第三話 失敗と、特訓と。
あれから二日経った。
魔法の練習をしたかったが、体調が悪いからできなかった。体はやっぱり五歳なんだな、と改めて認識した。
しかし、この二日でいろいろな収穫もあった。
まずは言葉についてだ。なぜ僕がなんの違和感もなく会話できて、本も読めたのか…。正解は分からないのだが、一つの仮説を立てた。
まず第一に、僕はこの世界に赤ん坊として転生したわけではない、ということを考えた。
つまり、五歳までは僕が転生してくる前のロムウェルがいたのだ。それをロムウェル(元)としよう。そのロムウェル(元)が、この世界の言葉を喋れて、文字を読めていたとしたらどうだろう。五歳だから文字が読めても不思議ではない。
そう、ロムウェルの脳はこの世界の言語を習得していた。つまり、僕が転生してきた時、脳は言語能力がある状態だったということだ。
こう考えれば一応の説明はつくだろう。まあ前世の記憶が存在することはまだ謎なのだが…。そもそも、前世の記憶がないのならそれはただのロムウェルだ。その場合転生者としての自覚ももちろんないだろう。
転生と前世の記憶については、この世界のことを勉強していくうちに徐々に分かってくることを期待しよう。
次に、僕が転生してきたこの世界、この国についてだ。昨日書斎から借りてきた『ノクティス建国史』を読んだところ、次のようなことが分かった。
この世界はアルセリオンという名前らしい。前世でいう地球みたいなイメージだろうか。
アルセリオンは三大陸から成り、それぞれ西大陸、中央大陸、東大陸と呼ばれている。
その中で僕が転生してきた国は、東大陸の南側にある「ノクティス王国」という場所らしい。そう、『ノクティス建国史』には、世界の簡単な説明と、「ノクティス王国」の建国から現在に至るまでの歴史が長々と書いてあったのだ。
長すぎて途中で読むのをやめてしまったが、この王様が何をしたとか、戦争があっただとか、そういうことしか書いてなかったのでまあ良しとしよう。
それに、もう一つ重大なことが分かった。どうやらノクティス王国の北側には、広大な森と黒嶺山脈という大山脈を挟んで「魔族領」なるものがあるらしい。
この世界には魔族がいるみたいだ。魔法、魔族、スキル…本当に異世界に来たんだな。
魔族がいるということは魔物もいるのだろうか。『ノクティス建国史』には魔族領があるということしか書いてなかったので分からない。また書斎に行っていろんな本を物色してみるか。
そして、我がラーヴェンフェルト家はノクティス王国の西側にある「リーヴェル」という町にあるみたいだ。ノクティス王国の地図の中でこの町だけ丸がしてあったのでおそらくそうなのだろう。
と、まあ二日間でこれだけのことが分かったわけだ。
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今日は体調が完全に戻ったので魔法の練習をしようと思う。まだ「水球」しか使ったことがないからな。
改めて『初級魔法の全てがわかる!』をじっくり読んでみた。初級魔法の構造はどの四属性も基本的に同じだ。
「(属性)よ、(形状)となりて(動詞)。(技名)。」
つまり、昨日使った「水球」ならば、
「水よ、球となりて飛べ、ウォーターボール」
「火矢」ならば、
「火よ、矢となりて貫け、ファイアアロー」
というわけだ。
うん、結構簡単だな。覚えやすくて良い。この世界では思ったより魔法というものが身近なのだろうか。こんなにも簡単に使えるとは思わなかった。
火・土・風の初級魔法も試してみたいところだが…。昨日みたいに家の中でやると大変なことになるやもしれない。そういえば裏口を出たら結構広い庭があったな…。よし、そこで練習するとしよう。
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裏庭に来た。やはり広いな。玄関がある表口の方の庭では野菜やら花やらが育てられていたが、こちらの裏庭は塀に囲まれただけの広いスペースだ。まずは風初級魔法から試してみるとしよう。
えーっと、こっちの「風刃」は…危なそうだな。いや、使ってみるか。空に向けて打てば問題ないだろう。
よし、右手を空に向けて…
「風よ、刃となりて走れ!ウインドカッター!」
昨日とは少し感覚が違う。魔力の流れが鋭い一枚の刃のように右手から射出される感覚…。これは…
(昨日よりもやばいかも…っ!!)
