の手の者が捕まってもか」
「ええ。それどころか、そいつらと、ライザさん達旋風の翼が共謀して、陥れようとしたのだと訴えていまして。
しかもそれに、軍務局長が後押しをしていまして、ライザさんとイルナさんを、奴隷として差し出せと」
「ふん、随分ギルドは舐められてるな」
「流石に一国の、それも中枢にいる者からの後押しがあると、明確な証拠が無いと押し切れません」
それを聞いたライザは、端から見ていても直ぐ分かる程に顔色を失う。
「軍務局長リオネロ侯は、左官のトップで、騎士団と軍を統率する方です。そんな人が後押しをしているのでは・・・」
普通に考えれば、この段階で詰んでいる。
取れる手としては、言われた事を大人しく受け入れるか、国外へと逃げるかの二択だ。
「まあ、それは問題無いな。
オレに言うって事は、そこら辺の情報は、ギルドの方で取れているんだろ?」
「あくまでも情報、ですけれどね」
「それじゃ、近い内にライザとイルナを連れて、その子爵にでも会いに行くか。
マディナも立ち会って貰うから、予定を立てておいてくれ」
「え? アル?」
「まあ、心配するな。
そんな雑な言い分で、二人を渡す訳無いだろ。オレは一応、虹銀ランクだぞ? そんな一国の重鎮程度が、オレの周りで好き勝手を許す訳には行かないからな」
「あら、そこは『オレの女は渡せない』くらいの事を言ったらどうですか?」
「うん、マディナ。その件はギルドからの依頼扱いな。報酬は期待しておく」
「ちょ! ・・・はあ、分かりましたよ」
『本部に伺いを立てておきます』とぼやくマディナ。しかしこれは当然の結果だった。
そもそもが、ギルドが管理している迷宮内での、異常種発生問題と、その原因である人為的行為である明確な証拠物件及び承認の確保は、ギルドとして絶対に譲れない内容なのだから。
そうした、所謂ギルドに喧嘩を売られた事象に対して、状況証拠が明確であるにも関わらず、どの国にも属さない組織であるギルドが、一国の軍務局長が出て来ただけで、その対応に行き詰まったのだ。
本来であれば、迷宮で実験が行われるその初期段階で、ギルドは情報を掴んでいなければいけなかったのだが、それこそ、ギルドに喧嘩を売る様な事を行う者が現れるとは思っていなかった、という想定の甘さによって、この状況に至っているのだ。
それを解決する為に、虹銀ランクという立場を利用する以上、見返りは払われるべきなのだから。
もっとも、アルを“からかった”事でそこを突かれてしまった為、上乗せ分はクレリアナのギルドから出さなければいけない事は確定だ。
それによって評定が下がる事を考えれば、つまりは自分の自腹となる事も確定なので、マディナにとっては“からかう時を間違えて痛手を受けた”状態となった訳である。
「で、もう一つは?」
「二十一層から二十三層の調査は、念の為こちらで行いましたが、異常種は確認出来ず。ただ、保護対象が一人」
「保護対象?」
「二十一層に入って直ぐの小部屋に、十歳程の少女を確認し、これを保護という経緯ですね」
「それって・・・」
「おそらくは」
「そうか。多分確定だろうけど、一応件の子爵のところに行く前に会っておきたいな。
後は、状況次第では最悪、オレが預かるしか無いだろうなあ」
そう言うとアルは、ライザとイルナへと視線を向ける。
「ええと、話しが見えないんだけど」
「うん。わたしもさっぱりだね」
「まあ、説明してないしな。
とは言えここで説明は、未だ早いか。
んー、そうだな、今のところは、未定だけど最悪の場合、家族が一人増えるかも知れないって思っておいて」
「え? どういう事?」
「だからそのまま。そうだな、近い内にオレの事情は教えるから、それまでは気にしないで良いや」
良いや、じゃないでしょ? と思うライザとイルナではあったけれど、自分達も、かなり無理矢理にアルの元に飛び込む形で押し込んだという自覚があり、それは負い目でもあったので、この時点では何も言えなくなる。
それでも、近い内に話してくれると言うのだから、それを待てば良いと考えた。
しかし、それはある意味では気楽に受け取り過ぎとなる可能性が、マディナから示された。
「一つ、お二人に忠告しておきます。
正直、一部かなり重い話しがあるので、覚悟しておいて下さいね」
「こらこら、脅かさない様に」
「脅しではなく、事実でしょう?」
「まあ、その件は良いや。
で、話しはそのくらいかな?」
「そうですね、今のところは。
後は、幾つかの探索依頼分について、結果が出ています。達成報酬は専用のボックスに入れてあるはずなので、確認をお願いしますね」
「ん、了解。帰りにでも確認しておこう」
「ボックスでやり取りしているんですか?」
「ああそうか、未だ二人は知らないのか」




