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次回は本日12時半です!
「いやぁ、サツキくん。本当に君はすごいね」
「何がだ。俺はいきなり誘拐され、逃げ、回し蹴り食らって、剣で脅された可哀想な奴だぞ」
ツルギを殴り飛ばし、シアと合流して逃げ、サツキは規定世界の最東端にほど近い場所までやってきた。
ここにもある時計が言うには、そろそろ針が一周する頃合い。
「誘拐のお陰で今があるし、逃げ切れたじゃん。回し蹴りと剣は、うん、よく頑張ったね……」
「フォローになってねぇじゃんか!」
目を逸らしていたシアは「そういえば」と、何かに気づいた様子で口を開いた。
「右腕の剣が消えたり、筋肉もないのに人を吹き飛ばせたのはなんでだったんだろうね? サツキくん、もしやそういう能力があったりして?」
「さぁ……? 今まで俺は魔術を使ったことがないから分からない。マナは見えるけど」
「ふむふむ。なるほど……」
「心当たりとかあるのか?」
「私の考えるものと同じなら、いずれ分かるよ。私が君をスカウトした理由でもあるし」
「スカウトじゃなくて誘拐だと思うんだが」
サツキの疑問もどこ吹く風。シアは目をキラキラさせ、トリップしているようだった。
「『俺は夢を諦めねぇ!』……すごくかっこよかった。本当によく言ったよサツキくん。あれで私が誘拐犯ではなく伝説のきっかけを作った人になった」
「誘拐した罪は消えねぇと思うけどな……?」
「終わりよければ全て良し! そうだよね、サツキくん!」
「終わりも何も、そもそも警備隊をぶっ飛ばしたり蹴散らしたりした時点で歴とした犯罪者だけどな、俺たち……」
「まぁまぁ、そんな顔しないでよ。冒険者ってのはこんくらいしなきゃやっていけないよ」
「俺の周りにこんなことした冒険者はいなかったぞ!?」
「じゃあ、見ている世界が狭いねっ」
「自然に暴言吐くよな……そりゃ、あの壁があるからな。あれの外に出たことはねぇよ」
そう言って、サツキは遠くを眺めた。
この規定世界には端っこがある。真っ白で巨大なただの壁、通称境界線。正確には居住可能区域の限界だ。
その境界線より向こう側は産業専用になっていて、様々な機械が一面を埋め尽くしているのだとか。少なくとも、この街にある人間と自然以外の全てはそこで生み出されている。
「というか、規定世界の外への行き方も知らないんだよな。あの白い境界線から違う世界に行くなんて無理だろ」
「でも君のお父さんもあの壁を超えたんでしょ?」
「……それは、そうだな」
「それに加え、なんと私は向こう側の出身なのさ。ふふん」
さも自慢のように得意げに鼻を鳴らすシア。その言葉に、サツキは「向こう側」のことを想像する。
曰く、無限に広がる世界。
曰く、時代さえ違う世界。
曰く、管理者と魔術によって成り立つ世界。
何度も聞いたそれらの情報は、まぶたを閉じた視界に色を塗るにはあまりにも乏しかった。
「ほら、着いたよ。規定世界の一番東。第六世界と隔てる壁。私たちの冒険の、第一幕の境界線」
気づけば、目の前は白に染まっていた。サツキとシアの影だけが、無機質な白壁に変化を与えている。
胸が高鳴り、衝動的に手を伸ばした。
冷たくも熱くもなく、硬くも柔らかくもないような感触だった。
自分が何を触っているのか分からなくなる。呑み込まれそうになる。そして、安寧を求めたくなる。
「サツキくんっ。しっかり意識を保って。これは秩序の壁。冒険者だけが通れる壁なんだから」
「——はっ! や、ヤバいな。少しだけ意識がなくなってた」
サツキが足元を一瞥すると、僅かに足先の向きが変わっていた。これこそ、秩序の壁の効果なのだろうと思い、真っ直ぐに前——未来に視線を向けた。
「どうする? 私の手を掴んで入る? その方が楽だけど」
その甘言に頷こうとして、止まった。
――楽をしては意味がない。自分の足で踏みださなければいけない。
どこからか聞こえたその声は、サツキの脳内を駆け巡った。
「いや、いい。先に行っててくれ」
「ふふ~ん? そう。なら分かった。目の前で待ってるから」
目を細め、ニヤニヤと気持ちを見透かしたと言わんばかりに笑ったシアは、そのまま壁の中へ歩みを進め、飲み込まれていった。
顔が完全に見えなくなると、サツキは一人ぼっちになった。
「一人には慣れてるはずなのに、なんか……寂しい、な」
シアと出会ってから、初めての静寂。かといって一息付けるわけでもなく、胸の中に広がるのは、自分が辺りに立ち並ぶビルの一つになってしまったような感覚だった。
それを「寂しい」だなんて言葉にするのが、少しだけ恥ずかしかった。
けれど、ここで立ち止まっている訳にもいかない。
「自分の足で踏み出す。自分が前に踏み出す。きっと俺はそうしなきゃいけないんだ」
場末の酒場に親父たちと行ったことがある。そこには、夢を語って何もしない冒険者がたくさんいた。本当に冒険する者は規定世界には住まない。親父たちがいたのは、幼いサツキを安全な場所に置いておきたかったからで、臆病者ではない。
サツキは、そんな臆病者にはなりたくなかった。正直に言えば、内心で見下していたのだ。
「だから、一歩——」
硬い壁を押すと、次第に粘土のような柔らかさになった。
顔、胴、そして足までもが覆われた直後。
——虚無。
そう感じるほど、白のみが広がる空間を見た。
壮大な空間は、世界を超えた先にある景色として相応しかった。
全速力の心臓の鼓動だけが、生きている証拠だった。
「光が……見える……!」
ふわり、という感覚がして、景色に色がつき始めた。
空の青だけではない。草花のさまざまな色が目に飛び込んでくる。チュンチュンと鳴く奇妙な色の鳥もいる。
「やっと来たね。ようこそ、色彩に満ちた第六世界へ!」
草や木々の匂いが風に乗ってやってくる。シアの淡い極彩色の髪が揺れる。
「ここが……第六世界……!」
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