表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

112/113

青の呪い 13

 警戒は怠るつもりはないが、何事も起きなければ、それが1番だと、淡い期待を抱きつつ領主館に到着したアルティリアは代官のマーカスから残念な報告を受ける。


「まあ、本当に来たの?」

「ええ、随分と粘られてしまいましたが、お引き取り頂きました」


 アルティリアが到着する二日程前、ネファリオ王子達は領主館を訪れたという。ケイトの懸念とウォルトの情報は間違っていなかったようだった。


「仕方ない人達ね。マーカス、もう皇宮には連絡を取ったの?」

「はい。“キアンヒュドリオン王族を名乗る一行が、第三皇女殿下の所領を訪問し、暗に逗留を求めていた”とお知らせ致しました」


 こちらの方が眩暈を起こしてしまいそうな振る舞いだ。だがフェルディナンドも言っていたではないか、世の中には非常識で図々しい輩が存在すると。そんな注意事項を教えつつも、兄は兄で「不安なら兄様が一緒に行こうか?」などと甘やかそうとするので困ったものなのだ。


「それで、ネファリオ王子達はどうしているのかしら?」


 相変わらず発展途上のレイフィットには、領都レイフルでさえ貴族向けの宿はない。平民向けの食事処が宿泊施設も兼ねているが、商人の行き来も増えてきたので満杯かもしれない。行き場を失った王子一行はどこでどうしているのか。


「街の皆に迷惑を掛けていなければ良いのだけど」

「隣の領地に拠点を移したようです」


 どうやら、何もない領都はお気に召さなかったようだ。だが、彼らがレイフルに戻ってくる可能性は高い。その前にある程度方針を固めておきたい。


「早く、お師匠様にお会いしなきゃ」


 マーカスとの話を終えた後、親衛隊と一部の侍女達のみがいる部屋で、アルティリアは祈るように手を合わせる。その手を開くと小さなてんとう虫が、指先から飛び立った。


「今のは?」


 レオンハートが尋ねる。


「魔女様に伝言を頼んだの」


 先程のてんとう虫は正確には生物ではない、アルティリアの魔法で生成した存在だ。


「状況次第で予定を変えないといけないから、早めに仕事に取り掛かるわ」

「かしこまりました」


 レネが執務の準備をしようと、部屋を出た後すぐに、窓辺に置かれた花器に淡い紫のハナシノブが咲き始める。早速、翠の魔女からの返事が届いた。


「まあ、明日にでも、来て欲しいそうよ」


 翌日。アルティリアは親衛隊のみを連れ、レシュタ湖畔の森へと向かう。


 昨年までは秋を迎える頃に訪れていたが、今年からは学園の夏季休暇中に訪れるようになった。この時期の森はそれまでとは異なる姿を見せている。アルティリア達は、強い陽射しが降り注ぎ、高く成長した樹々の隙間から落ちる光と、土の香りに迎えられた。

 また、夏の森はぬかるみが少なく歩きやすいためか、予定よりも早く、魔女との約束の地点へと到着する。


「隊長」


 少し待つ事になりそうだと話していると、不意にレオンハートがウォルトに声を掛けた。


「ああ、面倒だな」


 ウォルトは顔をしかめる。騎士達は単純な言葉しか交わしていないが、既に何かを察知しているようで、アルティリアを囲むように立ち位置を変えた。


「ウォルト、どうかしたの?」

「歓迎しない客人が近付いています」


 親衛隊はレオンハートとロゼッタが交代で周囲に探索魔術を展開しており、接近者の早期発見と確認を行っている。また同時に魔力解析を行い相手の特定も可能だ。


「木こりや猟師ではないのね?」

「残念ながら、悲劇の王子一行のようです」


 何故、こんな時にと思わずにはいられない。アルティリアは小さく「もう」と唸ってしまう。


「身を潜めて、やり過ごす事も可能ですよ」


 レオンハートの言葉を聞いて、隠れてしまいたい気分になるが、いつまでも逃げてばかりではいられない。


「対応します。皆も()()の騎士として、ここに居て」


 ネファリオ王子達の目的が解呪ではなく、皇女である自分であるのなら、ルヴァラン皇族として振る舞おう。


 しばらくすると、木々の向こうから数人の男達がこちらに向かってくる姿が見えた。


 先頭を歩いているのは学園の交流会でも見た騎士だ。年齢はウォルトよりも少し年上で、三十歳半ばくらいだろうか、その男が護衛騎士隊の隊長であろう。彼の奥に見えるのは女性的な容姿の青年。金髪の巻き髪に翡翠の瞳、一目を惹く美しい、その青年はアルティリアを見付けると、まるで最愛の恋人と再会したかのような笑顔を浮かべる。護衛騎士を追い抜き、こちらへと足早にやってきた。


