Chapter 8: Yes, Sir
午前の柔らかな陽射しが、金色のカーテンを透かして細い筋となって差し込み、冷え切った白い部屋の床に影を落としていた。
ジョアンはソファの横に立ち、いつものように背筋を伸ばしていた。 そして、目の前にいる男が作業しやすいように、両腕を少しだけ前へ上げる。
スキンが近づいてくる。 ジョアンのシャツの襟元へ手を伸ばし、乱れていた襟を整えていく。 指先が布地の上をそっと滑り、皺を伸ばす。 それから裾を引き下ろして整えると、スキンは自分のシャツへ向き直り、落ち着いた様子でボタンを留め始めた。
新聞を読んでいた老人が、顔を上げた。
「今日は制服を受け取りに行くんだろう?」
「はい」 スキンは頷いた。 「昨日、事務から電話がありました。制服の仕立てが終わったそうです」
ジョアンは一瞬だけ顔を上げ、スキンを見た。 それから自分のシャツへ視線を落とす。 両手でシャツの裾を強く握りしめたまま、スキンが身なりを整えるのを黙って待っていた。
襟元が整うと、スキンはテーブルの上から車の鍵を手に取った。 そのまま玄関へ向かって歩き出しながら、ジョアンへ手招きをする。 ついて来い、というように。
だが、その瞬間―― 目の前の大きな玄関扉が開いた。
そこから、二人の女性が姿を現した。 二人とも汗にまみれ、服には芝生の匂いが染みついている。 そして、どちらも同じように植木鉢を抱えていた。
顔には笑みが浮かんでいた。 けれど、二人の視線がジョアンへ向けられた瞬間、その笑みは少しずつ消えていった。 残ったのは、ただ静かな沈黙だけだった。
「もう出かけるの?」 恋人がスキンへ尋ねた。
「うん……」 スキンは短く答えた。
年配の女性は植木鉢をテーブルの上へ置いた。 そして、スキンと花について短く言葉を交わす。 その声は柔らかかった。
しかし、彼女の視線がジョアンへ向いた瞬間―― その穏やかだった眼差しは、まるで何かを見定めるような、敵意を含んだものへと変わった。
首元の真珠のネックレスが光を反射する。 その眩しさに、ジョアンは何度も瞬きをした。
「この子が、ちゃんと馴染めるといいけれど……うちはあまり広くないからね」
彼女はそう、静かな声で言った。 けれど、その声音には鋭いものが含まれていた。
彼女は植木鉢を持ち上げ、そのまま家の中へ入っていく。
ジョアンの視線は、その背中を追っていた。 何も言い返さない。 ただ少年は顔を上げると、スキンのそばへ歩み寄った。 まるで、早くここから連れ出してほしいとでも言うように。
恋人はジョアンをちらりと見た。 何かを言いたそうに唇を噛んだが、結局その言葉を飲み込み、いつものようにスキンへ別れを告げた。
玄関扉が、ゆっくりと静かに閉じていく。
午前の陽射しが芝生を照らしていた。 海の塩気を含んだ風が、柔らかく吹いてくる。 その風には、玄関前に並べられたばかりの植木鉢から漂う、湿った土の匂いが混ざっていた。
緑の葉には、まだ水滴が残っている。 陽の光を受け、小さな輝きをいくつも散らしていた。 やがてその水滴は、少しずつ蒸発して消えていった。
ジョアンは、それらの植木鉢の横を黙って通り過ぎた。 もう家を振り返ることはなかった。
木の門がゆっくりと開く。 少年はそこから外へ出ると、海沿いの道端に立って、静かに待った。
柔らかな風が、金色の髪をそっと撫でていく。 目の前には、どこまでも続く青い海。 波は一定のリズムで岸へ打ち寄せている。
けれど、ジョアンはその海を見上げようとはしなかった。 ただ俯き、自分の靴先を見つめながら、静かに待っていた。
ほどなくして、スキンの車がゆっくりと車庫から出てきた。
ジョアンはドアを開け、いつものように静かに座席へ腰を下ろした。 車のドアが閉まる。
冷たいエアコンの空気が、少しずつ海の匂いに取って代わっていった。
「あと数週間もすれば、学校が始まるな」 スキンが口を開いた。
ジョアンは、なおも窓の外を見つめていた。
「……うん」
スキンは、ほんの一瞬だけ彼を横目で見た。
「……そうですか」
一呼吸ほどの沈黙が流れた。 ジョアンは唇を固く結び、視線を動かさないまま、かすかに息を吐いた。
「……はい」
スキンは、それ以上何も言わなかった。
車はゆっくりと家の前を離れ、二人を乗せたまま、海沿いの長い道を進んでいく。 その向こうでは、波が変わらぬ音を立てながら、静かに岸へ打ち寄せ続けていた。




