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Extra1 ライザの事情

 Extraは、多少の裏事情等々を主としたものですので、飛ばしてもそれなりにはストーリーを追うに困りません。

 一応、時系列的には本編続きとなっています。


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「私は、此処クレリアナの隣の領地を治める伯爵、バード家の長子だったんだ」

「長子って事は、後嗣か。

 けれど確か、バード伯爵家は・・・」

「そう、二年半前、馬車の事故で当主である伯爵と伯爵夫人、つまりは私の両親だけど、二人が亡くなった。

 その後、家が多くの借金を抱えている事が判明して、分家であるペラガルロ子爵の援助によって、とりあえずの返済は終える事が出来た。でも、後嗣である私がそのまま継いでも、その後自領を治めるだけの経験も無く、子爵家に返せるだけの資産も無い。

 結果として、ペラガルロ子爵が暫定的に、伯爵領を治める事になったんだ」


 この話しは、隣の領であった事もあり、当然クレリアナでも口さがない人々によって広まっていた。


「私には兄弟も居ないし、先代である祖父母も既に亡くなっていたので、どうして良いか分からなかった。相談出来る相手も居なかった。

 そんな時、ペラガルロ子爵から提案があったんだ。

 せめて、民を守る力を得るのであれば、私を領主として立て、自分がサポートしても良い、と。

 或いは、ペラガルロ子爵の妻となるのであれば、バード家の名は子爵が継いで残すと」

「それで、探索者として金ランク、か」

「そう。三年の猶予を与えられて、達すれば援助分の返済も無し、という条件だった。

 当時未だ十五歳だった私は、正直、どちらも選べなかった。一応、後嗣として剣の修行はさせられていたけれど、実践経験は無い。でも、三十を過ぎた子爵の妻になる事も、受け入れられなかった」


 十五才といえば、成人したばかりだ。

 やっとこれから、当主に付いて正式に勉強を始めるというところであったのだから、無理も無いだろう。


「悩んだ、いや、逃避だったんだろうな。私は、それでも三年の猶予があれば、もしかしたらと思って、探索者として実践経験を得る方を選んだ。

 そして、一番近い迷宮がある此処、クレリアナにやって来たんだ。

 それでも不安が大きくて、でも、泣いていてもどうしようも無いから、気だけは張ってギルドで登録をした。そこで、不安そうに当たりを見回しているイルナに出会った。

 イルナが駆け出しの探索者だって事は、直ぐに分かったよ。だって、私と同じ様な雰囲気というか、態度だったんだから。

 しかも、同じ位の年齢で、性別も同じ女だから、きっと縋りたかったんだろうね。気が付いたら声をかけていた」


 立場はともあれ、こうした駆け出し同士で組む事は、探索者の中では日常的なものだ。

 何しろ、多少経験を経た探索者であれば、それは実戦慣れしているという事でもある。そんな者達が放つ雰囲気や外見に、年若い駆け出し探索者が関わる事は難しいのだから。

 ある意味で、探索者としてやっていけるかどうか、その時期が最初の試練にもなっているのだ。


「話してみたら、同い年だったし、イルナは戦うどころか、武器の扱いもほとんど知らないという事だった。

 結局は、お互い一人で居る事が不安だったんだろうね。色々、女の身で探索者をやる事の危険性も噂で聞こえて来たし、正直、そういう目で見てくる先輩探索者の視線も感じてたしね。

 だから、二人で組んだんだ。

 一人で居るよりも二人の方が、安全性が高いから」


 後に、その名が知られる事となる、探索者パーティー“旋風の翼”の誕生であった。


「一応、私は多少のお金を持っていたから、直ぐに生活に困る事も無かったし、焦らずに済んだ事が良かったんだろうね。私達は順調に、しかも確実にランクを上げ、経験を積んだよ。

 イルナが回復魔法を使えたのも、大きな助けになった。初期の、採集依頼をこなすにしても、運が悪ければ魔物や獣を相手にしないといけない。当然、多少の怪我は避けられなかったしね。

 そして半年近く、とにかく自分達の安全の為に、稼ぎは少なかったけれど、自分達の強化に重点を置いていた。

 でも、流石に行き詰まり始めたんだ。

 アルには言わなくても分かるだろうけど、半年も経てば、迷宮に潜ってもそこそこは進める様になる。でも、ボス部屋に入るには厳しいんだよね」

「そうだな。少人数の探索者が最初にぶつかる壁、とも言われるしな」


 最初の九層までの魔物では、経験も稼ぎも足りなくなる。丁度その頃だ。

 とは言え、十層はエリアボスが居て、先に進むには倒さなければいけない。たった二人では、絶対に無理とは言わないまでも、危険は避けられない。


「そんな悩んでいるところに、イェランが現れたんだ。

 あいつは最初、すごくおどおどしていた。

 今回の件で、それはきっと演技だったんだろうって分かるけれど、その当時は、女の駆け出し探索者も見かけなかったし、かと言って自分達で、他の探索者に声をかけて一緒に動くのも、怖かったしね。

