不幸の手紙
ある日、郵便受けに手紙が入っていた。
ただの手紙ではない。これは『不幸の手紙』だ。
切手の貼られていない手紙には『このQRコードを読み取らなければ不幸になります』と書かれている。
こういうのは現代ではメールやSMSに移行したと思っていたが、まだこういうのもあるんだなとちょっと感心した。
しかもこれは単なるイタズラではない。
この手紙には、微弱だがしっかりと『呪い』が込められている。
手紙を持った瞬間から俺にまとわりついてきた呪いは、しかしうちの子たちによってすぐに剥がされて捨てられた。
念のため手紙を焼却し、それでこの話は終わりだと思っていた。……のだが。
「ケイさん、最近変な手紙がこなかった?」
佐伯さんが電話でこんなことを聞いてきた。
変な手紙と言えばあの不幸の手紙しか思い当たらない。
「来ましたよ。不幸の手紙が」
「やっぱり……。最近、私が仕事を回してる関係者のところに送られてきてるらしいのよ」
偶然じゃなかったんだな……。切手を貼ってなかった時点で疑うべきだったか。
「私に恨みがある人が郵便受けに入れて回ってるみたいで……心当たりが多すぎて困ってるのよね……」
インチキ霊能力者の佐伯さんはたくさんの依頼を受け、それを色んな人に回している。インチキな時点で何かしら恨みは買っていそうなものだけど……。
「ねえケイさん。犯人捜し手伝ってくれない? 報酬は出すから、お願いっ!」
うーん……。
自業自得な気もするけど、佐伯さんには世話になってるし、どうしようか。
「ちょっと待ってくださいね」
一旦スマホを離す。
「この前の不幸の手紙なんだけど、どこから来たかわかる?」
うちの子たちは頷いた。俺を呪おうとした相手の事を根に持っていたんだろう。
「受けろ受けろ」と言わんばかりに俺の周りを蠢きながら、体を撫で回す。
「佐伯さん。うちの子たちが出所わかるみたいなんで、ちょっと見てきます」
「ほんと!? 頼りになるぅ! 見つけたらまた連絡してね。よろしく!」
電話を切り、俺は地図を持ってきて広げた。
「どこかわかる? 指さしてみて」
聞いてみたが、うちの子たちは周りをうろうろしているだけだ。
……もしかして。
「もしかしてだけど……みんな、地図読めない?」
彼女たちは一斉に頷いた。どうやらうちの子たちは地図が読めないらしい。
これは困ったぞ……。
「うーん、どうするか……」
悩んでいると、俺に憑いている内の一人の涼ちゃんが、ある方向を指さした。
涼ちゃんは最初悪霊だったのだが、鎮めてあげた時に俺に憑いてきたので悪霊の霊を『りょう』と読んで『りょうちゃん』と名付けた。さすがに霊ちゃんではかわいそうだったので、涼しいと書いて涼ちゃんとしたのだ。
まともな名前を付けられて、当時涼ちゃんは大層喜んでいた。
閑話休題。
涼ちゃんが指さした方向に犯人がいるという事だろう。
「結構遠い?」
涼ちゃんは、頷いて肯定するでもなく、首を横に振って否定するでもなく、曖昧に首を回している。
これは「部分的にそう」という意味だ。今回なら「そこまででもない」か「割と近い」くらいの意味か。
俺はタクシーを呼んで、涼ちゃんが指さしている方向に走ってもらった。
しばらくタクシーで移動していると、涼ちゃんが指している向きが変わった。
この先って事か。
「ここから近い?」
タクシーの運転手が聞き取れない程度に小さい声で呟くと、涼ちゃんは頷いた。
車を停めてもらって、そこからは歩いて行くことにした。
涼ちゃんが指差す方向に歩いていくと、住宅街に入った。
さらにしばらく歩いていると、一軒の民家に辿り着いた。
もう指をさされなくてもわかる。この家だ。
涼ちゃんにお礼を言って、佐伯さんに電話をかける。
「犯人の家がわかりました、場所は――」
俺は佐伯さんに電柱に書かれていた住所を教えて、すぐに来てもらう事にした。
「お待たせ!」
佐伯さんは急いで来たらしく、化粧もほとんどしていない。
……服装は相変わらずだが。
「この家です。ここからでも呪いを感じるんで、間違いないかと」
「ここは……」
佐伯さんには心当たりがあるらしい。
佐伯さんは躊躇なくインターホンを鳴らす。
少し待っていると、中から中年の男性が出て来た。
……顔色が悪い。この男性も呪いにかかっている。……なんでだ?
男性は俺達を中に招き入れてくれた。
「すみませんでした!」
と、いきなり土下座し始めた。
「三枝さん。どういう事か、説明してくれる?」
「はい……」
この男性は三枝さんと言って、俺と同じく佐伯さんから依頼を受けて仕事をしている『まじない師』らしい。
佐伯さんと報酬の事でトラブルになり、軽い呪いで嫌がらせをしてやろうと、不幸の手紙を関係者の家の郵便受けに入れて回ったんだそうだ。
だが、俺を含め何人かが呪いを破ってしまった。
呪いは破られると術者に返っていく。呪詛返しと言うやつだ。
結果、三枝さんが呪われてしまったということらしい。
「自分では解呪できなくて……お願いします! なんとか解呪してもらえませんか?」
土下座しながら頼み込んでくる三枝さん。……佐伯さん次第かな。
「二度とこういうことを起こさないって約束して。それと、何か言いたいことがあるならちゃんと話して。報酬だって、相談してくれればちゃんと聞くんだから」
「はい……すいません」
「ケイさん。お願い」
「みんな。頼むね」
うちの子達が三枝さんを取り囲み、呪いを引き剥がす。
もちろんわざと激痛を与えながら。
俺にも不幸の手紙出してたからな……。
三枝さんは激しい痛みにのたうち回っていたが、うちの子たちはきちんと呪いを剥がしてあげた。
俺たちが帰る時も、三枝さんは何度も頭を下げながら見送っていた。
人を呪わば穴二つ。呪いなんてかけるもんじゃないね。本当に。