出現した刃は右手から勢いよく飛び出した。そして、僕はふっとばされた。
気づいた時には僕は地面に倒れ込んでいた。霞む視界の中で、僕が放った刃は虚空に消えていった…。
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柔らかい…後頭部がとても心地良い。そんな感覚だけを感じていた。
「……ル、……ムル。…ロムル!」
なんだよもう、邪魔しないでくれよ…。
視界が徐々に晴れていく、もう夢の中じゃないと気づいたが、相変わらず後頭部は気持ちいい。視界には二つの大きな山…ではないな。と、まるで物語からそのまま出てきたような美しい顔面が広がっている。
「ノエ…母さん……?」
「そうよ!良かったあ…もう、心配したのよ?」
どうやら僕はノエラに膝枕されていたみたいだ。ふと、子供の頃に母親に膝枕されながら耳かきをしてもらったことを思い出した。
「僕、どうなって…あれ?ここは…」
「ロムルの部屋よ、裏庭から大きな音がしたと思ったらロムルが倒れてるんだもの…。何があったの?」
そうか、倒れていたんだな。確か、「風刃」を使ってそのまま…。
「えっと……裏庭で魔法の練習をしようと思って空に向かってウインドカッターを打ちました…」
「何してるのよ!そんなことしたら反動で地面に頭打っちゃうに決まってるじゃない!」
どうやら「風刃」を使った反動で地面に押し返されて頭をぶつけてしまったらしい。
「ごめんなさい…でも、どうしても魔法の練習がしたくて、それで…」
「ふふ、ほんとロムルは無茶するのね。まだ五歳なのだから、体がちゃんと魔法を制御できるくらいの筋力もまだないでしょう?」
「はい…まだ魔法のこと全然分かってなかったです。ごめんなさい。」
まだ僕は本を読んで実験してみただけのただのガキだ。魔法は簡単だと言ったが訂正しよう。魔法を発動するのは簡単だが、正しく使うのは難しいな。
「しょうがないわね…私が魔法を教えてあげるわよ!それならロムルが怪我せずに魔法を練習できるわ!」
「いいの?でも母さん魔法使えるの?」
使えない…ということは無いだろうが…。
「当たり前じゃない!なんたって私はノクティス王立魔法学園を次席卒業したのよ!」
え?王立…魔法…学園!?ノエラが!?
なんとそれはびっくりだ。まさか母親がそんな実力者だとは。その学園のことはよく知らないが、王立とついているのでこのノクティス王国が運営する学園なのだろう。てかなんでこんなとこで子育てしてるんだ?…まあそれはいい。
「そ、そうなの!?お、教えて!魔法!教えて!」
「ふふ、腕がなるわね!明日から特訓よ!」
こうして僕に魔法を教えてくれる人ができた。しかも実の母親だ。
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その日の食卓には転生してきた初日よりかは質素だが、ノエラが腕によりをかけて作った料理が並んでいた。
まずは「バルガス」とやらのステーキだ。見た目は牛肉に近いな。
ナイフを入れるとミディアムレアの赤身が顔を出した。一切れ口に入れた瞬間、肉の濃厚な旨味と程よい脂の甘みが広がる。そして、噛むほどに香ばしい肉の香りが鼻を抜ける。
うまい。味もほぼ牛肉だな。
この世界にきて少ししか経ってないが、料理には慣れてきたな。どちらかというと洋食の方が好きだった僕の口に合う料理が多い。
ステーキを堪能していると、ロベルトに向かって今日のことを話しているノエラが目に入った。
「聞いてロベルト!ロムルったらウインドカッターを使って頭を地面に打っちゃったの!」
「そ、そうなのか?大丈夫だったかロムウェル?」
「は、はい!問題ないです!もう痛くないですし」
まだロベルトとの会話はまだぎこちなくなってしまうな。仕事で忙しいらしく、朝食と夕食の時くらいしか顔を合わせることは無い。
「それでね、明日からロムルに魔法の稽古をつけることにしたのよ!私が立派な魔術師に育てるわ!」
「そうなのか、まだロムウェルは五歳だが…まあ君なら安心だろう。」
どうやらノエラは本当に実力者のようだ。
「それにしても母さん、どうしてそんなに魔法が使えるのに今ここで子育てをしてるの?」
ノエラがノクティス王立魔法学園の次席卒業者ということを聞いてからどうしても気になっていたことを聞いてしまった。複雑な事情があるかもしれない…まずかっただろうか。
「そりゃあ…ね!ロベルト?」
「あ、ああ。」
なんかロベルトの頬が少し赤くなった気がする。
「ロベルトと出会ったからよ!」………………。
聞いたこっちがバカだったのかもしれない。
それから、食事が終わるまで二人の馴れ初めを聞かされた。普通子供の前でそんな話するか?
