第2章 ダリアン様の…愛の重さはヘヴィ級
わたし、考え事していたから、少しの間ぼんやりしていたのよね。
気が付いたら、ダリアン様がわたしの手を握っていて。
高貴すぎる顔面が目の前にあって。
わー!肌きれーい。
毛穴がなーい。
まつ毛ながーい。
そんな事を一瞬思って。
言われた事の意味を理解するのに数秒かかった。
わたし、もしかして今、プロポーズ‥された?
「じ‥冗談ですよね?」
嫌な汗が、背中を伝うのが分かった。
もう分かってる。
ダリアン様のこの表情。
これは…本気の顔。
「酷いなあ。本気に決まってるでしょ?
わたしの人生最初で最後のプロポーズだったのになあ」
あ。ダリアン様。
ちょっと怒ってる。
「いや、あの、ダリアン様?
私たち、そもそもお付き合いなんて
していませんよね?
結婚って、愛し合う者同士でするものですよ。
私たち、愛し合ってないじゃないですか!」
わたし、たぶん、すごい正論を言ったと思うんだよね。
心臓バクバクで声、震えているけど
言うべきことはちゃんと言った。
「ルティは、結婚したくないの?」
不思議そうに聞いてくるダリアン様。
「えっ?結婚はしたいですよ。
いつか愛する人が出来たら‥
お付き合いして‥デートして‥
お互いの気持ちが高まりあった所で…」
って、言いながら恥ずかしくなってきたー!
全部未体験なのが悔しいー!
ダリアン様が若干、ムッとしたようにわたしを見据えた。
「ルティは、この国にいる以上、わたし以外とは結婚できないと思うよ」
「は?それはどういう‥」
「わたしがルティを妻にしたがっている
ことは高位貴族や王宮関係者、一部の商人の中では
周知の事実だからね。わたしを差し置いてルティに
求婚するような猛者は未来永劫現れないと思うよ」
全身から血の気が引いた。
それもう、独身確定じゃないですかあ!!!
婚活を始める前から
終わってるってどういうことよー!!
ちょっ!それは困る!
「いや、いや、ダリアン様。わたしの身分、分かってます?
平民ですよ。妃教育とかありますよね?
今から始めたって、到底間に合いませんので…」
「それは大丈夫。ルティは妃教育
無事に終了しているから」
受けてない!
妃教育とか、受けたことないから!
「は?それはどういう‥」
「ほら。結構前だけど、毎日業務の後に、やっていたでしょ?
王太子専属メイド教育と称してさ」
「あー!!!!」
受けてました。あーあれがああ!
お裁縫とか、お茶会のテーブルマナーとか、
お礼状の出し方とか、
帝国中の貴族の名前覚えさせられたり、
帳簿の書き方や読み方について叩き込まれた。
やたら厳しい先生にビシバシしごかれたけど、
残業代は時給の倍になってしっかり出たし、
ここを出て仕事を見つける時に役立つかもしれない
という下心もあったから結構頑張ったの。
二年くらい受けた気がするよぉ。
結構、しっかり受けちゃってるよ。
「とっても優秀な成績で終了しましたって
報告を受けているよ。さすがはわたしのルティ。
王太子妃の適正ありだね」
そして、褒められたよ。
とーっても嬉しそうにダリアン様が微笑んだ。
眩しいほどに美しい笑顔。
でも黒いよー。
中身真っ黒だよー。
王太子の専属メイドになるには
ずいぶんたくさんの事覚えるのねえ。
とは、思ったけど。
あれがまさか!
王太子妃教育だったなんて!
やばい。まずい。
完全に外堀から埋められてる!
「それにね‥ルティ。
元・貴族なら、王族に嫁ぐ事はできるから。
安心して。」
ダリアン様が小さく‥呟いた瞬間。
策士の顔をしたの。
ニヤリ、と唇の端を上げるあの笑い。
悪―い顔!
あれだわ。
戦の戦略を考える時の顔―!!
もう。息止まったからね。
はー。すごい。
王家ってやっぱり何でも
調べられるんだって、そう思った。
まあ、そうか。
どこの馬の骨とも分からない人物を
王宮に入れるわけないし。
事前に調査されるよね。
我が家は6年前まで伯爵家だった。
元々は資産家だったけど、お父様は騙されてばかりだし、
お母様に抑止力はないしで、
少しずつ借金が膨らんでいた頃だった。
火事に遭って、家も会社も残ってた資産も全焼したの。
結局、爵位を売って当面の
お金を工面するしかなくて。
他に売るものもなかったし、仕方なかった。
後悔はしてない。
むしろ、平民になってから
気持ち的には楽になった。
考えてみたら貴族も大変なのよ。
毎日勉強だし、マナーとか言葉使いとか
気をつけなきゃいけないことばかり。
女同士のマウント合戦も内心は嫌で仕方なかった。
わたしには貴族向いてなかったなと
つくづく感じていたのに!
