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よろず屋K  作者: やしき丸


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7/8

Vtuber(前)

「ケイさん、Vtuberって知ってる?」


「いきなりどうしたんですか? 一応知ってはいますけど」


「今回の依頼主がね、Vtuberなのよ」


「へぇ、そうなんですね」


「かなり人気のVtuberなんだけど、配信で何かの声が入り込んだから、悪いものなら祓ってほしいって」


 話を聞いた感じでは、幽霊関連ではなさそうだ。

 幽霊は基本的に声を出せない。例外はもちろんあるが。


「それとね、勝手に決めちゃって悪いんだけど、今回も神月(かみつき)さんのところの(あずさ)ちゃんが同行するから、よろしくね」


「えっ?」


 スマホから漏れた佐伯さんの言葉に反応して、うちの子たちがざわざわと(うごめ)きはじめた。


「この間の研修以来、梓ちゃんがまじめに修行するようになったから、是非またお願いしたいって頼み込まれちゃって……断り切れなかったのよ」


「……うーん」


 ちらっとうちの子たちを見てみると、すでに機嫌を損ねてしまっているようで、俺に絡みつきながら高速で体を撫で回している。


「うちの子たちは嫌がってるみたいなんですが……」


「そこをなんとか! 聞こえてるでしょ? 仕事だと思って、お願い! 今回も報酬が別で出るから」


 それを聞き、みんなは首を回すように反応している。「もう一声」「条件次第」そんな感じだろう。いつの間にやら上から目線の交渉術まで身に着けてしまったようだ。


「交渉には応じてくれるみたいです。報酬が足りないと言ってます」


「うーん……仕方ないわね。研修の方は報酬を倍にします。これでどう?」


 うちの子たちはそれを聞いて頷いた。


「やってくれるみたいです」


「よしっ! それじゃ、詳細はメールで送るから、お願いね!」


 電話を切り、うちの子たちにジト目を向ける。


「いつの間に交渉なんて覚えたんだよ……まったく」


 みんなは俺にまとわりつきながら体を撫で回している。

 わかってはいる。彼女たちにお金なんて必要ない。俺に少しでも良い暮らしをさせようと考えてやっているのだ。


「怪異系は報酬がいいし、そろそろ引っ越しも考えるか」


 うちの子たちは一斉に頷いてぐるぐると俺の周りで蠢いている。今住んでいるボロアパートは、みんなには不評なのだ。




「ケイさーん! どもー!」


 待ち合わせ場所に現れた神月さんは、相変わらず明るいノリだった。


「お姉さんたちもこんにちは! 今日はよろしくお願いします!」


 神月さんがうちの子たちに挨拶をすると、みんなはうむうむと尊大に頷いた。

 どうやら前回のことで上下関係ができあがっているようだった。


「神月さんは今回の依頼については聞いてる?」


「Vtuberのヤミちゃん! マジ嬉しいんですけど!」


「知ってるの?」


「トリリアンスターって事務所の人気ライバーじゃん。むしろケイさん知らないの?マジうけるー」


 人気があるVtuberだというのは依頼を受けたあとに少し調べて知っているが、配信を見たことは一度もない。

 うちの子たちは映画やドラマ、それに野球が好きなので、普段はそういうのしか見ていないのだ。


「神月さん、依頼人と会うときはファンのような振る舞いは避けてね」


「わかってるって! 仕事だもんね、任せといてよー」


 本当に大丈夫だろうか。少し心配だが、修行はまじめにやっているらしいし、軽いのはノリだけだと信じるしかない。



 依頼人の住む都内のマンションに着くと、二十代の女性二人が出迎えてくれた。

今回の依頼人であるVtuber、宵暮(よいぐれ)ヤミさんとそのマネージャーさんだ。


「どうも。よろず屋Kの坂木葉(さかきば)(けい)と申します」


「宵暮ヤミのマネージャーの立花と申します」


 マネージャーさんと名刺を交換する。ヤミさん本人は黙って俺たちのやりとりを眺めている。

 配信者はもっと騒がしいものと勝手に思っていたが、そうでもないらしい。


 ちなみに、意外にも神月さんも大人しくしてくれている。


「早速ですが、音声を聞かせてもらってもよろしいですか?」


「はい。配信のアーカイブですが、はっきりと声らしきものが入っているように聞こえます」


 ヤミさんのパソコンに保存されているデータを再生してもらう。

 声らしきものは、配信の終わり際の挨拶をしてるときに入り込んだらしい。


『今日はこの辺でおわろっかな。みんな明日も元気に『まて』頑張ってこー!」


 名前に似合わず元気なヤミさんの挨拶の途中で、確かに女性の声で「まて」と言っているように聞こえる。


「どうでしょうか? 何か悪いものであれば、祓ってほしいのですが」


 立花さんは暗い表情だ。反対に、ヤミさんはあまり気にした様子はない。


「その前に、ヤミさんはこれを何回くらい聞きましたか?」


「えっ?」


 ヤミさんがきょとんとした顔でこちらを向いた。自分に話が振られるとは思っていなかったらしい。


「ご自分でどれくらい聞いて、SNSでどういう反応をしたか教えてください」


「えっと……10回くらい、かな? 話題になってたから、SNSで怖がる感じで話題にしましたけど……?」


 ヤミさんの返答を聞きながら、この話題に関連する切り抜き動画やSNSの反応などをチェックしていく。人気のVtuberということで、かなりの数の切り抜きが上がっており、SNSでもかなりの反響を呼んでいる。


 というかチャンネル登録者120万人もいるのか。ちょっと人気くらいのイメージでいたが、想像していたよりずっと上だった。

 これならこういうこともあるだろう。これも一つの有名税なのかもしれない。


 知りたいことは知れた。全容が見えればあとは解決するだけ。

 今回は研修らしく、神月さんにやってもらうのもいいかもしれない。

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