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聖女は王の元に、俺は闇に──堕ちた英雄の復讐譚  作者: 雷覇


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第60話:ゲスの末路

崩れ落ちた肉塊の中で、それでも動くものがあった。

床を転がり、血と黒い体液にまみれながら、

首だけになったゼクスが、なおも生きていた。

喉は潰れ、声帯は裂けている。

それでも、歪んだ口が引きつり笑った。


「……く……くく……無駄だ……カイン……」


その目だけが、異様に冴えている。


「俺を……倒したところで……」

「お前は……王には……勝てない……」


カインは、剣を下げたまま動かない。

ただ冷たく見下ろしていた。


「……王が作り出す……神に選ばれた軍勢にはな……」


その言葉に、カインの眉がわずかに動く。


「……神の軍?」


ゼクスは、満足そうに笑った。


「そうだ……」

「神の力を……与えられながら……まだ眠っている者たち……」


血に濡れた唇が、ゆっくりと形を作る。


「……お前の恋人……セリスのようにな……」


空気が凍りついた。


「神の力を宿しながら……自覚もなくただ器として生を受けた者達……」


ゼクスの笑みが、さらに歪む。


「選ばれた者たちは……すでに集められている……」

「今頃は……準備も……整っている頃だ……」


かすれた笑いが、喉から漏れる。


「ミリアムも……」


一瞬、言葉を切り、

そして――


「今頃は王に忠実な……奴隷と化しているだろうさ……セリスのようにな」


最後に、ありったけの嘲笑を込めて吐き捨てる。


「ざまぁみろ……カイン……」

「守るだの……仲間だの……」

「そんな甘い幻想が……何を生んだ……?」


その言葉が刃よりも深くカインの胸を抉った。


「……黙れ」


低く、擦れた声だった。

だが怒号ではない。

それは感情を押し殺し、底に沈めた者の声だ。

ゼクスはそれを聞いて、なおも嗤う。


「ほらな……その顔だ。絶望の顔だよ、カイン」

「お前が信じたものは全部、王の手の中だ」


首だけになった肉塊が、歪んだ笑みを作る。

血泡を吹きながらも、その舌は止まらない。


「お前が戦場で英雄気取りをしている間に……」


そこで一度、わざと間を置く。

その沈黙が、何より残酷だった。


「王は……セリスをちゃんと愛でてやっていたぞ」


その声には、下卑た確信が混じっている。


「聖女様の力はな。全部、王の命令ひとつで引き出される」


血に濡れた唇が、歪む。


「拒む? できるわけがないだろう」

「『民のため』『世界のため』……そう言えば彼女は跪く」


ゼクスは、血に濡れた喉を鳴らしながら愉快そうに続けた。


「……残念だぜ」


その一言に、軽薄な笑いが混じる。


「あの王のことだ」

「いつまでも同じ駒を手元に置くとは思えない」


視線が、いやらしく歪んだ。


「だからよ。王が飽きたら、いずれは二人まとめて、こっちにも回ってくると思ってたんだがな……あの二人に首輪をかけて遊びたかったぜ」


ゼクスの声が、途中で歪んだ。

次の瞬間、耐えきれなくなったように噴き出す。


「っ、く……ははははは……っ!」


カインは、何も言わなかった。

ただ一歩、また一歩と歩み寄る。

その足取りに、迷いはない。

ゼクスの首が、かすかにこちらを見上げる。

まだ笑おうとした、その瞬間――


脚が容赦なく振り下ろされた。

ゼクスの頭はグシャリと砕け散り、すべてが終わった。


「……下種が」


低く、吐き捨てるような一言。

それが、ゼクスに向けられた最後の言葉だった。


血の匂いだけが残る空間で、

カインはしばらく、その場を動かなかった。


怒りも、勝利もない。

ただ終わらせたという事実だけが、重く胸に沈む。


やがて、彼は背を向ける。


「……待っていろ」


誰に向けた言葉かは、分からない。

だが確かに、それは誓いだった。


闇の中、

王へと続く道が静かに、開かれていく。


地下に、静寂が落ちる。

カインは、しばらくその場を動かなかった。

剣を握る手が、わずかに震える。


――神の軍。

――セリス。

――ミリアム。


王が作り出す、神に選ばれた軍勢。


「……そうか」


低く、噛み締めるように呟く。


「なら――」


剣を、ゆっくりと鞘に収める。


「俺が斬るべきものが増えただけだ」


振り返り、出口へと歩き出す背に、迷いはない。

神であろうと。

王であろうと。

選ばれた力であろうと。


「奪う者は、すべて斬る」


それが、彼の選んだ戦いだった。


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