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管理者に染まる世界線  作者: ねくしあ


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「ほほっ、これはまた面白いものを持って帰ってきたねぇ」

「そうか……とりあえずベッドが欲しい」

「あと一、いや二時間は待ってくれ。鑑定したいものがたくさんある」

「ショーン、お前はこれいくらだと思う?」

「二百万ルドエンくらいだろう」

「俺と同じだ。さすがは弟!」

 塔を出たサツキたちは、傍に置いてあった規定世界の機械をついでに持ち帰り、マルクの店へと向かった。

 限界とも言える疲労で、特にサツキがベッドで寝たいと懇願しているが、マルクとショーンの兄弟は取り合ってくれず、目の前の品物に執心だった。

 シアもさすがに疲れたようで、床に座ってリラックスしている——というか船を漕いでいる。

 荷物をずっと持っていたライアに至っては、リュックを枕にスヤリと夢の世界だ。幸せそうに寝ているライアが羨ましいとサツキは嫉妬している。

「いやはや、過去に持ち込まれた戦利品の中でも最も価値がある。というより、利益になる。見たこともない機械は興味深いが、使えなければどうしようもない。その点、勇者くんは素晴らしい」

「そりゃあ、何なら良いかを考えて選んだからな。あ、俺ならその『見たこともないような機械』を知ってるかもしれない」

「すまない、全て分解して金属加工業者に売った」

「なんでやねん!」

 商人としては売れない在庫を加工業者に売るのは正しいだろう。サツキもそれは分かりつつも、突っ込まずにはいられなかった。

(電気があれば……! コンセントも含めて電気があれば……!)

「そうだガキ、俺からぶん取った地図は役立ったよな? 感謝の言葉くらいあってもいいんじゃないか?」

「あ、そのことだが……」

「ん?」

 サツキはポケットに入れていたUSBメモリを取り出した。

 怪訝な目で見つめる二人。サツキの思った通り、彼らはこれを見たことがないらしかった。

「これは紙の地図よりもよっぽど便利な媒体だ。セーフゾーンにある穴にこれを挿し込めば、全階層の地図だけでなく敵の情報やアイテムの場所が全て分かる」

「「……!?」」

「おっと、売らないぞ? これは向かい側の店で買ったものだからな。そんな不義理は出来ない」

「僕が行こう」

 驚くほど素早い判断力で、ショーンは店を出ていった。

 女子二人は完全に寝ている。よって、マルクとサツキの二人だけになった。

「……地図、返せよ?」

「はいよ」

 荷物は不要なものと必要なものに分けていた。

 塔の地図は旅に不必要なので既に取り出してあるので、マルクに手渡す。

「そうだ、頼まれていた情報について、教えなければならんことがある」

「情報というと……憧憬の剣の」

「そうだ」

 サツキは固唾を飲んだ。あっさり親父が見つかるはずもないし、良くて噂程度だと思っている。期待と諦観が入り混じる中、静かに続きを待った。

「憧憬の剣のメンバーの一人がミカレスタに住んでいる。名はオルフレッド」

「オルフ兄さんが……!?」

 オルフレッド。サツキがオルフ兄さんと呼んでいる男だ。憧憬の剣では盾役を務め、屈強な身体と俊敏な足で皆を守っていた。

 まさか、オルフ兄さんが住んでいるとは。衝撃を隠せなかった。

「その言い方じゃ、知り合いみたいだな。俺がまだ若い頃、憧憬の剣は塔を無傷で攻略して戦利品を大量に持ち帰ったことで伝説になったパーティだぞ。長くやってる商人で知らない奴はいない」

