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聖女は王の元に、俺は闇に──堕ちた英雄の復讐譚  作者: 雷覇


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第32話:電光石火の進軍

玉座の間に、重い空気が流れていた。

その静寂を破るように、扉が乱雑に開き、全身を泥と血にまみれた伝令がひざまずいた。


「……王よ、緊急報告にございます!」


エルヴァンはゆっくりと目を向ける。


「言え」


伝令の声は震えていた。だが、その言葉は明確だった。


「――デルオルス連邦、陥落……いたしました」


瞬間、玉座の肘掛けが鈍い音を立てて軋んだ。

エルヴァンの指先が、玉座を砕かんばかりに力を込める。


「……何だと!?」


「ドラゴンゾンビがデルオルス連邦を急襲。戦神装甲部隊で反撃しましたが……追撃中、黒の軍団が出現。ハルヴァイン陛下も討ち取られたとの報せが……」


その瞬間、王の顔から血の気が引いた。


「……ハルヴァインが、死んだ……?」


「はい。デルオルスの軍も壊滅状態。黒の軍団によって連邦首都まで制圧され、現在、国旗が降ろされたとのことです」


沈黙が流れる。

エルヴァンの視線が、静かに燃え始める。


「……やはり奴か……カイン……」


その名を口にした瞬間、室内の空気が震える。


「私に恥をかかせただけで飽き足らず、今度は王国を一つ、葬ったか」


立ち上がった王の顔には、怒りとも恐怖ともつかぬ表情が浮かんでいた。


「よかろう。ならば、次に沈むのは貴様の番だ。

 世界を敵に回したと気づかせてやる」


「ゼクスを呼べ。黒の軍団に通じる者がいないか、徹底的に洗え。

 それと……セリスの準備を急がせろ。神意を私の手に」


王の瞳には、怒りとともに狂気が宿っていた。


――デルオルス連邦

かつて豪奢と権威の象徴であった玉座の間は、今や冷えた静寂に支配されていた。

赤絨毯の上には、血に染まった王冠と、断ち切られた貴族の印章。


玉座に腰を下ろすことなく、カインは静かに前を見据えていた。

その背後には、処刑を終えた黒の軍団の兵士たちが整然と並ぶ。


「……これで、王族と旧貴族派は全て排除した」

ザイが報告し、血のついた手をぬぐう。


「兵の暴走は?」

カインは短く問う。


「ない。住民区は封鎖のみ。略奪も一切許していない。違反者は三名、処刑済みだ」


「……よくやった」


カインの視線が、王都を見下ろすバルコニーの先に向けられる。

そこには、沈黙した市民たちが集まっていた。恐怖、混乱、そして一部にある種の期待。


「我々が力を振るうのは、正義のためでもない。

 だが……罪なき者に刃を向けるほど堕ちてはいない」


カインはそのまま、バルコニーへと歩き出た。

目を伏せる民衆の前で、ゆっくりと手を挙げる。


「この国は……もう王を持たない。

 俺は支配者ではない。だが、必要な秩序は守る。

 剣を手に取り、民を虐げる者が再び現れるなら俺がそれを断つ」


その声に、誰一人歓声を上げる者はいなかった。

ただ、沈黙とともに、誰も反抗の気配を見せなかった。


カインはゆっくりと、焼け落ちた王城の玉座を見下ろしていた。


「ここには、俺のような人間は必要ない。……統治は、民を守れる者に任せる。レクスお前に任せる」


彼の言葉に応じるように、数歩後ろから歩み出たのは、かつて監獄に囚われていた一人、元司祭レクス


「この身を賭してでも……この地に秩序を取り戻してみせます」


カインは頷くだけで、それ以上は何も言わなかった。


「俺たちが進むべきは、次だ。ここにはもう、奪うものも、守るべきものもない」


アリアは黒衣をまといながら、カインのもとへ静かに歩み寄る。

カインは地図を広げ、指先で何かを思案していた。


「カイン。次は――どこを狙うつもり?」

その声には、興味が入り混じっていた。

カインは視線を動かさぬまま、地図の一国に指を落とす。


「……グラディア帝国だ」


アリアの眉がわずかに動いた。「理由は?」


「奴らの軍備は戦力も結束も他国より強い。

 だが、それゆえに落ちたと知れば……残りの国々は恐怖に支配されるだろう」


アリアは小さく笑った。「恐怖を秩序に変えるってわけね」

カインは頷きもせず、ただ静かに呟く。


「グラディア帝国は、最も恐怖で支配されている国だ。

 ……ならば、真の恐怖を教えてやろう」


夕陽の中、黒の軍勢は再びその旗を掲げる。

カインの姿は、沈む太陽を背に、次の裁きへと歩を進めていた。


黒の軍勢は、休むことなく再集結を始める。

補給と調整を最小限に抑え、迅速に次の標的――グラディア帝国へと進軍する。


「我々が新たな秩序を刻む」


風が吹き抜ける中、カインの瞳には一切の迷いがなかった。


電光石火の進軍。

もはや彼らの征服は、ただの戦争ではない。

それは、腐りきった神と王たちへの審判だった。


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