14 訪問
「な、なあ、本当に行くのか?」
「何を言ってるの。既にギルドにも手を回して、退路は断ったでしょ」
「いや、しかしだな。いざとなるとこう、心の整理が付かないというかだな」
「何よもう。普段の毅然とした態度はどこに置き忘れて来ちゃったのかな? 気高き孤高姫さん」
「その名では呼ばないでって言ったじゃないのっ!」
「あ、地が出てる」
「む・・・」
昨日は、朝からライザが考え込んでしまって、結局宿で一日を終えてしまっていた。
但し、この予定外の休息日は、アルとの関係をイルナがからかってみたり、その所為でライザが地を出したりと、これまで以上に関係が近づいた結果にもなったのであった。
「とりあえず、ギルド長に教えて貰ったアルマンさんの家は、もうこの辺りなんだから、いい加減覚悟を決めなさい!」
「しかしだな」
「ほんと、ライザったら、急に女の子になっちゃうんだから。
出会ってからこれまで、こんなハッキリしないライザを見た事無かったわ」
「わ・・・私だって」
「ん?」
「私だって、こんな自分知らないしっ。どうして良いか、自分でも分からないんだから仕方無いでしょっ!」
「開き直るしなあ」
そう、本当であれば昨日の内に、改めてアルに礼を言いに行くべきであったのだけれども、ライザが悩み込んでしまった事もあり、一日間が空いてしまったのだ。
とは言っても、そのおかげでライザの心が纏まった為、決して無駄では無かった。
問題は、いざアルの家が近付く程に、ライザが動揺し始めた事であったが、イルナにしてみれば、こうした素のライザを感じられる様になった事もまた、気持ち的に救われている要素となっていた。表面的に割り切ってはいるものの、それでもそれなりの期間、仲間として一緒に活動していたイェランの裏切りは、やはり堪えていたのだから。
「っと、ここだね。
それにしても、大きくはないと聞いたけどさ、パーティーハウスとしても十分な大きさはありそうだよね」
マディナが教えたアルの家は、お屋敷という程には大きくはないが、それでも一般民が暮らすには大きい方であった。
探索者が組むパーティーは、一度の複数付与魔法でかけられる人数六人に、荷運びを受け持つケールを加えて、最大で七人というのが普通となっている。
勿論、それが絶対的なルールとなっている訳では無く、それ以上の人数でパーティーを名乗っている者達も居るが、基本的には二つのパーティー人数でチーム、それ以上でクランと呼ぶのが一般的となっている。
探索者の多くは、活動地域が固定される傾向があって、ある程度安定するとパーティーで家を借り、共同生活を行う事も多いが、最大で七人となるので、それなりに大きい家を借りるのだ。
マディナから、アルは一人暮らしと聞いていた二人であったが、家のサイズは一人暮らしとしては大きなものであった。
「元々此処の出身、あるいは以前組んでいたパーティーホーム? でも、一人暮らしなんだよね」
「イルナ、過去の詮索は、探索者としてはマナー違反ですよ」
「そうだけど、気になるじゃない」
実際、ライザも気にはなっていた。もし、そうした過去の事情があって、ソロで活動しているのだとしたら、今日考えていた事は、アルの気分を害してしまうかもしれない。
そう考えて、やはり出直そうかと弱気になったエルザであったが、『ま、いいか。行くよー』とイルナに引き摺られる様に、アルの家へと向かったのであった。
「で、何の用だ」
「えー、その言い方は酷くない?」
「いや、態々訪ねてくるからには、何か用があったんだと思ったんだが、違うのか?」
「ああ、そう言われると、酷くもないの、かな?」
「いや、知らないけどさ。
それで・・・いや、それより先に、ライザはどうしたんだ?」
遭って挨拶を交わし、という普通の流れから、ちょっとした会話の発展でしかなかったやり取りの、その間、ライザは縮まって、イルナの後ろに隠れる様になっていた。
「あーうん、ちょっと放っといて上げて貰えるかな」
「よく分からないが、まあ、とりあえず入れよ。お茶くらいは入れるぞ」
「うん、ありがとね」
二人を応接室に案内し、お茶を入れる為にその場を離れるアルの後ろで『ライザ何やってるの』『でも、だって』等と声が聞こえた気もするが、きっと気のせいだろうという事にして、放って置く事にしたのは、ある意味で英断であったのかも知れない。
「で、何の用だ?」
「あれ、何かデジャヴュ」
「いや、そういうのいらないから」
「とりあえずお礼を言いに来たのと、他にも色々」
「ん? 別に礼を言われる様な事はしていないよな」
「そんな事無いよ。わたしも、ライザも、助けられた訳だし」
「お互いに依頼で動いていた結果ってだけだろ。しかも暫定とは言え組んでいたんだ、礼を言われる事じゃないだと思うが、まあ良いか。
それで、他には?」
「ええっ、未だお礼言ってないよ!」
「いや、だって、言われる程じゃないけど、そっちは言いたい訳だろ。で、その意思は受け取ったから、これで良いんじゃないか?」
「良く無いよ」
「あ、あの・・・アル、もしかして迷惑だったかな?」
「お、喋った」
実際には先刻、背中越しに声は聞こえていたのだけれど、あれは聞こえていないという体で、あえてふざけてみた訳だ。
「えっと、アルは畏まられたりするのが好きじゃないんだったよね。
でも、こういうのは気持ちだから。
アル、助けてくれてありがとう」
「んお、おう。まああれだ、気にするな」
ライザが顔を伏せ気味にしていた為、上目遣い気味で礼を言ってきた事を見て、何となく照れを覚えるアルであった。
「あれ? 何この雰囲気。
ひょっとしてわたし、お邪魔かな」
「イルナっ、そういう冗談は止めてって言ってるでしょ!」
顔を真っ赤にしたライザの叫び声が、今に大きく響き渡った。
「で、イルナは満足したか?」
「むう、アルマンさんは動じなくて、つまらないなあ」
「イルナ! いい加減にしろ」
「ほら、ライザの口調も戻っちゃったじゃないか」
「なっ! アルまでそんな事を・・・」
「それで? いい加減、次に進めてくれないか」
「あ、うむ。ええと、アルに借りていた無間袋を返していなかったし、分配も未だだったから」
ライザはそう言うと、目の前のテーブルの上に無間袋を置いたのだった。




