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「な、なあ、本当に行くのか?」

「何を言ってるの。既にギルドにも手を回して、退路は断ったでしょ」

「いや、しかしだな。いざとなるとこう、心の整理が付かないというかだな」

「何よもう。普段の毅然とした態度はどこに置き忘れて来ちゃったのかな? 気高き孤高姫さん」

「その名では呼ばないでって言ったじゃないのっ!」

「あ、地が出てる」

「む・・・」


 昨日は、朝からライザが考え込んでしまって、結局宿で一日を終えてしまっていた。

 但し、この予定外の休息日は、アルとの関係をイルナがからかってみたり、その所為でライザが地を出したりと、これまで以上に関係が近づいた結果にもなったのであった。


「とりあえず、ギルド長に教えて貰ったアルマンさんの家は、もうこの辺りなんだから、いい加減覚悟を決めなさい!」

「しかしだな」

「ほんと、ライザったら、急に女の子になっちゃうんだから。

 出会ってからこれまで、こんなハッキリしないライザを見た事無かったわ」

「わ・・・私だって」

「ん?」

「私だって、こんな自分知らないしっ。どうして良いか、自分でも分からないんだから仕方無いでしょっ!」

「開き直るしなあ」


 そう、本当であれば昨日の内に、改めてアルに礼を言いに行くべきであったのだけれども、ライザが悩み込んでしまった事もあり、一日間が空いてしまったのだ。

 とは言っても、そのおかげでライザの心が纏まった為、決して無駄では無かった。

 問題は、いざアルの家が近付く程に、ライザが動揺し始めた事であったが、イルナにしてみれば、こうした素のライザを感じられる様になった事もまた、気持ち的に救われている要素となっていた。表面的に割り切ってはいるものの、それでもそれなりの期間、仲間として一緒に活動していたイェランの裏切りは、やはり堪えていたのだから。


「っと、ここだね。

 それにしても、大きくはないと聞いたけどさ、パーティーハウスとしても十分な大きさはありそうだよね」


 マディナが教えたアルの家は、お屋敷という程には大きくはないが、それでも一般民が暮らすには大きい方であった。

 探索者が組むパーティーは、一度の複数付与魔法でかけられる人数六人に、荷運びを受け持つケールを加えて、最大で七人というのが普通となっている。

 勿論、それが絶対的なルールとなっている訳では無く、それ以上の人数でパーティーを名乗っている者達も居るが、基本的には二つのパーティー人数でチーム、それ以上でクランと呼ぶのが一般的となっている。

 探索者の多くは、活動地域が固定される傾向があって、ある程度安定するとパーティーで家を借り、共同生活を行う事も多いが、最大で七人となるので、それなりに大きい家を借りるのだ。

 マディナから、アルは一人暮らしと聞いていた二人であったが、家のサイズは一人暮らしとしては大きなものであった。


「元々此処の出身、あるいは以前組んでいたパーティーホーム? でも、一人暮らしなんだよね」

「イルナ、過去の詮索は、探索者としてはマナー違反ですよ」

「そうだけど、気になるじゃない」


 実際、ライザも気にはなっていた。もし、そうした過去の事情があって、ソロで活動しているのだとしたら、今日考えていた事は、アルの気分を害してしまうかもしれない。

 そう考えて、やはり出直そうかと弱気になったエルザであったが、『ま、いいか。行くよー』とイルナに引き摺られる様に、アルの家へと向かったのであった。


「で、何の用だ」

「えー、その言い方は酷くない?」

「いや、態々訪ねてくるからには、何か用があったんだと思ったんだが、違うのか?」

「ああ、そう言われると、酷くもないの、かな?」

「いや、知らないけどさ。

 それで・・・いや、それより先に、ライザはどうしたんだ?」


 遭って挨拶を交わし、という普通の流れから、ちょっとした会話の発展でしかなかったやり取りの、その間、ライザは縮まって、イルナの後ろに隠れる様になっていた。


「あーうん、ちょっと放っといて上げて貰えるかな」

「よく分からないが、まあ、とりあえず入れよ。お茶くらいは入れるぞ」

「うん、ありがとね」


 二人を応接室に案内し、お茶を入れる為にその場を離れるアルの後ろで『ライザ何やってるの』『でも、だって』等と声が聞こえた気もするが、きっと気のせいだろうという事にして、放って置く事にしたのは、ある意味で英断であったのかも知れない。


「で、何の用だ?」

「あれ、何かデジャヴュ」

「いや、そういうのいらないから」

「とりあえずお礼を言いに来たのと、他にも色々」

「ん? 別に礼を言われる様な事はしていないよな」

「そんな事無いよ。わたしも、ライザも、助けられた訳だし」

「お互いに依頼で動いていた結果ってだけだろ。しかも暫定とは言え組んでいたんだ、礼を言われる事じゃないだと思うが、まあ良いか。

 それで、他には?」

「ええっ、未だお礼言ってないよ!」

「いや、だって、言われる程じゃないけど、そっちは言いたい訳だろ。で、その意思は受け取ったから、これで良いんじゃないか?」

「良く無いよ」

「あ、あの・・・アル、もしかして迷惑だったかな?」

「お、喋った」


 実際には先刻、背中越しに声は聞こえていたのだけれど、あれは聞こえていないという体で、あえてふざけてみた訳だ。


「えっと、アルは畏まられたりするのが好きじゃないんだったよね。

 でも、こういうのは気持ちだから。

 アル、助けてくれてありがとう」

「んお、おう。まああれだ、気にするな」


 ライザが顔を伏せ気味にしていた為、上目遣い気味で礼を言ってきた事を見て、何となく照れを覚えるアルであった。


「あれ? 何この雰囲気。

 ひょっとしてわたし、お邪魔かな」

「イルナっ、そういう冗談は止めてって言ってるでしょ!」


 顔を真っ赤にしたライザの叫び声が、今に大きく響き渡った。


「で、イルナは満足したか?」

「むう、アルマンさんは動じなくて、つまらないなあ」

「イルナ! いい加減にしろ」

「ほら、ライザの口調も戻っちゃったじゃないか」

「なっ! アルまでそんな事を・・・」

「それで? いい加減、次に進めてくれないか」

「あ、うむ。ええと、アルに借りていた無間袋を返していなかったし、分配も未だだったから」


 ライザはそう言うと、目の前のテーブルの上に無間袋を置いたのだった。

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