「知り合い……というか、そのリーダーが俺の親父だ」

「——はぁ!?」

「家を教えてくれないか? 今からでも行きたい」

「いやいや……俺の頭を置いていくんじゃねぇよ。メンバーの所在について調べてくれ、としか言わなかっただろガキ」

「はぁ……言えばいいんだな?」

 その後、サツキは簡単に生い立ちを話した。妙に話しやすい人間なのは、親父と似て粗野な部分があるからかもしれない。

 一方、話を聞くマルクは表情をコロコロ変え、正直な反応を吐露していた。

 口の悪さは正直さと直結する。人間はそういうものだとサツキは思っていた。

「あらかた分かった。お前……大変だな。数奇な運命だよ」

「じゃあ住所を」

「さっきから要求ばっかりだなお前は。……この紙に書いてある。さっさと行ってこい」

「よっしゃ!」



 煉瓦の一軒家、その黒く大きな扉。

 ノックを三回し、「ごめんくださーい」とドアの奥まで響かせる。

 一分もしないうちに扉は開かれ、若いショートボブの女性が顔を出した。

「あら、どなたかしら?」

「えっと……オルフレッドさんはいますか?」

 完全にオルフレッドが出てくると思い込んでいたサツキは焦った。だが気を取り直し、かなり他人行儀な態度で対応する。

 女性は「少しお待ちくださいね」と言って扉を閉めた。

「……オルフ兄さんに妹がいるなんて聞いてないんだがな」

 あの若さならお姉さんということもないだろう、とサツキは推察した。それにしても顔は似ていないが。

 また少しして、女性が顔を出した。

「どうぞ、上がってください」

 言われるがままに家へと入る。

 内装はゆったりとしていた。暖炉——火はついていないが、手入れされている——や大きなソファ、日の差し込む窓など、平穏な生活を送るには充分な物が揃っている。

 ふと、コーヒーの匂いがした。その元はソファに腰掛け、優雅にカップに口をつける男性からだった。

 男はサツキを見るなりソーサーごと机に置いてまじまじと見つめる。

「……もしかして、サツキか?」

「覚えててくれたんだな! 久しぶり、オルフ兄さん!」

 来訪者の正体がサツキだと分かると、大柄な男性——オルフレッドは立ち上がって破顔した。

「サツキ……! どうしてここにいるんだ!?」

「ふっふっふ。運命の出会いをして、そいつに規定世界を連れ出してもらったんだよ。今では相棒だ」

「さすが、団長の息子だな! 団員だった身としては鼻が高いぞ!」

 兄と慕う人に褒められサツキは喜びを感じていた。——だが、「団員だった」という言葉に引っかかりを覚える。

「オルフ兄さん……憧憬の剣はどうなったんだ?」

「おっと、気づいちまったか……」

「団員だったって何だよ? 団長はっ……! 親父はどこにいるんだよ!」

「まずは落ち着いてくれ。全部、話す」

 サツキの怒声も、オルフレッドは盾役らしく全てを受け止めてくれた。

 落ち着いた対応にサツキは冷静さを取り戻す。ソファに座って、口を挟まず一部始終を聞いた。

「——これが今日に至るまで、憧憬の剣で起きた出来事だ」

 だが、聞いていただけで理解など出来はしなかった。

 思い描いていた理想や夢が、泡沫の希望でしかなかったと告げられてしまった。

「……意味、分かんねぇよ……全世界の塔は攻略したのに……あの家族同然だった憧憬の剣が喧嘩別れで解散した?」

 オルフレッド曰く、憧憬の剣は第六世界、第三世界、第七世界、第一世界、第五世界、第十世界の順番で攻略したという。これが現存する全ての世界で、他は存在していない。

 夢を叶えた憧憬の剣は、プレローマの外へ行くはずが、メンバーで喧嘩をし、解散。団長を含めた三人が外へ、残りの二人は各々余生を過ごしている。

「プレローマの外は、俺には行けなかった。行かない方が良かったんだ。あそこは、俺には耐えられない苦しい環境だ。だからと言って後悔はしてない。一度この目で見た。その事実が大事だった」