 そこに、男ではあったけれど、他の探索者が怖くて声をかけられないっていう駆け出しがかけて来た声を、私達は無視出来なかったんだ。

 あ、勿論警戒はしたよ。これでも私は、身持ちは堅いんだから。

 でもね、速度を活かした私の姿を見た一部の探索者から、銀の旋風だとか言われ始めてた頃だったし、自惚れていたのもあったんだろうね。

 もし何かあっても、私とイルナで何とか出来るだろうって。

 そこで、暫く仮に組む事にしたんだ。

 様子を見ていたけれど、駆け出しでお金が無くて宿に部屋が取れない時、それでも私達に借りるのはダメだし、自分は男だからと宿の厩舎に泊まったりと、きちんと一線を引いてくれる相手に見えたから、正式に組む事にして、それまで無名のままだったパーティー名を旋風の翼にしたんだ。

 うん、実際には信頼出来ると印象付ける演技だったんだろうね」


 けれど、イェランが参加した事で、旋風の翼が成長したのも事実であった。

 イェランは、防御力に欠ける二人に対して盾持ちの片手剣使いだ。バランスが取れれば壁を乗り越える事も容易となるのだから。


「もっとも、それすら狙い通りだったんだよね。

 名を上げた私を自分のものにすれば、子爵の名もその分上がる。ほんと、バカみたいだよね。

 未だ結論は出ていないけれど、私が支援も無く、領主に就ける可能性はほぼ無い。慣れたとしても、領を治めるだけの力も経験も無いんだ。

 だから多分、バード家は取り潰しになって代わりの領主が国から派遣されると思う。

 これまでは子爵家が暫定で居たけど、それも無くなれば、領地を持たない貴族なんて沢山居るからね」


 実際に、一地方領主程度は、国の一存や都合で置き換えられる事も珍しくは無い。

 十五才という、成人してこれから貴族社会にデビューという段階で、その足下が崩れたライザは、貴族社会での顔も売れておらず、味方も居ないのだから、すんなりと領主を継げる可能性は低いのだ。むしろその空きを狙い、自領を持たない貴族間での取り合いが、そう遠くない家に開始される事は間違いが無いであろう。


「結局、全部失っちゃったんだよ。

 生まれてから、両親と一緒に暮らしてきた屋敷も、家の名も、ね。

 残されているのは、私というバード家の血を引く唯一の生き残りを狙う連中だけだろうね。

 だって、私を妻に迎えれば、貴族連中からすれば、領主を継ぐ口実が出来て、他の貴族より一歩優位に立てるんだから。

 だから、私は自分から、探索者を続ける事にしたんだ。貴族社会に帰れば、私は女という道具として生きて行くしか道が無いもの。

 でもさ、それでも、私を狙ってくる貴族は居ると思うから」

「だから、こんな決闘を思い付いた、と」

「そうじゃ無いよ。いや、そういう事も含んでるかも知れないけど、それは本意じゃ無いから。

 私はさ、どうせなら自分が認めた人のものになりたい。

 あ、別にわざと負けるつもりは無いよ。

 でも、この決闘でもし負けても、それは私がアルのものになるんだから、それなら良いなと、そう思ったんだ」


 その言葉を聞き、アルは暫く、ほんの数秒ではあるけれど、言葉を止めた。

 その様子を見て、不安に押し潰されそうになるライザであったが、次にアルの口から発せられた言葉は、ライザが予想していないものだった。


「それって、決闘規則として成立するのか?

 勝っても負けても、ライザの利になるってさ、何か狡くないか」

「アルは、私が報酬では不満、かな?」

「あー、すっごく答えにくい事を聞くなあ。

 なあイルナ、相棒がこんなんで良いのか? 何時か誰かに騙されるぞ、これ。

 まあ、そんな目で見るなって。別に不満は無いよ。

 あーもう、むしろ嬉しいです。ライザみたいな美人が自分のものになるなんて、オレには過剰過ぎるから・・・って、恥ずかしい事言わせるなよ」


 余所を向いて、吐き捨てる様に、しかし顔を若干赤らめて照れている事が分かるその仕草を見て、ライザの目から涙が流れ落ちるのであった。

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