第3章 ルティは逃亡することにした
ダリアン様からプロポーズされた翌日。
どんな顔をして会えばいいのか…。
悩みながら起きたら、運のいい事にダリアン様は急用が
できたらしくて、朝からいなかった。
わたしに予定も告げずに出かけるなんて、珍しいけど…
正直ほっとしたわ。
顔を合わせるの気まずいなって思っていたから。
一晩中考えた結果…わたしは…逃亡することにした!!!
ダリアン様がいない朝。
こんなチャンスはもう、二度と来ないわ!!
そうと決まれば、急げ!急げ!
わたしは慌ただしくクローゼットを漁り、大きなカバンを取り出すと
必要最低限のものをバッグに詰め込んだのだけど。
ふと、目に入ったのよね。
ダリアン様からもらったものをまとめて置いてある棚。
思わず立ち止まって、手に取る。
「これは…ダリアン様からもらった香水。これも…ダリアン様がくれた指輪。
それから…ダリアン様がくれたあざらしのぬいぐるみ。わたしに似てるからって…」
ふっと、笑みがこぼれてしまう。
ダリアン様は少しでも遠出すると、必ずお土産を買ってきてくれる。
このあざらしは港町まで視察に行かれたとき。
わたしにそっくりだったから、思わず買っちゃったよなんて言って笑ってた。
高価なものばかりじゃなくて…こういう庶民的で、ちょっとだけ…。
キュンとするものとかくれるから…タチが悪いのよ。
ああっ!もう!
このあざらしだけは…置いていけないわ。
わたしはあざらしのぬいぐるみをエプロンのポケットに忍ばせると
何食わぬ顔で宮廷を後にした。
「ダリアン様にお忘れ物をお届けに行きます」
わたしが言えば、外出してもメイド長も執事も誰も何も言わない。
良くも悪くも。
それくらいの微力な権力は手にしちゃってるのよね…。
堂々と正門を突破して宮廷を出る。
もちろん、王室の馬車なんて使わないわ。
流しの馬車を拾える場所くらいは把握済よ。
とりあえず、実家に身を寄せよう。
借金は返し終わったし、お父様も少しは蓄えがあるみたいだから
一家で引っ越すのもいい。
ダリアン様のいない場所で…わたしは…新しい人生を始めるのよ。
だって、そうするべきだもの…ダリアン様のためにも。
運よく、流しの馬車はすぐに見つかった。
馬車に揺られながら実家へと向かっていると、
猛烈な眠気に襲われた。
だって…昨夜、ほとんど寝てないんだもの~!!
仕方ないわよねえ。。
おまけにこの馬車、すごく座り心地がいい。
ゆらり、ゆらり、と揺れながらわたしはダリアン様の夢を見た。
いつの間にかダリアン様がわたしの隣に座ってて。
サラサラの金髪が、わたしの鼻先をくすぐる。
「まったく。世話がやけるな。わたしのルティは…」
わたしの頭を撫でるその手が…あまりにも優しくて。
暖かくて。
全てを包み込んでくれるような。
愛しくて安心する声に。
涙がこぼれる夢だった。
「何をしても…わたしから逃げられるわけないのに。
いい加減に諦めてさ。早くわたしの嫁になってよ」
少しだけ切なさを帯びたダリアン様の声が、遠くで聞こえた気がした。




