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断魂の魔術師〜世界が何と言おうと、僕は僕である〜  作者: 6組のかとちん


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第四話 試験と、無詠唱と。

 ロムウェル=ラーヴェンフェルトの朝は早い。


 今日も今日とて「ア゛リエ゛ンゴッホー!」に起こされる。いや、正確にはそのように鳴く鳥の声に起こされるだけだが…。


 朝食はほぼ毎日決まったメニューだ。丸パンと燻製肉とコッコちゃんの卵の目玉焼き、それに野菜たっぷりのスープだ。栄養満点、タンパク質豊富で、魔法の反動を抑えるための体づくりにピッタリだ。


 午前中、ノエラは家事をしている。掃除、洗濯、昼ごはんの準備に庭の手入れまで。ちなみにこの時間、僕は読書に勤しんでいる。この世界のことをもっと知らなければならないからな。


 そういえば以前、どうしてメイドを雇わないのかと聞いたことがある。ノエラはこう答えた。


 「私の手で直接育てたいの!」


 うん、なるほどな。すごく感心した。ノエラはまだ若いなと思っていたが随分立派に母親をやっている。


 そして昼ごはんを食べたら魔法の特訓が始まる。

ノエラが夜ご飯の準備を始めるまでみっちりマンツーマン授業だ。さあ、今日も頑張るとするか。


---


 「違うわロムル!ちゃんと魔法が射出する瞬間まで対象物を見続けるのよ!」


 「は、はい!母さん!」ふ


 「違うわロムル!特訓中は先生と呼びなさい!」


 「は、はい!先生!」


 ノエラは先生と呼ばれて随分満足そうな顔をしている。ノエラめ、この状況を楽しんでるな…。しかしまあ、授業自体は本当に素晴らしいものなので、先生呼びも甘んじて受け入れよう。


 「ロムル!一回休憩にしましょうか」


 「はい!先生!」


 「はい、しっかりお水飲むのよ!汗も拭いて!」


 ノエラは過保護すぎるのではないかと思えてきたが、僕は五歳の子どもなのだからしょうがないだろう。


 「ねえロムル、魔力切れにはならないのかしら?随分魔法使ったけれど…」


 体が疲れてるのは感じるのだが、魔力切れか…いまいち分からんな。


 「魔力切れってどんな感じになることなの?」


 「そうねえ…魔法が使えなくなるのはもちろんだけれど、体が芯から疲れる感じね。もう立てない!みたいな」


 ふむ、そんな症状は無いな…魔法も使えているし。


 「全然大丈夫だよ!魔法なら無限に打てる気がするよ!」


 「ほんとうに魔力量が多いのね…私も普通よりは多い方だけれど、ロムルとは比べ物にならないわ」


 やはり僕の魔力量は異常らしい。とはいえ、まだ初級魔法しか使っていない、いまいち、魔力量が多いことの恩恵は感じられていないな…。


 「母さん、魔力が多いってのはどんなメリットがあるの?」


 「そりゃあ魔法がいっぱい打てることよ!それが一番ね。火力で押し切れるもの。」


 当たり前と言われれば当たり前か。

 ノエラの特訓を受けてしばらく経つが僕はいまだに初級魔法しか使っていない。どうやら僕は魔法の出力、つまり火力は申し分ないのだが、魔法を正しく狙った場所に飛ばしたり、逆に威力を抑えたりすることが苦手みたいだ。魔法制御というらしい。


 今日の特訓でもノエラに向けて打ったつもりが外れて後ろの壁を壊しかける、なんてことが何度かあった。ノエラ曰く、魔法はとにかく基礎が大事だそうだ。繰り返し練習するしかないみたいだ。


 「ロムル、焦ってはダメよ、魔力がどれだけ多くても、魔法を正しく使えないと実戦には活きないわ。」


 ありがたいな、と思う。魔法のことなんて全く分からない僕がちょっと練習しただけで魔法が使える、なんて都合の良いことはない。ノエラの教えに従って正しく強くなろうと思う。


---


 この世界に転生して三ヶ月が経った。毎日ノエラと魔法の特訓をしている。今日はついに初級魔法の特訓最終日になるかもしれない。今日はノエラ先生による試験がある日なのだ。


 「いい?ロムル、私に向かって「水球(ウォーターボール)」、「火矢(ファイアアロー)」、「風刃(ウインドカッター)」をそれぞれ五発ずつ放つ。そのあと「土壁(アースウォール)」を五枚、二メートルの間隔で平行に並べるのよ」


 「分かりました!必ず成功させます!」


 「ええ、頑張りなさい!」


 よし、この約三ヶ月間の特訓の成果を全てぶつける時だ。この試験をクリアして中級魔法の特訓に入るぞ!


