17 告白
「それじゃ、これはそのままライザに渡しておこう」
そう言って、無間袋をそのまま、ライザの方に押し出す。
「え? 良いの?」
「どうせ、決闘で負ければパーティーに入るし、勝てば二人はオレのものって、結局一緒に動く事になるわけだろ。
だったら、使ってもらった方が都合良いだろうしな。
まああれだ、口止め料込み?」
「いや、何で疑問系なのかな。
でもこれって、本当に高価どころじゃないんだよ」
「まあ、普通ならそうらしいな」
「ねえねえ、ライザ。くれるっていうんだから貰っちゃえば良いじゃない。
わたしとしては羨ましいよ」
「ああ、イルナにも口止めしとかないとだから、同じのをあげるぞ」
「え? って言うか、その口止めってどういう事?」
その言葉を受けて、アルは懐から、黒い色をした探索者証を取り出して、テーブルの上に載せた。
「あれ? アルマンさんはランクアップしなかったの?
ライザもわたしも上がったし、当然アルマンさんも上がる筈だよね」
「これは、上がらないんだよ。
ライザには話したんだけど、アルマンってのは探索者としての偽名でな」
「ああ、偽名が認められれば、正式にその名前で登録出来るんだっけ」
「で、オレの本名はアル=ローウェンと言うんだ」
「ああ、だからライザが『アル』って呼ぶ様になったんだ。
でも、それと、ランクが上がらないっていうのは、何か関係するの?」
「ああ。オレの本名での探索者証ってのが、こっちなんだ」
そう言って、同じ様に今度は、銀色で、虹色に輝く探索者証をテーブルの上に置いた。
「え、えええっ! 何これ。って言うか、もしかしてこれって・・・」
「銀虹ランクの探索者証、って訳だ」
「えええええっ!」
叫び声を上げ、そのまま固まるイルナ。それを、どこか同情した様な目で見つめるライザ。そんな姿を、ある意味達観した様に眺めるアルは、『まあ、そうなるか』と思うだけだった。
イルナの意識が戻るまで、この後数分を要するのであった。
「落ち着いたか?」
「はい。多分」
「まあ、そういう事だから口止め、って事だな」
「え、でもでも、何で。本物でしょ? だったら隠す必要なんて無いじゃない」
「いや、隠すだろ。
目立つじゃないか」
「・・・えー、そんな理由?」
「これ以上無い、十分な理由じゃないか」
「そうだね。ねえイルナ、よく考えてみて。
もし私達が普通に、何も知らずにギルドに居て、そこに来た探索者が虹銀ランクだったら、どうなる?」
「それはもう、大騒ぎ・・・って、そっか。確かに色々、大変な事になるね」
「まあ、そういう事だな。だから、いざという時は勿論使うが、通常と言うか、可能な限り隠しておきたい訳だ。
その為には、多少舐められている程度の方が、都合が良い」
「はー、大変なんだね」
それで済ませて良いのか、と思う反応ではあるが、それを否定出来ないのもまた事実であろう。
実際、金ランクともなれば国や貴族からの声掛けもそれなりにあり、探索者を辞めて、不安定な生活から離れる者は少なく無いし、白金ランクとなると、その多くは完全に引退し、中には貴族として取り立てられる者も居るのだ。
また、探索者として残る者も、その多くはギルドお抱え、あるいはギルドの要職に就く事が多い為、金ランク以上の探索者というのは、元々数が少ない上で、更に少数となる事情があるのだ。
ましてや最上位の虹銀ランクともなれば、もはや伝説的存在でしか無い。
行動自体が慎重にならざるを得ない、そうした事情があるのは確かである。
勿論、大前提としては、アルの性格的なものが大きいのだけれども。
「という事で、口止めを兼ねて、イルナにも無間袋を提供するから、倉庫に取りに行くんだけど、一緒に来るか?」
「え、良いんですか?」
「どっちにしろ一緒に動く事になるんだ、ここで隠し事しても意味無いだろ」
当然未だ、かろうじて意味は有る。
可能性はかなり低いが、それでもライザが勝つ可能性はゼロでは無いのだから。
とは言え、ライザとイルナがそういうつもりで一緒に居る事を意識している以上、結局は早いか遅いかというだけの違いにしかならないのは、おそらく事実であろう。
「え・・・これって転移門?」
倉庫へと、アルに連れられて移動した二人だが、アルに着いていったのは二階だった。
家の二階、通路の一番奥にある小さな、通常であれば普段使わないものを詰め込んでおく為の小さなスペースに取り付けられた扉をくぐり、中に入った途端、一瞬にして目の前に見えるものが変わったのだ。
「ここは家の地下になるな。
階段とかでは降りられないし、転移も、特定のキーになるものが無いと反応しない様になっている」
「いや、そうじゃなくてさ、何で個人の家に転移門があるの?」
「安全対策としては便利だろ」
「ええ、そういう理由? じゃなくてっ!」
「個人で持てる技術では無いと思うんだけれど、という事でしょ、イルナ」
「そうそう」
「いや、そうでも無いと言うか、少なくてもオレにとっては、別段対したものじゃ無いって事だな」
「それって、虹銀ランクともなると、転移門を個人で持てる、とか」
「いや、自分で作れるからな」
「「えええっ!」」
さらっと、かなりきわどい発言をするアルであった。
「そもそも、二人を助けたあの時、オレが何をしたか分かるか? っと、これだな。ほらイルナ」
「何か、凄く貴重な無間袋を、そこら辺に転がってる物みたいに渡されたんだけど」
「それ以前に、何か、同じ物が沢山有る様に見えるのは、気のせいだよね?」
「ああ、未だ十以上は有るかな。
自分で作れるからなあ」
「何か、もう、驚く方がおかしい気になるんだけど」
「あの時使ったのは、煙草の煙と火を使った刻印魔法だ。
連中を複数相手にしたのは、広がる煙を使ったもので、異常種の件で喋り始めたのは、火の付いた部分を使って個人を対象にしたものって訳だ」
「何で普通に、話しを進めて行くかな」
刻印魔法とは、意味ある文字や図形を用いて発動させるものではあるが、アルはその文字や図形を、変化する煙や火を意図的に変形させる事で描き、発動させる事が出来る。という事を、さらっと告白した訳だ。
もはや、ツッコミどころが多すぎて、ライザもイルナも諦めが入り始めていた。