「控えよ」


 しかし、アルティリアの正面に立つロゼッタに静止される。交流会の際のレオンハートの対応と比べると、ロゼッタの言葉は酷く冷たいものだ。それに対し、憤ったのはネファリオ王子本人ではなくキアンヒュドリオンの護衛騎士達だった。


「なっ、この方を誰だと思っている!」

「貴様らこそ、こちらにおられる方が何方か理解しているのか」


 怒鳴り散らす大男に相手に一切顔色を変える事なく、薔薇のような髪を持つ女性騎士は尋ねた。だが、その態度は余計に火に油を注いだようで、キアンヒュドリオンの騎士は剣に手を伸ばし掛ける。


「アルティリア様、私です!キアンヒュドリオン王族のネファリオです!学園の交流会でお会いしたでしょう」


 慌ててネファリオ王子は声を張り上げた。しかし、呼びかけた姫の反応は彼らの想像とかけ離れたものだった。


「無礼です」


 大声を張り上げた訳でもないのが、アルティリアの言葉はキアンヒュドリオン一行に強く突き刺さる。


「キアンヒュドリオン第二王子、貴方方の振る舞いは無作法が過ぎます。どういった理由で、わたくしの名を呼ぶのでしょうか?交流会では皇国のマナーに無知な留学生だと思い大目にみましたが、これ以上は看過出来ません」


 キアンヒュドリオンの親善の顔だと謳っているネファリオ王子に対し、その非常識さを指摘する事は酷い侮辱だ。外交に携わるものが他国の文化や慣習を知らないなどあってはならない。何より、同じ大陸に存在するルヴァランとキアンヒュドリオンは細かい文化の違いはあれど、礼儀作法の面では大きな相違は少なく、初対面で名を呼ぶなど相手を格下に扱っているようなもの。


「そ、それは……」


 このようなマナーの基本は幼い頃にすでに教わっているはずだ、遅ればせながら祖国での教育者の教えを思い出したネファリオ王子は口ごもる。


「レイフルの領主館に到着した際、“キアンヒュドリオン王子一行”を名乗る者達が滞在を求めたと報告を受けましたが、貴方方で間違いないようですね」


 これまでは他国の王族として持て囃され、多少の無礼も許されてきたのだろう。だが、ルヴァランとキアンヒュドリオンに国交はなく、アルティリアとネファリオ王子の間には友情や親交どころか、たった一度、言葉を交わしただけだ。先ぶれもなく、突如現れもてなしを求めるなど、傍若無人だと批判されてもおかしくはい。


「わたくしは、貴方の臣下ではありません」

「違います!そのような事、思ってはおりません。我々は、ただ、その、ご助力を願いたく」


 必死に言い訳を重ねているが、アルティリアの感情が動かない。


「わ、我が国は忌まわしい魔女から呪いを受け、長きにわたり苛まれております。アル……皇女殿下のお治めするレイフィットには精霊の伝説があると伺いました。是非ともキアンヒュドリオンのために精霊の捜索を願いたく……」

「お断り致します」


 アルティリアはネファリオの説明が終わる前に拒否する。無駄な話だと分かり切っていたからだ。

光溢れる精霊伝説の森で、王子様は愛しの姫君と再開。

もちろん恋は始まらないよ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
 アポイントをとってないうえに、ストーカーの様に尾行や先回りして盗賊と大差ない登場の仕方する者達に対しても、慇懃な対応するほどルヴァランの方々は暇ではないそうです。騎士だけでなく木こりの人達にも迷惑な…
一般常識とマナーを持ち合わせていない王子と護衛騎士集団ですか… 外交官って国の代表であり顔ですよ?泥塗りまくりでしょう いっその事魔獣の餌になってもらって、知らぬ存ぜぬを突き通した方が良さそうな気がし…
勘違いお馬鹿どもが、とうとう来た!てか、王子が馬鹿で、周りの護衛も馬鹿!救いようがない!馬鹿ばっかり!タイミングも悪い!このままさっさと去ればまだ!大丈夫かもだけど…余計なことしたり言ったりして、師匠…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