まさか、まさか、その貴族社会の頂点。
マウント合戦の頂に誘われるだなんて!
嫌だ。
ダリアン様がどうこうじゃなくて
もう貴族に戻りたくないよ。
どうしよう。
何て言って断ろうかな。
あっ!
これだわ!これこれ!これしかない。
「ダリアン様。実はわたしの実家、貧乏で。
六年前の火事ですごい借金背負っちゃってるんですう。
今でも借金は私がこつこつ返してるんですよー。
こんな貧乏神に溺愛されてる女が王太子妃なんて、
縁起悪すぎてみんな反対しますよ。
わたし、ダリアン様には幸せになって欲しいので…この話は…」
「なかった事にできるとか‥本気で思ってるの?」
ダリアン様の低―い声が私の耳の中でこだました。
「ふへ?」
ちょっ!
あご!あごー!
いきなりアゴクイされたんですけど!
グイっと一気にダリアン様の顔が迫ってきた。
こんな時に何だけど、やっぱり綺麗だわ。
この人。
めっちゃ怖い顔してるけどー!
「ルティ。嘘はやめようよ。
借金は先月で完済してるよね。
ルティの性格上、給料の8割を借金の返済に
充てたと仮定して、計算したらちょうど、
先月で完済しているはずなんだよね。
アリヤ君ももうすぐ学園を卒業するし
やっと心置きなく結婚の話ができると思ったんだ。
わたしの方もルイスが結婚して、心配事が消えたからね。
タイミングとしては今がベストだよ。
それに何よりもう、限界なんだ。
好きな子と同じ部屋に寝てるのに、何もできない苦しみ。
ルティには分からないよね」
怒りとも悲しみともつかない笑顔のダリアン様。
てか、なんで?
全部バレてた。
お見立て通り、給料の8割しっかり
借金返済に充てていたよ。
わたしってそんなに分かりやすい性格なのかな。
ダリアン様の目が笑ってないー。
白目が血走ってきているし。
あごから伝わる熱が熱くて…。
あご先やけどしそうなんですけど。
それに‥えっ?何?徐々に‥。
ダリアン様の唇が…
私に…ち、近づいてきたぁ!
どうしよ。
どうしよ‥目をつぶるべき?
いや、それじゃ、きたぁ!
待ってましたぁ!!
ってやる気満々な感じだし。
正直、嫌じゃないんだけど…
でもプロポーズ断る気なら
キスしちゃダメだよね。
え?これ、断っていいの?
突飛ばしたら不敬罪?
わーん。どうしよう。どうしよう!!
「ダリアン様って、わたしの事、好きですか?」
咄嗟すぎて、裏返った声がでた。
あと一ミリで届きそうだった
ダリアン様の唇が、止まった。
額と額が触れ合って、目と目があった。
ダリアン様の首筋から、ふわっと甘い匂いがした。
「あれ?言ってなかった?」
本気できょとんとした顔しているダリアン様。
「聞いたことないですね」
想像すらしてなかったですよ。
「そうか。ごめん。ちゃんと言うよ」
「わたしは、ルティの事が好きだよ。
好きすぎて、気が狂いそうになるくらい」
ボボボボボオ!
と顔から火炎放射器噴き出してきたー!!
なんか今、猛烈に恥ずかしい事言われた気がする。
ダリアン様の手がそっとわたしの頬に触れた。
「6年間ずっとルティの事を見てきた。
家族の為に一生懸命なところも、真面目な所も、
優しくてお人好しな所もね。
わたしにとっては全部可愛くて仕方ない。
ルティの全てが大好きなんだよ。」
「でも…でも…」
好きだけで王太子妃に
なっていいものなの?
これまでとは世界が
がらっと変わってしまう。
「ルティ。何が不安?
不安な事があったら教えて。
ルティを脅かす全てから守るよ。
ルティを攻撃してきたり、
結婚に反対してくる奴らがいたら
片っ端から潰すから。それくらいの力は付けてきたよ。
この六年間をかけてね。わたしがこれまで
何のために頑張ってきたと思うの?」
「国のため‥国民のため、ですよね?」
「うん。それもあるけど。
一番はルティとの結婚のためだよ。
王太子妃の実家を頼らなくても
わたしだけで十分に国を動かす力があると
証明させる必要があったからね。
政略結婚なんて絶対にしたくなかったし。
ルティとの結婚を外野に邪魔されるの
だけは絶対に許せないからね」
重っ‥。
重量、ヘヴィ級です‥。
「だから、安心してお嫁においでよ。ルティ」
そっかー!それなら良かったぁ!
ルティ、安心してお嫁に行っちゃいまーす!てへ★
なんて…到底、言えるわけないし!!!!
なんかもう、感情はぐちゃぐちゃ。
パニック過ぎて泣きたくなってきちゃったよ。
トホホ。
わたしは、ダリアン様と見つめ合ったまま、ゴクン、と生唾を飲んだ。