 「いきます!先生。」


 「ええ、全力で来なさい!」


 ノエラは、水中級魔法の「水盾(ウォーターシールド)」を展開した。



 「水よ、球となりて飛べ!ウォーターボール!」



 一発目、まっすぐにノエラへと飛んでいく。大きさ、威力はもちろん申し分ない。あとはこれを続けるだけだ。

 二発目、三発目、四発目、全て同じように飛んだ。


 「よし!あと一発!いきます先生!」


 五発目、先の四発と全く同じように飛んでいった。そして…


  バリイィィィィン!!!!!


 「なっ…!」


 僕の放った「水球(ウォーターボール)」がノエラの「水盾(ウォーターシールド)」を破壊したのだ。


 「まさか…!私のウォーターシールドが破られるなんて!さすがねロムル」


 ノエラに怪我がなくて良かった…。しかし、水上級魔術師のノエラのシールドを破ったか。


 「同じところに魔法が打てている証拠よ!たった五発で私のシールドを破るなんて本当にびっくりしたわ!さあ、次の魔法を打ちなさい!」

 

 そして、ノエラは再び「水盾(ウォーターシールド)」を展開した。


 「はい!先生!」


 なんだろう。めちゃくちゃ嬉しいな。ノエラは褒めて伸ばすタイプなので普段からよく褒めるのだが、実際にシールドを破壊したってのが自信に繋がるな。よし、次は比較的苦手な火魔法だな。



 「火よ、矢となりて貫け!ファイアアロー!」



 右手から放たれた矢はノエラのシールドに一直線に飛んでいく。よし、成功だ。どんどんいくぞ。

 

 二発目、三発目、共に成功。やはり上達しているな、と自分でも思う。


 「次行きます!」


 そして四発目、同じようにノエラに飛んでいく……と思われた次の瞬間。


 「なに…!」


 制御を失った矢はノエラの頭上を高速で駆け、空へと消えた。


 「くそっ!!」


 この世界に来てから一番感情を露わにしてしまったかもしれない。それほど悔しかった。

 油断したのだ。放出の瞬間、これも大丈夫だろう、と。


 「母さん…ごめんなさ…」


 「謝らないで!ほら、試験を続けなさい…。」


 「はい…」


 そして僕は試験を続けた。「火矢(ファイアアロー)」の五発目はなんとか命中させたものの、四発目の失敗が脳裏に焼き付いて離れなかった…。


 しかし、さすがと言ったところか、得意な風魔法は難なくクリアした。「土壁(アースウォール)」も少し平行とはズレてしまったが、及第点といったところだろう。


 「お疲れ様、ロムル」


 「はい、母さん。ありがとうございました」


 まだ引きずっている。「火矢(ファイアアロー)」を一発外してしまった。この世界に来て魔力が多いことが分かり、魔法で無双しようと意気込んでいたにも関わらず、油断して失敗した。


 「そんな顔しないの、ロムル。誰にだって失敗はあるのよ」


 今まで何度も失敗したが、今日こそは完璧にできると思っていた。せっかくのノエラの特訓を無駄にしてしまった気さえした。


 「でも…!母さんに毎日特訓してもらったのに…!最後は油断して失敗だ。僕はどうしようもないんだ!」


 「こら!ロムル。自分を否定しないの!あなたは戦いの途中に魔法を外して、いちいちそうやってうなだれるつもり?そんな暇はないわ」


 「あなたはまだ五歳、それだけの魔法を使える五歳児なんてそういないわ。誇りなさい。自分だけは自分を否定してはいけないのよ」


 ノエラの言葉を聞いた瞬間、頬を熱い何かが伝った。そうだな…僕はまだ五歳だ。なんでも完璧にできるはずなんてないのだ。体だって出来上がってない中でこれだけの魔法を使った。

