Chapter 3: First Step Together
「急ぎましょう……」
校長は、かすかに微笑んだ。
> 「入学式が始まってしまう前に」
ブルーは頷いた。
> 「はい」
廊下はゆっくりと二人を導いていく――
その先に待っていたのは、何百人もの生徒たちの話し声で満たされた、大きな講堂だった。
舞台の上には、**Warii Kuramu**の校章が掲げられている。
その下では、血のように深い臙脂色の幕が固く閉じられ、巨大な窓を覆い隠していた。
そのため、講堂を照らしているのは、淡い橙色の照明だけだった。
校長はブルーを舞台の前へ連れていき、先ほどの金髪の少年――**ジョアン**と並んで立たせた。
イギリスからやって来た新入生は、俯いたまま自分の靴先を見つめていた。
前髪の一房が目元にかかり、その一部を隠している。
指先は、どうしていいのかわからないと言わんばかりに、制服の裾を強く握りしめていた。
ブルーは舞台の上から、時折その少年を見ていた。
けれど、何も言わなかった。
やがて式が終わり、講堂のざわめきも少しずつ静まっていく。
ブルーは、小さく息を吐いた。
そして少年のほうへ振り向くと、ジョアンにしか聞こえないほどの声で、何かを囁いた。
それから背を向け、そのまま歩き出していく。
ジョアンは小さく肩を震わせた。
しばらく若い教師の背中を見つめていたが、すぐにその後を追いかけた。
> 「ま……待ってください!」
ジョアンは慌てて足を速める。
先ほど口から出た英語は、自分が思っていた以上に大きな声になっていた。
ブルーは振り返ると、口元をほんの少しだけ緩めた。
廊下を先に進みながら、ブルーは校長から渡されたばかりの茶色い書類ファイルを開いた。
一番上には、校舎の見取り図が挟まれている。
その横には、**Warii Kuramu**の校章が刻まれたピンバッジが、光を受けてきらりと輝いていた。
ブルーは地図を少し広げ、そこに描かれた古い建物の写真を指差した。
> 「僕たちの教室は、ここだ」
聞き取りやすい英語でそう言いながら、地図を指で示す。
> 「今日はまだ授業はないだろうし……」
>
> 「まずは、みんなと知り合おう」
ジョアンは、わずかに足を止めた。
そしてブルーの顔を見上げる。
まるで、先ほど聞いた言葉を頭の中でもう一度確かめるように。
> 「……僕たち?」
その声は、息とほとんど変わらないほど小さかった。
ブルーはただ、振り返って彼の顔を見る。
> 「そう」
>
> 「一緒に行こう」
ジョアンは、再び視線を足元へ落とした。
金髪の一房が目元に垂れ、その瞳を隠す。
指先は、黒いショルダーバッグのストラップをそっと握っていた。
そして――
口元には、ほんのかすかな笑みが浮かんでいた。
コツ……
コツ……
コツ……
だが、そのとき。
聞き覚えのある声が、二人を呼び止めた。
> 「ジョアン」




