Chapter 4: Sukin Sukontharos
廊下の先から、革靴の音が聞こえてきた。
ジョアンは足を止めた。
顔に浮かんでいた笑みが、ゆっくりと消えていく。
足音は、少しずつ近づいてくる。
やがて、薄暗い廊下の先から、一人の男が姿を現した。
飾り気のない黒いスーツ。
細いフレームの眼鏡。
そして、非の打ち所がないほど整った身のこなし。
男はジョアンの姿を見つけると、足を止めた。
「……ジョアン」
少年は、じっと男を見つめた。
「スキン先生……」
男は、まっすぐブルーへ視線を向けた。
その眼差しは静かで穏やかだった。
まるで、目の前の光景を見極めるかのように。
やがて男は、急ぐ様子もなくゆっくりと歩み寄り、礼儀正しく手を差し出した。
「こんにちは、ブルーさん。今朝、お会いしましたよね」
その顔には、礼儀正しい笑みが浮かんでいる。
「私はここの教師です。スキンと申します……どうぞよろしくお願いします」
ブルーは差し出された手を見つめ、それからスキンの顔へ視線を戻した。
そして、やがてその手を握り返した。
口元には、かすかな笑みが浮かんでいた。
「こちらこそ……」
スキンの顔から、礼儀正しい笑みがゆっくりと消えていった。
残ったのは、ただ静かで平坦な眼差しだけだった。
ジョアンは二人を横から見上げていた。
バッグを胸に抱きしめたまま、二人の間へ少しでも近づこうとする。
スキンは小さく咳払いをした。
ジョアンへちらりと目を向けると、疲れたような表情でブルーに告げた。
「この子が、私が面倒を見ている生徒です。タイに来て、まだそれほど経っていません」
スキンは廊下の端まで歩いていき、そこから下に広がる景色を静かに見下ろした。
「この子は少し特殊な事情を抱えています。故郷でいくつか問題があって、この学校で暮らすことになったんです」
「慣れないものを受け入れるのは、あまり得意ではないのでしょう」
ブルーは、ちらりとジョアンを見た。
少年は相変わらずバッグを強く握りしめている。
視線は低く落ち、まるで自分自身をできるだけ小さくしようとしているかのようだった。
ブルーは再びスキンへ向き直り、かすかな笑みを浮かべた。
「僕は……彼が、僕たちが思っているほど無邪気な子だとは思いませんけどね……」
スキンはため息をつき、ブルーへ振り返った。
「まだ初日ですよ、ブルーさん……」
「あなたに、彼のことが理解できるとは思いませんよ」
ブルーの笑みが、再び消えた。
静寂が、その場に訪れる。
ブルーはそれ以上何も言わず、スキンの横を通り過ぎていった。
返事の代わりに残ったのは、ただ風の音だけだった。
ジョアンは、ブルーの背中を目で追い続けていた。
その一方で、スキンはジョアンを連れて、来た道を戻ろうとしていた。
そのとき――
背後から、一つの声が響いた。
短く、淡々としたその言葉に、皆が足を止めた。
ただ一人――
ジョアンだけが、その言葉を知っていた。
「また、ここに置いていかれるぞ」
スキンはただ俯き、急いで走り去っていく少年の影を見つめていた。
やがて、その姿は廊下の先へと消えていった。




