21 亡者の群れ
アルの家に、ライザとイルナが訪ねた日から、一日空けたその日は、普段であれば朝から探索に出ている多くの探索者の姿が、ギルドにあった。
実際にはギルドの奥に造られている訓練場を、二重、三重、それ以上に取り囲んでいる状態であったが。
その中には、朝から酒を飲み、涙を流して座り込んでいる者や、今にも武器を抜いて飛びかかりそうな体勢の者も居て、正直混沌としている状態であった。
取り囲んだその中に居るのは、アルとライザ、イルナ、そしてマディナギルド長。
周囲から叫び声とも悲鳴ともつかない様々な音--もはや混ざり合って、ほとんど声になっていなかった--が飛び交う中、ビックリした表情のライザとイルナに対して、半ば諦め、半ば苦笑い気味の表情をしているアルとマディナという、二つの違う反応が、意識の違いを明確に表していた。
「ええと、マディナ殿、これは一体何なのかな?」
「そうね、『高嶺の花を陰から見て満足していた亡者共』と言ったところかしらね」
「誰が例えで言えと? 聞いたライザ本人が分かってないじゃないか」
「この状況があまりにもバカバカしくて、まともにやり取りする気にもならないのよね。
とにかく、ちょっと待ってて」
そう言ったマディナは、視線を周囲へと向けると一言。
「五月蠅い! 騒ぐ奴らには攻撃魔法を容赦無く打ち込んで、ギルドから叩き出すよ!」
それなりに広い練習場の空気が、ビリビリと震えるかの様なその声は、周囲から上がっていた、騒音と化した様々な声を上回った。
一瞬にして静まるその場は、それまでとは真逆に音が消えた様にも感じる。
「お前らが向かって来られない事で分かる通り、既に結界で分けられているとは言え、そんなのはギルドでどうにでもなるんだから、覚えておきな!
既に分かってるだろうけど、この決闘は、ライザの側からの申し出によって行われる正当なものだ。
その結果如何に関わらず、この件に異を唱える者はギルド規約に反する者だ。容赦無く叩き潰すからな!」
普段からは想像がつかない言葉遣いでも、あまり違和感を感じないのは、流石ギルド長の位置に居るだけの事はあるからか。
マディナも元は、高ランク探索者であったのだから、あるいは普段が取り繕っているのかも知れないが、そこを追求すると色々マズい事くらい、今此処に居る者は知っている為に、誰からもつっこみは無かった。
ともあれ、マディナの宣言を聞き、涙する者、項垂れる者、顔を青くする者、一部うっとりとした表情をする者等々様々だったが、最後のは放っておくとしても、総じて色々飲み込んで、何とか受け入れようとはしている様であった。
ちなみに、この日はあちこちの酒場で、酒に呑まれて撃沈した探索者の姿が見られたというのは、当然蛇足である。
「さて、静かになったところで説明します」
まるで何事もなかったかの様に話し出すマディナに、三人は顔を引き攣らせつつも、頷く以外の術を持たなかった。
「この騒ぎは当然、ライザさんの申請した決闘の結果によって引き起こされたものです。
要は、ライザさんの人気の表れと、それを自分のものにするアルマンさんへの羨望、嫉妬、怒り等々が高まりすぎて、亡者となった者達です」
「ええと、亡者って・・・」
あまりの言い様に、周囲を囲む者達に、更なる刃が刺さった瞬間であった。
「で、ですが、私如きでこの騒ぎというのは納得しかねます。
それにその、この件は私自身の意思なのですよ?」
そして、追い打ちでトドメを--ライザに当然、自覚は無かったが--しっかり刺された者達は、もはやマディナが言った通り、亡者と成り果てたのであった。
「では、決闘の前に、一応形式として確認を行ないます。
申し出人であるライザに問う。
此度の決闘にて勝ちを収めた場合はアルマンがパーティーへと加わる。負けた場合は、ライザがアルマンのものとなる。以上、相違無いか、また、その決闘を破棄する意思は有るか」
その問いに対して、ライザは落ち着いた声音で応じる。
「破棄の意思は無い。が、内容については一部を変更させて頂きたい」
「では、ギルド既定に則った、内容変更の宣言を」
「決闘にて勝った場合はそのままとし、負けた場合は我に加え、パーティーメンバーであるイルナもまた、アルマンのものとなる。
以上、承認を願う」
その言葉に、亡者の群れから叫び声や悲鳴じみたものが発せられたが、マディナの一睨みで静まる。
「美女二人とは、また随分とアルマンさんに条件が勝ちすぎているわね」
「何か問題が?」
「いいえ。決闘を受ける者は拒絶出来ない。その為、受ける側が勝った場合、より良い条件が与えられれば、既定として問題は無いわね。上限も決まっていないしね。
で、イルナさんはその条件で良いの?」
「はい、問題ありません」
問われたイルナは、ハッキリと頷き、その意思を示した。
「随分慕われたものね。その方法でも、そこら辺にいる亡者を相手に、ギルドで講義を開いてみる?」
「勘弁してくれ」
ライザとイルナは、何の不都合もないと、堂々と。立ち会うマディナは、この状況を見て若干意地の悪さを感じる笑みを浮かべているが、アル一人、肩を落として、疲れ果てた様を見せていた。
「では、イルナさんは端に寄っていてね。
二人は立合位置に」
マディナの仕切りによって、それぞれ場所を移動する。
ライザの装備は、先日アルに貰った一式フル装備という状態だ。刺突剣は、刀身が短い方のシャブラは腰に、パラシュは既に鞘から抜き放っており、戦う準備は万全といった感じである。
対するアルは、一見するとそこら辺に居る中堅どころの軽戦士が装備している様な、そこそこという程度の装備で身を固めていた。
それも当然で、この場で戦うのは虹銀Ⅱランクのアルでは無く、あくまでも黒鉄Ⅱランクのアルマンとしてなのだから。
両手にはそれぞれ、対となる短剣。よく見ればその刃には、波の様な模様が浮かんでいるのだが、刀身が黒い為に、近くでよく見なければ分からないだろう。
右手は正手、左手は逆手に持ち、こちらも準備は出来ている様だった。
二人が位置に着いた事を確認し、マディナから声がかかる。
「それでは、始めっ!」




