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聖女は王の元に、俺は闇に──堕ちた英雄の復讐譚  作者: 雷覇


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第30話:襲われたデルオルス連邦

静まり返った作戦会議室の空気を、アリアの声が破る。


「連合軍を作られる前に、動くべきよ」


地図の上に描かれた五大国の境界線。

中央には、かつて天罰監獄があった場所が赤く記されていた。


「監獄を落としたことで、あちらは警戒を強めるでしょう。各国が結託する前に、混乱を作り出す必要があるわ」


カインは無言でアリアを見つめた。


「……何かいい案があるのか?」


アリアは静かに一歩前に出ると、黒水晶を取り出して見せた。


「ガルザイル。あの竜の骸……まだ魔力の残滓がある。私の魔法とこの黒水晶の力があれば動かせる」


仲間たちの間にざわめきが走る。


「まさか、あれを……アンデッドに?」と呟いたのはザイだった。


「正確には、ゾンビドラゴン。意志も記憶も失ってるけど、私たちの命令なら刷り込める。皮膚や牙は武器や防具の素材にしたので戦闘力、防御力ともに各段に落ちたけど、それでも十分な脅威となる」


アリスが目を伏せながら尋ねた。


「でも、それじゃ……罪のない人たちも……」


アリアはほんの一瞬、言葉に詰まったが

すぐに目を伏せたアリスに向き直る。


「……その代償で、カインを守れるなら私は迷わない」


沈黙が落ちた。

やがて、カインがゆっくりと立ち上がる。


「……狙う国は?」


ザイが即座に答える。


「デルオルス連邦。ハルヴァイン王は戦略家で、エルヴァンと早期に連合を組む可能性が高い。抑えるなら、今だ」


カインは頷き、アリアに視線を戻した。


「頼む。あの力――再び使おう」


アリアは静かに微笑みだ。


「了解。私がガルザイルを地獄から呼び戻してみせるわ」


かつて天罰監獄の中心にあった封印炉。

今は瓦礫に埋もれたその地下深くに、再び魔力が満ち始めていた。


魔方陣が描かれた黒灰の床に、竜の巨骸――ガルザイルの残骸が横たえられている。

骨は黒く焦げ、翼は裂け、牙はなおも呪詛を帯びて鈍く脈打つ。

アリアは沈黙の中、黒水晶を炉の中心に置いた。


「……今より黄泉より魂を引き戻す」


彼女の声が、空間に波紋のように広がる。

祭壇の周囲に刻まれた巨大な蘇生陣が、黒炎に包まれる。


炉の奥でうごめく怨念。

封じられていたものとは異なる、より混濁した魔力のうねり。


「ガルザイル……お前の記憶も理性もいらない。ただ、その怒りと破壊だけを宿せ」


黒水晶が砕け散った瞬間、竜の骨が震えた。

翼が軋み、牙が鳴る。

そして――


「……ッ!!」


魔力の奔流が大地を割る。

竜の眼窩に、暗紫色の光が灯る。


《ギギィ……グァアアァアアア――!!》


それは、もはや竜の咆哮ではなかった。

死を超え、魂なき破壊本能のみが駆動する、屍竜の産声だった。


「《ドラゴンゾンビ・ネクロガルザイル》の復活よ。憎しみの力でデルオルス連邦を攻めなさい」


アリアは静かにそう呟いた。


――――――――――

夜。デルオルス連邦・国境都市


突然、空が揺れる。


「な、なんだ……!? この地鳴りは――ッ!?」


地平線の向こう、黒い影が浮かぶ。

最初は雲かと思われたそれが、ゆっくりと羽ばたく何かだと気づいた時には、すでに遅かった。


《グオオオオオアアアア――!!》


漆黒の竜――《ネクロガルザイル》が咆哮とともに舞い降りる。

その一撃で城門が爆砕し、兵舎が丸ごと吹き飛ぶ。


「魔法障壁展開! 弓兵前へ!竜の頭部へ狙いを――」


指揮官の叫びも空しく、竜の咆哮は大地を腐らせる。

その翼から舞い落ちた瘴気が、兵士たちの身体を蝕み、肉体の自由を奪っていく。


「撃て!……撃てぇッ!」


誰かの叫びが、悲鳴の波に飲まれる。

やがて、竜の巨体が降り立つと、背中から黒い触手のような骨の鎖を広げ、街全体を飲み込もうとした。


その時、遠くの丘から数人の騎士が駆けつける。


「……何なんだ。あの化け物は……!」


デルオルス連邦軍の精鋭部隊が迎撃に入るも

近寄ることすらできなかった。


屍と化した一体の竜。

その存在だけで、デルオルス連邦の国境都市は崩壊の縁へと追いやられていた。


「……王に報告を。即座に援軍を要請せよ!」

伝令が血に染まった顔で叫ぶ。


―――――

デルオルス連邦王都。

巨大な戦略指令室には喧騒が飛び交っていた。

つい数時間前、国境都市が壊滅したという報が届いたのだ。


重厚な椅子に腰掛ける男、ハルヴァイン。

軍装の上着を肩から外し、地図の前に立っていた。


「……被害状況を」

彼の声は冷静だったが、その静けさの裏に、沸々と怒りが潜んでいた。

補佐官が震える手で報告書を差し出す。


「死傷者は……推定で二千。生存者のほとんどは、精神の異常を訴え……未だ回復の兆しはありません。また、竜の吐き出した瘴気により、広域の土地が腐蝕し、都市機能は完全に――」


「……無力だったということか」

言葉を遮るように、ハルヴァインが言い放つ。


「(なぜガルザイルが?しかもドラゴンゾンビになって我が国を襲うとは何者かの意図を感じる)」


「……これは災害ではない。敵による宣戦布告だ!」


ハルヴァインはゆっくりと振り返り、全員を見回す。

その瞳には冷徹な光が宿っていた。

彼は机を叩いた。


「連合軍結成の準備を急げ。セレファリア王国の騎士団とも連携を強化する。

 我らデルオルスは軍の国だ。舐められたままでは終わらん」


補佐官が問う。


「王よ、対屍竜戦術が未確立である以上、最前線に立つのは危険かと……」


「ならば、最前線に出る前に、先に奴らの拠点を暴く。

 必要ならば、我が国の戦神装甲部隊を動かす」


戦神装甲――かつて封印された兵器部隊。

彼がそれを動かすと言った瞬間、室内の空気が変わる。


「我らの力を見せてやろう。死を覚悟して挑め!」


ハルヴァインの言葉は重く響いた。

軍略の王が、本気を出す時が来た――。

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