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管理者に染まる世界線  作者: ねくしあ


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 サツキが目を開けると、そこはまた別の空間だった。今度は床に倒れている。天井は正方形の線でタイルになっており、どこまでも続いていた。壁は見えない。白い光に囲われているだけで、床も天井と同じだ。

 夢との違いと言えば、左右にシアとライアの二人が寝ている。それだけでサツキは安心感を覚えた。

「シア、起きてるか……?」

「んっ……あ、おはようサツキくん。なんだかひどい夢見ちゃったなぁ」

「俺は変な夢だったな。博士が出てきたし」

「私もだよ……気持ち悪い登場の仕方で殴っちゃおうか迷った」

「シアがそう言うって相当だな……」

 表情から嫌悪感が伝わってくる。自分も学校生活という過去を振り返らされたのだから、シアもそうなのだろうとサツキは考えた。仄暗い過去があることはサツキも聞いている。

「うへぇ……あたしも嫌な夢見たなぁ~」

「ライア、起きたか。夢に博士は出てきたか?」

「え? うん、いたよ。ゲスみたいな顔だった。キモって感じ」

「こっちもひどい評価だな」

 二人が起きたところで、サツキは周囲を見回す。しかし、いくら目を凝らそうと何も見えない。特段マナも感知できなかった。空間自体に広がるマナはあるが、それは外でも同じ。

