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16 変動する事態

「ああっ、今気が付いた!」


 突然叫びだしたイルナに、アルもライザもビックリして顔を向ける。


「ライザが決闘に勝って、それでアルマンさんがパーティーに入ってくれれば、それはそれで、何か結果的には変わらないかもだけど、暫くは良いとして」

「ん? 何が言いたいんだ?」

「だから、もし負けたら、二人は結婚するんだよね」

「けっ・・・って、ちょっとイルナ、そんなハッキリと言わなくても」

「ライザは黙って、そこで幸せに浸ってなさい。

 でさ、そうなるとほら、わたしってば二人の邪魔者・・・」

「待て待て、別に邪魔者扱いはしないぞ」

「そうは言ってもね。

 ・・・そうだ、良い手があるじゃない!」


 その時の表情を見て、アルは後に語る。

 『嫌な予感しかしなかった』、と。


「ねえねえ、アルマンさん、わたしもおまけでもらってくれない?」

「はあっ?」

「ちょ、イルナ、何言ってるの」

「だって、二人の幸せ見せつけられるのもあれだし、だったら三人で幸せになろうよ。

 あ、でも、わたしはライザみたいに美人じゃないから、アルマンさん的にはダメ、かな?」


「え? イルナは美人だと思うよ?」

「気高き孤高姫に言われてもなあ」

「だから、それを言わないでってば!」


 そんなやり取りを聞き、アルは大きく息を吐く。

 正直呆れ、と言うよりも、諦めの心境が強かった。

 実際のところ、ライザ程では無いが、イルナも探索者の中ではかなり人気があった。

 ライザは確かに、騒がれる程の美人であった為、妙な二つ名も付いていたが、それを言うならばイルナにも、二つ名が付いていたのだ。

 曰く“明けの聖女”と。

 それはイルナが、簡単なものではあったが治癒魔法が使える事と、その明るい性格からのものであった。

 何しろ、長い銀髪と整った顔立ち、バランスが取れたスタイルと、まるで作り物の様に整ったライザに対して、イルナは若干幼い顔立ちではあるが、十人に聞けば九人が可愛らしいと答えるであろう、やはり美人に数えられるのだから。

 赤味を帯びた茶色い髪は、その明るい性格を表すかの様であり、また、少し低い身長が保護欲をかき立てられるという意見もある。

 とは言えスタイル的にも決して悪い訳では無い為、人気という意味ではライザに軍配が上がるものの、人気二位を争う程であった。

 ライザと込みで、“銀の乙女と明けの乙女”などと呼ぶ者もいるのだが、それを知るとおそらく、暫くの間羞恥で、ライザが立ち直れなくなる事は間違いが無い。

 ちなみに、イルナと二位を争っているのは探索者ギルドの窓口嬢の一人である事は余談であるが、そもそもギルドの窓口は、荒くれ者が多い事もあり、荒んだ印象を避ける為という意味もあって、基本的に見目の良い者が選ばれる傾向がある。

 それら窓口嬢を差し置いて、ライザやイルナに人気が集まるだけの事はあるのだが、残念ながらその二人がパーティーを組み、しかもランクが高い為、露骨に近付こうという者が居らず、本人達にあまり自覚出来ていなかったのは、果たして幸か不幸か、微妙なところではあった。


「でも、そうだね。イルナ一人をって訳にも行かないし、私もイルナとだったら嫌じゃ無いんだけど、流石に、アルにとっては負担、かな?」

「そういう聞き方は、狡いんじゃないかな」

「狡い?」


 首を傾けて、きょとんとした顔でアルを見るライザ。はっきり言って、本人が無自覚でやっている辺り、本当に質が悪い。


「大体、急に二人して、オレとの関係を狭められても、戸惑うしか無いだろう」

「まあ良いじゃない。

 ライザは何か、アルマンさんに惹かれてるみたいだし」

「ちょ、ちょっとイルナ」

「それ以前に、私達は行く所が無いし、かと言って誰かに頼り頼られるにも、ちょっと人間不信気味みたいな感じになっちゃってるしさ。

 正直なところ、どう転んでも独り身で生きて行くか、どこかで妥協した相手を見つけるか、あるいは誰かに利用されるかしか無い訳だしね。

 それならアルマンさんが相手だったら、不満は無いんだけどな」

「しか、って言うが、その三択だと、大抵の奴がそうなんじゃないか?

 それに、オレだと不満は無いって言うけれど、そもそもオレの事も、あんまり知らないだろ」


 同様に、アルも二人の事はそれ程詳しい訳では無い。ただ、二人共それなりに名の知られた探索者であり、見目も良いので、この申し出は、正常な年頃の男であれば飛び付いて受け入れたとしても、おそらく文句はどこからも無いであろう。もっとも、その分嫉妬は数多ありそうではあるが。


「そうでも無い、かな。

 だってさ、あの依頼って、アルマンさんにとっては、私やライザの事よりも、変異種の事を探るっていうのだったんでしょ?

 それなのにあの時、わたし達の安全を確保してから、変異種について調べたよね。

 それをする様な人だったら、私達の事を蔑ろにしないだろうって事くらい分かるよ」

「あの行動でも、自分が受けた依頼達成に問題が無いと判断した。とは考えないのか?」

「それでも、良いんです。

 アルは別に、そうしなくても良かった筈なのに、可能だったら私達の安全も考えてくれる。そういう事でしょ?」


 『あー』と呟き、アルは両手を軽く上に挙げた。


「降参、だな。

 どうも言葉では勝ち目が無さそうだ。

 まあ、それならそれで良いさ。その代わりに、覚悟しとけよ」

「覚悟?」

「オレは負けるつもりは無いぞ。

 だから、二人共オレのものになる覚悟をしとけって事だ。

 それは、旋風の翼というパーティーが無くなるって事でもあるんだぞ」

「え、でも、わたし達は探索者を続けたいんだけど」

「別に、旋風の翼でなくなったら、探索者で居られないわけじゃないだろ?

 オレが万一負けたなら、我慢もするが、流石に旋風の翼っていうパーティー名は、クレリアナ以外でもそれなりに知られてるから目立ち過ぎるんだよ」

「ああ、そういう事」

「あの、私は特に、そのパーティー名に拘っている訳では無いから」

「うん。わたしも。

 それよりも、安心出来る人達と一緒に居られる事の方が重要だからね」


 何か、都合が良い様に流されてる気もするアルであったが、強行に拒絶しなければいけない不都合が無い事も事実だった為、流される事を選ぶのであった。

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