要約すると、二人は戦争で出会い、ロベルトがノエラを颯爽と助けたことで、ノエラは恋に落ちたそう。そして、軍の魔術師部隊をやめてリーヴェルにやってきたらしい。そして二人は結婚したのだそう。
ノエラは行動力がすごいな。ここ数日でノエラがどういう人物かが少しわかった気がした。
ちなみに、今日の頭の傷はノエラが治癒魔法で治してくれたらしい。治癒魔法か…それも習いたいな。
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翌日からノエラの特訓は始まった。
「まずはロムルの魔法適正を調べるわ!」
「とりあえず四属性の基本技、「水球」、「火矢」、「風刃」、「土壁」を私に向けて打ってみなさい!」
「だ、大丈夫なの?危険なんじゃ…」
「ふふ!舐めてもらっちゃ困るわよ!さあ、来なさい!」
そして僕はとりあえず「水球」と、「風刃」をノエラに向けて放った。
そして、ノエラは難なく僕が打った魔法を受け止めた。いや、防御したのか?
次は「火矢」だ。
「火よ、矢となりて貫け!ファイアアロー!」
矢…というより槍のようにも見えるほど大きな火の矢が勢いよく右手から飛び出した。
えっ、でか!と思った時にはもう遅かった。
火の矢はノエラの横を通り抜けて後ろの壁に向かって突き進んでいく。
「や、やばい!!ミスったか!」
「任せなさい!」
「水よ、鎖となりて絡めとれ!ウォーターチェイン!」
ノエラから放たれた水の鎖が火矢に巻きついた。炎を包み込むように水が広がり、火の矢は勢いを失って消えていった…。
「ふう…、まあこんなものね!」
「か、母さん!良かった〜!てか、今の魔法は?!」
つい興奮してしまった。だってカッコ良すぎたんだよ。母さんが魔術師に見えた気がした。
「今のは、水中級魔法の「水鎖」よ!」
「す、すげえ!中級魔法なんだ!それ僕も使えるの?!」
「だ〜め!ロムルはまず初級魔法をちゃんと狙ったところに飛ばすことからよ!」
「はい…。」
まあいずれ中級魔法も練習するだろう。その時まではお預けだな。
「さあ、次は「土壁」よ!やってみなさい!」
「はい!母さん!」
「土よ、壁となりて立て!アースウォール!」
地面から巨大な壁が出現した。軽く三メートル以上はあるだろうか…。
「結構よ! そうねえ……この壁や矢の大きさに、あの刃の威力……。四属性すべてでこの出力か……」
「やっぱり…信じられないけど、ロムルは四属性すべてに適性があるようね。特に風魔法の威力には目を見張るものがあるわ!」
なんと!どうやら僕には四属性の適性があるらしい。こういうのだよ、こういうの!こういうの期待してたんだよ!
「ほんとに!?やっぱ僕すごいんだ!」
「ロムルったら…さすが私の息子ね!」
ノエラは親バカであった。
「それに、魔法一つ一つの威力、大きさが桁違いだわ。やっぱり適性がある魔法となると…私が防ぎ切れるのも、初級魔法までかもしれないわね」
難なく防いでいるように見えたのだが…。やはり僕の魔法は普通の魔法より大きかったらしい。この間の「水球」がボールとはいえない大きさだったのも説明がつく。
「母さんは何級魔法まで使えるの?」
「私は水魔法に適性があるの、だから水魔法は上級、風・土魔法は中級、火魔法は初級を使えるわ」
「通常は水魔法に適性がある人は火魔法が不得意、風魔法に適性がある人は土魔法が不得意、逆も然りね」
そういう感じなのか、ノエラは水魔法が上級まで使える代わりに火魔法は初級までしか使えないと…。
「じゃ、じゃあ僕の四属性に適性があるっていうのはすごいことなの?」
「すごいってもんじゃ無いわよ!普通は多くて適性は二つ、それに火と水、土と風の両方に適性があるなんて聞いたこともないわ!」
そうか!僕はすごいのか!いやー、やっぱこうじゃないとな!せっかく転生したんだから無双したいじゃんか!これは楽しくなりそうだぞ。
それからノエラとの猛特訓の日々が始まった。