「……でも、親父たちはそう思わなかった。プレローマの外へ踏み出した」





「あぁ。俺は肌に合ってた第六世界のミカレスタに戻り、嫁を見つけて冒険者は引退した。最後に盾を握ったのはいつのことだったか」

「嘘……だろ? 何かの冗談だよな……? みんなを守ることに生きがいを感じていた、〝無尽の盾〟が『盾を握ってない』……?」

 オルフレッドは沈黙した。それこそが答えであると言わんばかりに。

 心なしか、あの頃より身体も小さくなった気がした。あるいは、サツキが大きくなったのかもしれない。

 どちらにせよ、顔にはシワが増え、元気が以前に足りていない。それは時間の経過を惨いほどに感じさせた。

「サツキ。旅の目的は何だ?」

「……親父を、探すためだ」

「きっと、団長はその旅の終着点でお前を待っている」

「そうなりゃ話は簡単だ。待ってなくても良いさ。俺は親父を追い越す。相棒と仲間と、どこまでだって行く」

「その意気やよし。質問があれば何でも聞いてくれ。兄のような存在として答えてやる」

「……そこにいる女性のこと、さっきなんて言った?」

「妻だな」

「はじめまして、サツキさん。オルフレッドの妻です」

「いつの間に結婚してたんだよオルフ兄さん!!!!!!」

「他に質問することあるだろ!?」

「色恋の気配がない、って親父も心配するくらいのオルフ兄さんが! なんで! 親父より早く結婚してるの!」

「それは、ほら、紆余曲折あったんだよ」

「逃げたな!? タンクが! 逃げた!」

「くそっ、旅の中で随分とず太く成長したなサツキ!」

 サツキとオルフレッドのくだらない言い争いを、妻はにこやかに笑いながら、黙って聞いていた。もしかすると、最強のタンクはオルフレッドではなく、その妻だったのかもしれない。あるいは、能力を受け継いだか。

 更にくだらない妄想をするサツキは、背後でドアが開かれたことに気づいた。加えて覚えのあるマナと言えば。

「やっほ、サツキくん」

「寝てる間にあたしたちを置いていくなんて酷い野郎だぜぃ?」

 バッチリ荷物を持ったシアとライアの二人だった。

 ライアは通常運転だが、口元によだれの跡が見える。髪も寝癖がついていて、口調に反して微妙に情けない。

「お、二人がサツキの仲間か? 俺はオルフレッド。こいつの兄代わりだ」

「サツキくんの、お兄さん……」

「血は繋がってないがな。家族同然だ」

「じゃ、じゃあ! サツキくんを私にください!」

「シア!?」

「くくくっ……よろしい」

「オルフ兄さん!?」

 サツキは思う。シアは間違いなく寝ぼけているのだと。声が上ずっていたり、テンションがおかしかったり、寝起きにも程がある状態だ。

 それが分からないはずもないのに便乗するオルフレッドもオルフレッドではある。

「あたしたちはサツキを回収しに来ただけからね、うん。帰ろう。そんでお説教だい」

「通常運転どころか悪化してるなこれ……」

 辛うじて残っていたまともさは塔の中に置いてきてしまったらしい。

 全部適当に喋っているだけにサツキは聞こえた。

 だが、オルフレッドの妻は全て受け流し、問いかける。

「宿はどうしていらっしゃいます?」

「……あ、そういや今は宿なかったな。新しいところでも探そうかと」

「なら、家に泊まっていきませんか?」

「本当ですか!?」

 願ってもないことだった。

 久しぶりの再会、もっと長くいたい気持ちはあったのだ。帰らねばならないと踏ん切りをつけるのに苦心していた中の助け舟。口角が自然と上がる。

「二人とも、良いか?」

「もちろんだよ。サツキくんの昔の話とか聞きたかったし!」

「あたしも知りたい、かも」

「なら決定だな!」

「サツキ、今夜は俺が寝かさないぜ?」

「それは頼む寝かせてくれ」


「面白い!」「続きが読みたい!」

と思っていただけましたら、

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