第二話 ア゛リエ゛ンゴッホー!と、初級魔法と。
「ア゛リエ゛ンゴッホー!ア゛リエ゛ンゴッホー!ア゛リエ゛ンゴッホー!」
僕は意味のわからない音で目覚めた。いや、目覚めたなんて生ぬるい表現で表してはいけない気すらする。そう、飛び起きた。いや、飛び起こされたのだ。
飛び起きた勢いで窓の外を確認すると、ニワトリがいた。いや…ニワトリとは違うな。トサカが青いし、なぜか足が三本あるし。ニワトリ(仮)とでも呼ぶとするか。
どうやらこの世界の朝を告げる鳥は「ア゛リエ゛ンゴッホー!」と鳴いて、人々を起こすらしい。
いや、意味わからんだろ。なんて思いつつ、ああやっぱり夢じゃなかったんだな、と思い知らされる。そうだ、僕は異世界に転生してきたんだったな。
疲れが取れたのか微妙なところだが、再び寝る気にもならなかったので、少しだけ重いまぶたを擦りながら部屋を出た。
僕…ロムウェルの部屋は二階にあったので、階段を降りて、玄関ホールを経由してから昨晩夕食を食べた一階の広間へと向かった。
広間にはエプロンを付けた若々しく見目麗しい黒髪の女性が赤子をあやしていた。あぁ、これが聖母様か…なんて思いつつ、そういえばこの人が母親だったな、なんて昨日のことを思い出した。
「あら!おはようロムル」
今日からはちゃん付けで呼ばれないんだったな…と、これまた昨日のことを思い出した。
「おはよう、母さん」
「昨日は随分疲れていたみたいだけど…体調は大丈夫?すぐ朝ごはん持ってくるからね」
ノエラは本当にすごい母親だなと思う。見た目的にまだ若い、それなのに子供を二人育てながら家事もしているようだ。見たところメイドのような人物は見当たらない。金持ちの家だとは思うのだが…。
しばらくすると、ノエラが朝食を運んできてくれた。丸いパンに何かしらの燻製肉、目玉焼きのようなものまで付いている。それと昨日と同じスープだ。まさかとは思うが、この目玉焼きニワトリ(仮)のものなのだろうか…。とりあえず食べるとするか。
パンは前世のものよりも好みだった。変な甘さは一切なく、素材の味がしっかり感じられてうまい。
フランスパンに近い味だ。燻製肉は、厚切りベーコンのような風味と強烈な塩気が口いっぱいに広がる。うまい。パンが足りなくなってしまう。
問題はこの目玉焼きだ。恐る恐る口に運ぶ…。
うん、意外とクセはないな。なんなら前世のものとさほど変わらないようにも感じる。うまいな。
気になっていることをノエラに聞いてみることにした。
「母さん、この目玉焼きは外の鳥が産んだやつですか?」
「目玉焼き?なんのことかしら?」
やべ、つい口に出してしまった。
「あ、えーっと…この卵を焼いたやつのことだよ……ほら、目玉みたいに見えるでしょ?」
「ほんとね!ロムルは面白い見方をするのね、さすがロベルトの息子だわ!」
なんとかなったようだ。
「そうよ、この目玉焼きは外のコッコちゃんが今朝産んだ卵を焼いたのよ」
やっぱりそうか。それにしてもコッコちゃんとは…家畜にまでちゃん付けしているんだな。まあペットの可能性もあるが…。
「そ、そうなんだ!それにしても何でコッコちゃんなんて名前をつけたの?」
「忘れちゃったのかしら?コケコッコーって鳴くからじゃない!」
……………え、?
ここ日本だっけ?と、一瞬疑ってしまった。今、母さんは明らかに「コケコッコー」と言ったよな…。どう考えても「ア゛リエ゛ンゴッホー!」にしか聞こえないんだが。
「そ、そうだったね!忘れてたよ…」
若干冷や汗のようなものをかきながら答えた。
まさか、あれはニワトリなのか?いやいや、足が三本あったしそれはないだろう。
そういえば前世でも国によってニワトリの鳴き声の聞こえ方が違うみたいなやつあったな…。それにしても「コケコッコー」か、偶然もあるものなんだな。いまだに納得はしてないが、そういうものだと思って飲み込むとしよう。もう一度言う、納得はしていない。
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朝食を食べ終えた僕は、家の中を探検してみることにした。
そういえばさっきの鳥は「トルカ」という種類らしい。昨日の肉は「レグナール」だったっけか…。まだ分からないことだらけだな。
食堂を出て書斎に入ってみた。見たところ本が所狭しと並んでいるだけの部屋だが…。この世界のことを知るには本が一番良いだろう。人に聞くよりは正確だろうしな。
何冊かの本を適当に見繕ってみた。高いところには手が届かなかったので、低い位置にある本だ。
えっと…題名は……。
『ノクティス建国史』
『初級魔法の全てがわかる!』
『次期国王候補に愛されすぎて困っています!』
……三冊目はいらないな。ノエラの物だろう。そうか、ノエラも乙女なんだな。
それにしても気になる本がある。『初級魔法の全てがわかる!』か、やはりこの世界には魔法が存在するようだ。魔力というものが出てきた時点で察してはいたが…。
やばい、めっちゃ興奮するな。魔法、魔法かあ!考えるだけでワクワクが止まらない。よし、この本は借りていくとしよう。『ノクティス建国史』も一応借りておこう。歴史が分かるだろうからな。
本を一旦部屋に置いて家の探検に戻る。さっさと見て回ってから魔法の本を読もう。
二階は僕の部屋の隣は階段を挟んでもう一部屋ある。おそらく成長した妹…リリアのための部屋だろう。廊下を挟んで向かい側には大きいベッドがある部屋と、大量の書類が積み重なっている机がある部屋があった。それぞれ、両親の寝室、父の仕事部屋といったところだろう。
