24 勝負決定の裏には
ボックスとは、数日に渡って迷宮に潜ったり、あるいはクレリアナを離れる場合に、持ち歩かない物を預ける事が出来る貸し出しスペースの事だ。
上位ランクともなると、時には秘密裏に出される依頼といった、他の探索者の目があるカウンターでやり取りをする事がマズい場合もある。
その為に、金Ⅰランク以上となると、貸し出しでは無く固定スペースが提供されるのだが、ライザは未だそうした依頼を受けた事が無かった為に知らなかったのだ。
「そう言えば、皆さんはボックスを共有されますか?
特に希望がなければ、ライザさんにその手の指名依頼が有った時に、個別の場所が用意されますが、一緒に動かれるのであれば、共通の大きなボックスに変更しますよ」
「そうだな、どうする「共通で」か・・・って、それで良いのか?」
言うまでも無く、個人での指名依頼等、自分の報酬内容が知られていなければ、基本的に一緒に行動する事となっても、自分の利益を守りやすいのだ。
「それで良いかを聞くって事は、アルの方はそれでも良いと思うんでしょ?
それに、私は決闘に負けて、アルのものとなる身だから、それが妻としてであれ、奴隷としてであれ、個人の利益を主張する気は無いから」
「え?」
「え? って、何か、おかしい事言った、かな?」
「いや、奴隷とか、そういう形で自分のものにするって発想が無かったから。
言われてみれば、そう言う形でも確かに、そういう事になるんだろうけど、でもなあ、それってどうなんだ。
ああ違うか、そもそもオレが想定していなかったんだから、奴隷とかそういうのは無しで・・・で、ギルド的には問題無いよな?」
「当然問題ありません。
アルさんがお二人をきちんと受け入れてくれれば、どういう形であれ、決闘の結果が履行されたものとなります」
そもそもそれ以前に、アルとしてはライザとイルナの扱いには注意する事を覚悟していたのだ。
下手な扱いをしたら、色々マズい事になるだろう事は確実なのだから。少なくとも、夜道は歩けないし、何時後ろから刺されるかも分からない生活はご免だし、そういう扱いをして良い相手とは思えなかったのだ。
「それじゃ、そういう事で変更手続きよろしく」
「はい。分かりました」
「一応これで一通り終わりですが、もう一つ個人的に聞いて良いでしょうか?」
「良いけど、何か、受けた依頼で不明な事とかあったのか?」
「いえ、依頼絡みではなく、先程の決闘で、何故肩で剣を受けたのかと」
「え? それって・・・」
マディナの言に、ライザが反応する。
そう、ギルド長として、表に出していないアルの事を知っているマディナがそう言うのだから、ライザの剣で傷を負う必要が無かった事になるのだ。
「あれはほら、ライザの剣が早かったし、流石金Ⅰランクだけに強かったからで・・・ってライザさん、何故睨んでいるのですか?」
「・・・アル」
「はい」
「正直に」
「う・・・まあほら、あれだよ。
ライザの強さってのはそれなりに知られてる訳じゃないか。で、オレは表向き、怠け者でランクも上がらない探索者な訳だ。
となれば、オレが傷を負ってでも飛び込んで運良く勝てました、という感じじゃ無いとほら、色々マズいだろ?」
「ああ、成る程」
「マディナ殿、成る程では無い!
アル殿もアル殿だ。それならそれで、何も肩を貫通までさせなくとも、見た目派手に見える怪我でも良かったであろうに・・・心配した、んだよ・・・」
「ああ、うん。悪かった」
「まあまあ。ライザ、これからはライザのランクもアルさんの役に立つしさ、今回は仕方無かったって事で、許してあげようよ」
実際のところ、探索者の多くがいくら有象無象の集まりとはいえ、中には経験により、あるいは本当に才能のある者も居るのだ。
見せかけだけで、実際には大した傷では無ければ、それを見抜く者が居ないとは限らなかった。
つまり、左肩一つを捨てての特攻で運良く勝てたという流れを、実際に行って勝負を決めた事は、やむを得ない部分があった訳だ。
とは言え、感情的にそれを受け入れられるかと言えば、それもまた難しいのも事実で。
本当のところは、マディナは聞くまでも無く、ある程度推測は出来ていた為、先刻の意趣返し的な要素が大きかったのだが、地のライザを見誤っていた事で起きた流れと言えるであろう。
お詫びに、報酬をそれなりに上乗せ評価しようと考えるマディナであった。
一通り話しは終わり、帰りがけにロッカーによって報酬も回収。そのまま三人はアルの家へと帰って来た。
ライザとイルナは、既にアルの家へと移る用意を済ませており、先日貰った無間袋に、全ての荷物を詰め込み済みだったのだ。
その時点でアルは、填められたという気分を強く持ったものの、結果は変わらないし、それを言ってライザの機嫌をまた損ねるのは得策ではないと考えて黙っていた、というのは内緒だ。
「二階の、好きな部屋を使って良いから。
ああ、オレの部屋は一番奥だから、そこ以外で」
「え? アルさんと同じ部屋で寝るんじゃないの?」
「いやいや、私室くらい必要だろ。
それに、関係を急ぐ必要は俺達には無いんだし」
「そう言う問題?」
「そう言う問題だろ。
それに、いきなり二人の美人に羽目を外したら、色々ダメになる気がする」
「アルさん、冷静だなあ。それとも余裕?
ライザはどう思う?」
「え? まあ、私はそもそも元貴族だったので、男の方のものになるという事くらい理解しているし、それが初めて会う人に成る可能性もある事も、環境的に理解していたけど、イルナはどうなの? 一般ではそういう、家の為とかでの婚姻も無いだろうし、アルと知り合って、未だそんなに間も無いんだから」
「んー、それは確かに、無いとは言わないけど少ないよ。でも、それなりの家とかだとあるみたいだし、そうじゃなくても貴族とかに見初められてとか、攫われる場合もあるし。
それ以前に、農村とかだと不作の年には借金奴隷になる可能性があるからね。成人過ぎて奴隷になると、性行為への同意も当然になるし、わたしは自分で選べただけ、幸せだからね」
結論として、女性は強いという事か。
ライザとイルナのやり取りの傍らで、アルはぼんやりと、そんな事を考えたのだった。