 その事実に変わりはない。誇ろう、そして褒めよう。自分自身を。


 「うん!いい顔になったわね!」


 「ありがとう、母さん。僕はすごいもんね!自信を取り戻したよ。また試験してくれる?」


 「正直に言うわ、一発外したくらいならもう中級魔法に入ったって全く問題ないの。あなたの年齢でそれだけ魔法を制御できているんだから、もう少し大きくなって体が出来上がったら目をつぶったって外すことはなくなるわ」


 そうなのか…まあ、まだ五歳もんな。しかし、僕はこの世界で魔法無双すると決めた男。初級魔法くらい五歳でマスターしてみせるさ。


 「母さん!それでも僕はこの試験を完璧にクリアしたいんだ」


 「そう…さすが、あのロベルトの息子ね。あの人も成功するまで挑戦し続ける人だわ」


 「いいわよ、また一週間後同じ試験をすることにしましょう。それまで私も特訓に付き合うわ!」


「はい!次こそは!」


 そして一週間後、僕は十五発の攻撃魔法全てをシールドに的中させ、「土壁(アースウォール)」を寸分の狂いもなく二メートル間隔、そして平行に出現させた。

 さらに、「水球(ウォーターボール)」で二枚、「火矢(ファイアアロー)」で一枚、「風刃(ウインドカッター)」で三枚のシールドを破壊した。


---


 試験に合格した僕は中級魔法の特訓へと入ることになった。しかしその前に試したいことがあったので、現在一人で裏庭に来ている。


 後回しにしていたことがある。そう、スキルと無詠唱魔術だ。とはいってもスキルに関してはなんの手がかりも得られていない。以前ノエラに聞いてみた事はあるのだが、何も分からないとのこと。

 ちなみにノエラのスキルは「水魔法の出力が、増大する」という内容で学術名「水魔法出力増大」らしい。この世界のスキルって意外とシンプルだな。


 今日用事があるのは無詠唱魔術の方だ。書斎で無詠唱魔術に関する本を探してみたのだが、一冊も見当たらなかった。『初級魔法の全てがわかる!』には応用技術と書いてあったので、自分の中で初級魔法をマスターしてから無詠唱魔術に挑戦すると決めていた。

 ノエラにはまだ相談していない。驚かせたいからだ。


 とはいえ、どうしよう。何から始めればいいか分からん。よく前世では、イメージが大事みたいなことが書いてある物語が多かったな。よし、まずはイメージだ。

 そして僕は地面にあぐらをかいて右手を前に突き出して目を閉じた。

 まずはイメージしやすい水魔法からだ。「水球(ウォーターボール)」で試そう。


 イメージ…イメージ…水…水素…H2O…。


 しばらくすると、体から魔力の流れを感じた。


 (よし、このまま右手に魔力を集めて…)


 (くるぞ!)


――――!


 (あれ?)


 目を開けると、何事もなかったかのように静寂が広がっていた…。


 (確かに魔力の流れは感じたんだけどな…)


 まあまだ最初だ。いろんな魔法で試してみよう。そう意気込んでその日は無詠唱魔術を試し続けた。

 しかし、その日は一度も魔法が発動することはなかった。


---


 さらに一週間が経過した。ノエラとの特訓は中級魔法に入っている。


 「母さん、初級魔法と中級魔法の違いってなんなの?必要な魔力量とか?」


 「いいえ、違いの基準は魔力量ではないの。初級魔法と中級魔法の発動に必要な魔力量にほとんど差はないわ。流石に上級魔法となると話は別だけどね」


 「じゃ、じゃあ何が違うの?威力?」


 「それもあるけど一番の違いはそこじゃないわ。中級魔法は複雑なのよ。初級魔法と比べてね。」


 「複雑?」


 「まあ、実践してあげるから見てなさい」


 するとノエラは薪を一つ持ってきた。


 「以前私が使った、「水鎖(ウォーターチェイン)」は覚えているかしら?」


 ああ、それなら覚えてる。僕がはじめに「火矢(ファイアアロー)」を使って狙いを外した時にノエラが使ったやつだ。あの時のノエラはすごくカッコよかった。


 「覚えてるよ!」


 「じゃあ見てなさい」


 