一階は広間、書斎、客室のような豪華な部屋、物置があった。風呂場ではノエラが掃除をしている。やはりメイドのような人物は雇っていないみたいだな。父は外出しているようだ。仕事だろうか。
と、まあこんな感じだ。結構広い、やはり金持ちの家なんだろう。
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さて、部屋に戻ってきた。ついに魔法だ。
とりあえず本をパラパラとめくってみよう。
一通り目を通してみた結果、魔法について以下のことが分かった。
・魔力を持つ者なら誰でも使える。
・魔法を使うには、詠唱、無詠唱、魔法陣の三種類の発動方法のいずれかを行う必要がある。
・魔法は基本四属性から成る。
・四属性とは、火・水・土・風である。
・人には適性があり、得意不得意があること。
・魔法には、初級・中級・上級・超級・神話級の五段階があること。
・四属性とは別に、治癒魔法、闇魔法があること。
ほう、ガチじゃん。ガチで魔法じゃん。前世でそれなりに異世界ファンタジーを嗜んでいた僕にとっては、内容がすんなりと頭に入ってきた。
しかし、気になることはたくさんある。闇魔法があるのだったら光魔法はあるのか、それに、召喚魔法や結界魔法、転移魔法なんかについても書かれていなかった。
まあ前世の魔法についての知識など、たかが物語の中のものだ。この世界では本当に魔法が存在するのだから考えるのも意味のないことだろう。大人しく本を読もう。
それに、昨日の魔力測定だっけか、それによると僕には常人には比にならないほどの魔力があるらしい。特に体から何か感じたりはしていないんだが…。まあ魔力は多い方が良いだろう。多分。
とりあえず魔法を使ってみたいな。火魔法…をいきなりは怖いな、風…土…うん、まずは水だな。失敗してもなんとかなりそうだし。
えーっと…発動方法は三種類か…魔法陣はよく分からないし、とりあえず詠唱か無詠唱か。
無詠唱もあるんだな。絶対そっちの方が有利だとは思うのだが…本には応用技術と書いてあるし、まずは何事も基本からだ。
まずは水初級魔法の「水球」だな。水魔法の項目の一番最初にある。ちなみに水球というのは表記上の名前だ。学術名というらしい。つまり、詠唱中や会話の中ではウォーターボールと呼ぶそうだ。
そういえば部屋が濡れる可能性があるな、風呂場に行こう。これがリスク管理ってやつだ。
風呂場についた。途中ノエラに何をしているかと聞かれたが、家を探検すると言っておいた。
本によると、「水球」の詠唱は、
「水よ、球となりて飛べ!ウォーターボール!」
だそうだ。思ったよりシンプルだな、もっとこう、「水の精霊よ」とか、「清らかなる水よ」みたいなやつを想像していたのだが…まあいい。よし、実験開始だ!
よし、右手を前に突き出して…。
「水よ、球となりて飛べ!ウォーターボール!」
体が浮いた…ような気がした。そう錯覚するほどの力の奔流が足先から全身を巡って右手に集まっている感覚、いや集まっているのだ。
どこからともなく右手に水が湧いてきた。その水はどんどん大きくなる。
(おいおい、まじかよ!どうするんだこれ!)
水が湧き止まない。このまま止まらないのではないか…と思った次の瞬間…!
バッシャアァァァァン!!!!
僕が生み出した水の球は手から放たれ、浴室の壁に激突する寸前…轟音を立てて爆発した。
どう考えてもボールとはいえない大きさの水の球だったが……?
「これのどこがウォーターボールボールだよ!」
浴槽が水で満杯になっている…。しばらく浴槽を見つめていると、轟音に気づいたノエラがやってきた。
「ロムル!?何があったの!」
ノエラは勢いよく浴室の扉を開けた。
「あら?お風呂溜めてくれたの?」
「い、いや…その…」
「でもそのお湯……って、冷たっ!何よこれ、ロムル!」
ノエラは聖母のような笑み…ではなく鬼の形相でこちらを睨んでいる…。
「ごめんなさぁぁい!ハ、ハッハアックシュン!!」
その後、全ての事情を説明した。ノエラは驚いていたが怒るようなことはしなかった。むしろ、僕が魔法に興味を持ったことを喜んでいるようだった。今度魔法を教えてくれるそうだ。この世界では魔力があれば魔法を使えるらしい、ノエラも使えて当然か…。
ついでに、風邪をひいた。転生二日目で。
こうして僕の人生初魔法実験は終わった…。
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他の魔法は明日以降にお預けにするとしよう。なんせ、体の震えが止まらない。水を浴びたあとの犬くらい震えている。まさか転生してきて二日目で風邪をひくとは思わなかったが、僕にも魔法が使えるということが分かったので良しとしよう。
それにしても「ウォーターボール」なんて弱そうな名前してるくせにあんなにも大きい魔法だとは思わなかったな。せいぜい拳二つ分くらいを想像してたんだが…これも僕の魔力量が多いことに関係あるのか。それともたまたま水魔法の適性があったのか、真相は分からない。
そこら辺のことも明日以降研究していこう。なんせまだ五歳だからな。時間はたっぷりある。せっかく異世界にきたんだから努力して無双してやる!…と意気込んでいるうちに深い眠りについた…。
途中のロムルの家の図は、部屋の配置などを指示してAIで生成したものになります。AI画像に対して不快に思われた方がいたら申し訳ありません。




