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ヴァンパイア族

 異様な空気に包まれた大広間にてブレイドは階段上に立つ男に対して唯ならぬ気配を感じていた。


 男の姿形は人間そのもの。だがその男から感じられる気配はまるで飢えた獣であり、どちらかと言えばモンスターの様であった。


「ふむ……かなり若いな。君の様な若者と出会うのは随分と久しぶりだよ」


 丁寧に仕立て上げられた赤いスーツに身を包んだ男はサングラスの下から垣間見える鋭く見下した目付きでブレイドの頭の先から足元まで、まるで品定めをするかの様に視線を向ける。


 そんな男に臆さずブレイドは相手を睨みながら「おいオッサン。この城で異変を起こしてる元凶ってのはお前か?」と尋ねた。


「ククク……君がそれを知る必要はない。まもなく君は私の食事となるのだからな……」


「はぁ? 何言ってんだお前? ……まぁいいか、違うと言わねぇって事はそういう事だと受け取るぜ」


 そう言いながらブレイドは男を敵と断定し、両手の指を鳴らして肩をぐるぐると回すと臨戦態勢に入る。


「おい、一応聞いとくけどお前幽霊とかじゃないよな?」


「ーーー何故かね?」


「昔、俺を育ててくれた獣人(ひと)が言ってたんだよ……幽霊以外に殴られねぇもんはこの世に無ぇってなぁ!!」


 その言葉を皮切りに男へ向かって走り出したブレイドは軽快に階段を駆け上がると、あっという間に男の前へと躍り出る。


 そして拳を硬く握り締めて大きく振りかぶると男の顔面へと拳を振るった。だがその一方で男は自身の眼前にまで拳が迫っているにも関わらず逃げる素振りを見せるどころか不敵な笑みを浮かべていた。


「オラァッ!!」


 ブレイドは硬めた拳を男の顔面へ振るうが当たる直前に男の全身が黒く染まると地面に溶け込む様にその場から姿を消してしまい、対象を失ったブレイドの拳はそのまま空を切る。


「なッ!? 何処だ!?」


 地面に着地したブレイドは周囲を見回して男の姿を探す。すると死角となっていた背後の天井に再び黒い影が現れ、その中から男が飛び出すと同時にブレイドに襲い掛かる。


「ーーーッ!! そこだッ!!」


 気配を察したブレイドはタイミングを合わせてカウンターの足蹴りを振るい、衝撃音と共に確かな手応えを感じると笑みを浮かべる。


「ヘヘッ……何ッ!?」


 だが次の瞬間ブレイドの顔から笑みは消え失せ、同時に驚愕の表情を浮かべる。何故ならブレイドの脚が男の顔へ半分以上も吸い込まれる様にめり込んでいたのだ。しかし血などは一切出ておらず、代わりに黒いモヤの様な物が顔から吹き出ており、更には男の表情は苦痛などを一切感じさせていない余裕そのものだった。


「素晴らしい一撃だ。賞賛に値するよ」


 すると男はブレイドの脚を掴んで大きく振るう。その際に男の腕が再び黒い影の様に染まると、それが蛇の様に伸びてブレイドの体は放り出されると空中で綺麗な弧を描く。


「うわぁぁぁッ!?」


 そのまま壁に叩き付けられたブレイドは背中に感じる痛みに耐えつつ閉じていた目を開ける。すると目の前にはブレイドの首元を抑えつけながら不気味な笑みを浮かべる男がおり、自身が嘲笑されていると感じたブレイドは男を睨み付けるが、すぐに違和感を覚えた。


 今自分がいる場所は地表から1メートル以上離れている。それなのに何故この男は自身と同じ目線の高さにいるのだろうか?


 疑問に思うブレイドだったが男の背後に視線を向けた瞬間、その謎が解けた。


 男の背には人間には本来あるはずのない真っ黒な翼が付いておりそれを羽ばたかせる事で空中に浮遊していたのだ。


「お前一体何なんだ……ッ!? さっきの黒い影といいその翼といい、本当に人間かよ……ッ!」


 ブレイドは心の中で抱いていた疑問を男にぶつける。思い返せばこの男について不可解な事が多かった。扱う魔法は見た事の無いものばかりであり、詠唱もなければ杖も使わない。そして極めつけは背中に生えた翼の存在であった。


「ククク……君の言う通りだ。私は人間では無い……そう言えば自己紹介がまだだったな」


 男は掛けていたサングラスを外すとその下に隠されていた真紅の瞳が現れる。


「私は『マクスウェル・フォン・ブラッド・ティール』この世で最も気高き血族……ヴァンパイア族だ」

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