 「水よ、鎖となりて絡めとれ!ウォーターチェイン!」



 すると、水でできた鎖状の魔法が、薪に向かって飛び、そしてに絡みついた。


 「まずは魔法の形状ね。ほら見てみなさい、鎖の形をしているでしょう?」


 「そうだね!」


 「初級魔法は、球とか矢とか簡単な形状をしたものが多いけど、中級魔法は鎖とか槍、盾みたいに少し形が複雑になるのよ」


 なるほどな。消費魔力にそこまで差はないが、形状が複雑になるのか…。


 「それに、対象物の指定が必要な場合も多いわ。例えば今の鎖も、詠唱に対象物を指定する文言を入れると、より正確性が増すわ」


 ほう。


 「例えば今のウォーターチェインは「敵を絡めとれ」と詠唱すると、より正確に対象物に鎖が絡みつく、ということね」


 あれ?今ノエラは「絡めとれ」としか言ってないように聞こえたが…。


 「でも、母さん!今何も指定してないように聞こえたよ」


 「ええ。慣れれば、わざわざ指定しなくても狙った相手に魔法を放てるようになるわ。私は水魔法が得意だから、なおさらね」


 そうなのか、詠唱は決まっているものだと思っていたが、そうでもないらしい。無詠唱が存在するという事は、ある程度は詠唱に自由が利くのだろうか。


 「母さん、詠唱って省略できるの?」


 「省略?できるとしたら対象物を指定する部分だけじゃないかしら。要は狙った場所に魔法を放つのが大事なのよ」


 「で、でも無詠唱魔術ってのがあるんだよね!?」


 つい聞いてしまった。こっそり練習して驚かせる予定だったが仕方ない。一週間何の成果も得られなかったのだから。


 「無詠唱?よく知ってるわね!どこで知ったのかしら」


 「本に書いてあったんだ!応用技術って書いてあったけど、使えたら便利かなと思ったんだ」


 「そうね…確かに応用技術だわ。それに私は無詠唱魔術は使えないの。だからその技術に関しては知らないのよね」


 そうなのか、水上級魔術師のノエラならあるいは…と思ったが。


 「そうなんだね…。無詠唱魔術に関する本とかってない?使えるようになりたいんだ」


 「そうねえ…ノクティス王国では無詠唱魔術はほとんど研究されていないわ。使える人も多分ほとんどいないわね」


 「そもそも魔術師は基本的に後衛で立ち回ることがほとんどよ。無詠唱である必要はないわ」


 そうかな?早く打てれば便利だと思うのだが…。


 「で、でも早くいっぱい魔法を打てれば便利なんじゃ?」


 「普通は魔力を温存するために、魔法をたくさん打つことはしないわ。それに、正確性に欠ければ、味方を巻き込みかねないわ」


 確かにな、正確に打つということが魔法では重要だ。それはノエラとの特訓で嫌というほど聞かされ、実感したことだ。魔法が外れたら味方が死ぬ。そういうことも考えるべきなのだ。


 し・か・し・だな、カッコいいじゃんか!!無詠唱!!使いたいよ!単純に!!


 「まあロムルなら魔力が尽きることはなさそうだし、正確性も練習すればあるいは…ね」


 「王都の図書館なら何か資料があるかもしれないわね。それにラティシア王国では無詠唱の研究が盛んと聞いたことがあるわ」


 ラティシア王国か…確か中央大陸で一番面積が大きく、繁栄している国…だったか。


 「そうなんだね。いつか行ってみたいな」


 「ほんとロムルは魔法に対して熱心ね!もし王都に行くことがあれば図書館にも寄ってみましょう」


 「うん!ありがとう!」


 やはりノエラに聞いて正解だった。無詠唱魔術はそう簡単ではないが、手がかりは掴めたな。


 「話が逸れたわね、さあ中級魔法の特訓開始よ!それに、治癒魔法も並行して特訓するわよ!」


 ついに中級魔法だ!それに治癒魔法も教えてくれるらしい。よし、ノエラからしっかり技術を吸収して強くなってやるぞ!


 無詠唱は…まあ、一人で練習を続けよう。いつか使えるようになるかもしれないからな。

初級魔法は今まで出てきた四種類の魔法以外にもまだたくさんあります。例えば「火球(ファイアボール)」などがあります。後々たくさん登場してくると思うので、その時はこんなのもあるんだ!と思ってください。

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