 どうしたものかと首を傾げていると、いつもの声が響いた。

『ステージ EXエクストラを開始』

 サツキの前方数メートル先に、一人の男が現れる。

 その全身は規定世界警備隊の服装と同じだった。しかし肌はメタリックな銀色で、腰には剣と鞘を提げている。顔は目があるのみで、鼻や口、髪や耳までもがなかった。

「なんだあれは……」

 不気味な様相に、サツキは気圧される。剣を持った警備隊——まるでツルギだ。嫌な予感がしながらサツキが剣を出すと、相手も剣を抜く。

『自律戦闘アンドロイド・完全機械化型試作機——戦闘用意』

「セントウ、ヨウイ」

「喋った!?」

 サツキが驚いた瞬間、ツルギに似た機械剣士は一歩踏み込み、距離を詰めた。

 目の前に現れた剣士の剣が迫る。

 なんとか腕を動かし、それを防いだ。

「力つっよ——!」

 今まで戦った誰よりも膂力が強い。骨が悲鳴を上げている。

 サツキは焦るが、しかし何も出来ない。ひたすら踏ん張るのみだ。

「〈炎よ、槍となれ〉!」

 横に回り込んだシアが魔術を唱え、剣士は後ろに跳躍して回避する。

 サツキの前を槍が横切り、仕切り直しになった。

 直後、剣士は再びサツキに接近する。左上からの大振り。その隙に突きを繰り出した——はずが、サツキは脇腹に強い衝撃を感じて吹き飛ばされた。

「あがっ——!?」

「サツキくんっ!」

 遮蔽物のないこの空間では何にもぶつからず、放物線を描いてサツキは幾度か地面にバウンドした。次第に勢いを失って転がり、静止する。

「回し蹴りまでツルギとおんなじかよ……!」

 前衛がいなくなったのを好機と捉えたか、剣士はシアに向かって動き始めていた。

 そうはさせまい、とサツキはすぐに起き上がり、走り出す。

 とはいっても、剣士は機械。運動能力に秀でてもいない人間の走る速度が敵うはずもない。

「〈岩よ、起き上がれ〉!」

 シアの魔術で無数に棒が屹立し、障害物となる。その内の一本を、剣士は左手で殴り、破壊した。

「嘘だろ……化け物かよ!」

 シアと剣士の間合いは数歩分。この距離では、魔術を唱えるより剣が先だ。

「シア——!」

「これでも喰らえ!」

 その時、回り込んでいたライアが声を上げた。手に握られているのはビーカー。それをライアは全力で投擲した。

 剣士は振り向きもせず止まり、僅かな逡巡の後、引き返していった。

 ビーカーは地面にぶつかり割れる。だが、シアは守られた。

「ありがとライアちゃん!」

「ナイスだライア!」

「機械ならこの液体は有効、だからね。あたしってば天才? ヒーロー?」

「あぁ、ヒーローだ!」

 サツキはようやく追いつき、三人が再び集まった。

 剣士は警戒しているのか、こちらが動くのを待っている。

「にしてもあいつ、今までとは格が違うよな……」

「速度も威力も桁違い。今のところ無傷だよね?」

「あたしの必殺技も避けられたぁ~」

 あまりに次元が違う。ツルギよりも冷酷で容赦なく、人間には難しい動きを連発していた。金属を溶かす切り札に至っては、視線を向けず的確に避けていた。

「機械だし、目が二つじゃないとしてもおかしくない、よね」

「おかしくないどころか、正解だと思うぞ。センサーやマイクで認識していれば死角なんてなくなる」

「えぇ!?」

「機械の剣士……なんでもありってわけだ」

 だが、金属である以上は切り札が有効なはず。どうにかして切り札を命中させれば勝ちだ。

「タイミングを合わせて拘束できればいいんだが……」

「魔術でやってみる。狙ってる間、サツキくんは耐えててほしい」

「分かった。ライアは行けると思った瞬間に頼む」

「おっけ~」

 サツキは前へ出る。剣士も合わせて一歩進んだ。

「手加減してくれよな!」

 動き出すのは同時だった。やはり剣士の方が早いが、剣はぶつかりあって互いに止まる。

 金属の擦れ合いが不快な音を立てる。それが止んだ時、警戒心が最大限まで引き上げられた。

 剣士は鍔迫り合いをやめ、剣戟を始めた。

 左から横薙ぎが来て、背中を反らして避ける。返す刀で袈裟斬り。それを剣で受け止め、前のめりに力をかけて姿勢を戻した。しかし剣士はビクともしない。

「〈岩よ、鎖となれ〉!」

 剣士の右手——剣を持つ腕を、地面から生えた岩の鎖が縛る。次いで右足、左足、左腕と鎖に縛られ、四肢が拘束された。

 ライアがビーカーを持ち、狙いを定める。

「ジャマ、ダ」

「マジか!?」

 剣士は鎖を思い切り引っ張って壊し、足の拘束も蹴るようにして砕いた。

 そして間髪入れず走り出す。

 向かう先には——

「シア! 危ない!」

 サツキの警告と剣士がシアの前まで到達するのは同時だった。

 剣士は身を少し屈め、足をシアの腹へと突き上げる。

「かはっ——」

 上空へ蹴り上げられたシア。

 シアが攻撃された。痛めつけられた。

 その事実が、サツキの頭に大量の血を昇らせた。

「貴様ああああああああああ!!!!」

 彼我の距離は数歩。全力で叫び、威嚇し、持てる力全てで足を動かす。

 剣を握る手はもはや痛い。でもそんなものは関係ない。

 ——剣士にとっては、絶好のチャンスでしかなかった。

「——ッ!?」

 下腹部に灼熱と強烈な痛みを感じた。

 異物が侵入している感覚があった。

 ゆっくりと視線を落とすと、姿勢を低くしている剣士がいた。その剣は、サツキの腹に刺さっている。貫通しているだろう、というのも分かった。

「ライ、ア……!」

「今度こそ当たれぇ~~~!!!」

 だからと言って、諦める理由にはならない。

 今が一番、サツキと剣士との距離が近いのだ。

 パリン——と硝子の割れる音がした。フッ化水素酸と硝酸の化合液は剣士に命中し、身体を溶かしていく。

 痛みを無視し、サツキは剣士を蹴り飛ばした。剣が腹から抜けるが、千載一遇の好機を逃すまいと、右腕の関節を切り落とす。剣が落ち、カラカラと鳴った。当然手は止めず、左腕の関節も斬る。

「トドメだあああ!!」

 腰から上半身を引き絞り、反動をつけて首を横に薙いだ。

 首がポトリと転がり、力なく倒れ込む。

「か、勝った……!」

 その安心感で、サツキも後ろに倒れた。

 すると、バタバタと一人の少女が駆け寄ってきた。

「サツキくん! 大丈夫!? 血が流れてるけどっ……!」

「回復の魔剤をくれ……致命傷じゃない……」

「う、うん!」

 魔剤の蓋を開け、シアは穴の空いた下腹部に流し込む。

 傷がどうなっているかサツキは見えないが、順調に治っている感覚は分かった。体内が蠢くのは奇妙だが、効果の証明でもある。

「ぅぇ、もう治ってる。早すぎでしょ」

「ライアちゃん、そんな気持ち悪いものを見る目しないであげて」

「いや、俺もこの速度で回復するのは気持ち悪いと思う」

「私の折角のフォローが……!」

 シアの手を借りながらサツキは立ち上がった。問題なく身体が動くことを確認すると、動かなくなった剣士を見る。

「……本当にツルギに似てるな。まるでコピーしたような」

 言うとよりそう思えてくる。剣の使い方や足癖の悪さは、ツルギに近い。あるいは、親父にも——

『全ステージ終了。転送を開始します』

「——それじゃあ皆、帰ろうか」

 視界が白に染まり、浮遊感。

 そうしてサツキたちは、帰還を果たした。

「面白い!」「続きが読みたい!」

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