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聖女は王の元に、俺は闇に──堕ちた英雄の復讐譚  作者: 雷覇


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第61話:最後の戦いへ

瓦礫の散らばる通路を抜け、カインは前線へ戻ってきた。

焦げた空気の匂いはまだ残っているが、戦場の喧騒はすでに遠い。

アリアがこちらに気づいて視線を向ける。


「戻ったのね」


無事を確認するように一瞬だけ目を走らせる。


「被害状況はどうだ」


カインの問いに、アリアはすぐに答えた。


「死者は出てないわ。重傷者もなし」

「軽傷が数名いるけれど、戦線復帰可能よ」


彼女は地図の一点を指でなぞる。


「そして強化兵は、すべて動きを止めた」

「同時刻に各所で確認された。制御が完全に断たれたわ」


伝令が頷いて補足する。


「再起動の兆候もありません。敵の反撃はもう考えられないかと」


アリアは一度、深く息を吐いた。


「完全にこちらの勝利よ、カイン」

「ゼクスが倒れた時点で、勝負は決まっていた」


カインは短く目を閉じ、ゆっくりと息を整える。


「よく持ちこたえたな」

「ええ」


アリアは小さく頷く。


「あなたが戻ってくるまで、全員持ちこたえた」


伝令が一歩前に出た。


「報告します。強化兵はすべて行動を停止していますが……完全に機能停止したとは断言できません」


その言葉に、指揮所の空気がわずかに張り詰める。


「中枢が断たれたことで、命令待機状態に入っている可能性があります」

「再起動、あるいは自爆用の術式だけが残されている恐れも」


アリアが視線をカインへ向けた。


「……どうする?」


カインは止まったまま立ち尽くす強化兵たちの姿を見つめる。


「……哀れな者たちだ」


低く、噛みしめるような声。


「だが、こうなってしまえば、もう人間に戻ることはできまい」


拳を、わずかに握る。


「このまま放置すれば、再び使われる」

「兵器として。あるいは捨て身の自爆兵としてな」


アリアは何も言わない。

否定もしない。ただ、その言葉を受け止めている。


「それを許すわけにはいかない」


カインは顔を上げ、はっきりと言った。


「……哀れではあるが、情を挟む余地はない。

痕跡すら残らぬよう、完全に処分するしかない」


指揮所に、短い沈黙が落ちた。

やがてアリアが、静かに頷く。


「分かったわ。こちらで手配する」

「……せめて、苦しまずに済むようにしてやってくれ」

「ええ。もちろん」


その一言には、せめてもの慈悲が込められていた。

カインは小さく息を吐く。


「後は、王エルヴァンと神の軍とやらだけだ」


低く呟かれたその声に、勝利の昂ぶりはない。

あるのは、すでに数え切れない犠牲を見送ってきた者だけが持つ、冷えた静けさだった。


「神の軍とやらが、どれほどの潜在能力を秘めていようと所詮は寄せ集めだ。練兵すら満足に施されていない兵が、果たしてどこまで戦えるかな?」


「黒の軍団は、幾度も練兵を重ねてきた実戦の兵だ。

命令を出すだけのエルヴァンに、その重要性が理解できるとは思えない」


アリアは静かに頷いた。

視線の先には、すでに崩れかけた王国の影がある。


「ならば、迷いは捨てましょう」

「王が作り出した幻想も、歪んだ軍も――」


彼女は一歩、前へ出る。


「この手で、終わらせよう」


カインは一歩前へ出ると、黒の軍団を見渡した。

甲冑の擦れる音、武器を握り直す音。そのすべてが、彼の言葉を待っている。


「聞け、黒の軍団!」


低く、だがよく通る声だった。


「玉座は、もう目の前だ」

「この国を歪めた王も貴族どもも逃げ場はない」


剣の柄にかけた手に、わずかに力が籠もる。


「俺たちは、破壊のために戦ってきたわけじゃない」

「奪われたものを、取り戻すためにここまで来た」


沈黙が落ちる。

だがそれは恐怖ではない。刃のように研ぎ澄まされた集中だった。


「この手で、この国を終わらせる」

「そして、俺たちの名誉も、誇りも、すべてを取り戻す!」


その瞬間、黒の軍団の士気は一気に跳ね上がった。

怒号が、剣が、槍が、地を揺らす。


「おおおおおっ!!」


玉座へ向かう道が、轟音とともに開かれていく。

もはや退路はない。

残るのは王と、その虚構の軍だけだ。

カインは剣を抜き、前を見据えた。


「……ああ」

「これで終わりだ、エルヴァン」


黒の軍団は、最後の進軍を開始した。

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