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管理者に染まる世界線  作者: ねくしあ


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「フェーズ2……ってことはまた敵が来るわけだ。理解してきたぞ、塔の仕組み——さぁ、どんと来い!」

 次の瞬間、サツキは黒いマナが地面から吹き上がるのを目にする。それはいくつにも散らばる——はずだった。

「……嘘だろ、これで一つの——!?」

 黒いマナは分散せず、一体のまま固まった。次第に目や口、輪郭と形成されていき——

「ちょーでっかい魔巨タイタンだ……!」

「私こんなの見たことないんだけど……? どうしろって言うのさ?」

「俺も知らねぇよ! ビルの五階まである仁王立ちの魔巨タイタンってどうすりゃいいんだ!」

 先程サツキが飛び降りた高さよりも二メートルくらい高い魔巨タイタン。当然、その分威圧感も尋常ではない。

「ヴォォォォ————!」

 咆哮は規定世界中に響き渡る。反響し、幾重にも重なって聞こえた。心臓を揺らし、身体が内部から崩れるかと錯覚させた。

 巨大魔巨タイタンは邪魔だ、と言わんばかりに近くのビルに向かって右前足——立っているのだから右手とも言えるが——を振るう。

 直後、ビルはいとも容易く砕かれた。一切の抵抗をしなかったようだった。鋼鉄の塊が空中を舞う。様々な破片がバラバラと地面に刺さっていく。

「逃げるぞ!」

「〈風よ、共にあれ〉!」

 規定世界で逃げるのは二回目。シアは意図を察し、あの時と同じ魔術をかけて皆の足を軽くした。

「ひたすらビルの近くを通る。そうすればビルが崩れて足が鈍る」

「破片が飛んでくるよね!? まさか——」

「シア、信じてるぞ!」

「やっぱりかあああ……!」

 ビルの間を縫うように、的確に駆け抜ける。

 背後では耳をつんざく爆音がひっきりなしに鳴り、地面は不安定になるほど揺れている。

 その間隔が段々と遅くなっていることを感じたのは、数分後のことだった。それは、同時に悲惨な光景を目の当たりにすることでもある。

「はぁ……そろそろビルまみれで遅く——」

 世界が、滅んでいた。

 ビルが尽く崩れ落ち、鉄くずの山と化している世界が滅んでいなければ何と呼べるのか。

 その中心で、巨大魔巨タイタンは足を動かすのに苦心していた。

「ヴォオオオ! ヴォオオ?」

 もはや害意は感じられなかった。助けを求めている。途方に暮れている。未来を悟っている。

「ライア、ダイナマイトはあるか?」

「……じゃん! どんくらい必要?」

「あのビルを一階層吹き飛ばせるくらい」

「なら……こんくらいで!」

 魔巨タイタンの横にはまだ数本のビルが生き残っている。あれが武器だ。シアもサツキと同じ思考に辿り着いたようで、呆れた目つきをサツキに送る。

「私はサツキの願いを叶える神じゃないんだけど」

「元はと言えばシアの仲間探し(スカウト)で誘拐された身だぞ、お互い様だろ?」

「ぐうの音も出ない……」

 サツキは無論、シアに感謝をしている。冒険に連れ出してくれたお礼はしないといけないと思っている。しかし、話は別だ。魔術を冒険で活用するくらい当然の権利と考えている。

「ビルを破壊して魔巨タイタンに当てるのはいいけど……ダイナマイトを風魔術で運ぶとして、途中で爆発したらどうするの?」

「ライア、火炎瓶を」

「じゃん!」

「なんであるのさ! 危険物ばっかり!」

「ダイナマイトをビルの根本にめいっぱい送り込んだ後、火炎瓶を運んで炎上、大爆発——って寸法だ。頼むぜ、シア!」

「連携……やっぱり腑に落ちないなぁ……〈風よ、運べ〉」

 数分後、魔巨タイタンは未だ歩けないまま、用意は完了した。

 火炎瓶が地面に落下したら最後、魔巨タイタンは圧死する。そうでなければ困るのだ。

「これでっ……終わり!」

 ——刹那。遠くからポコポコ聞こえるだけの爆発が、ビルの根本で大量の煙を発生させ、そこからビルを斜めに傾かせた。

「ヴォ——ル!?」

 そうして、巨大魔巨タイタンはビルに潰れた。

 規定世界が嫌いなサツキは胸が空くような思いだった。シアに「どうして笑ってるの?」と聞かれるまで、口角が上がっていることにさえ気づかなかった。

『ステージ1終了。セーフゾーンへの転送を開始します』

 すると、世界がサツキの足元に向かって収縮し始めた。瞬く間に小さくなり、視界がただの白に成り代わると、今度は足元から異なる世界が広がっていった。

「ここは……?」

 そこは部屋だった。規定世界に近く、されど、より機械的で科学的な壁や床。サツキは「近未来的」という言葉が当てはまると思った。

 右側にはデスクとパソコンが、左側には数人分のベッドがある。前方には廊下があり、「出口」と書かれた扉があった。後方にはシャワールームもある。

「セーフゾーン。階層ステージをクリアする毎に転送される休憩室だよ。食料だけはないから保存食を色々持ってきたんだよね。衛生系はここで綺麗に保たれるってわけさ」

「へぇ~! すごーい! 綺麗に過ごせるのは乙女にとって死活問題だから助かるねぇ~」

 ライアは荷物を置いてぴょんぴょんと跳ね、喜びを身体で表現していた。

 しかし、サツキは喜びと反対の感覚に襲われていた。

「……そんな仕組みがあるなんて、まるで誰かの意図を感じるな」

 対して、ライアは平然と答える。

「別にいいだろ~。優しさがあろうがなかろうが、結果、自分にとって得になるならさぁ」

「そういうもんかねぇ」

「そうだよぉ~」

「「……」」

「こういう時になると二人は話が続かないんだね……とりあえず、シャワー浴びよっか。誰から入る?」

「荷物持って大変だったろうし、ライアでいいんじゃないか?」

「あ、私も賛成」

「ぬぇっ!? 優しい……! ま、まさか何かお返しを狙って——!」

「お返しって何だよ、考えてもなかったよ。いいからさっさと入ってきな」

「ならありがたく……あ、下着出すからサツキ見ないで」

「はいはい」

 サツキは目を閉じ、ついでに反対側——パソコンをじっと見つめておく。

 ライアはガサゴソと荷物を漁り、数秒後にはシャワールームに入っていった。

 そのタイミングでようやく目を開け向き直ると、シアが外套を脱いでブラウスのボタンをいくつか外していた。

「走ってあっつい……」

「いきなり脱ぎすぎじゃないか?」

「だ、だって暑いんだもんっ……」

「それもそうか。俺も脱ぐとしよう」

 サツキはチャックを開け、戦闘服を脱いだ。中に入っている魔剤やその他が落ちないよう慎重に持ったはずが、ポケットからポロリと何かが零れた。

「これは……二十ルドエンの」

 金属製品だ。

 ふと、パソコンに視線が吸い寄せられる。

「そういや、剥き出しの部分って特徴的な形をしてたよな」

 数奇なことに、同じ形が反転した状態でパソコンにも付いていた。

 サツキは手に取った〝それ〟を、対応する穴に差し込みたくなった。答えだという確信があった。

「えいやっ!」

 ポロン♪——柔らかな電子音が鳴った。

 パソコンのモニターに光が点灯した。

 青い背景に、未知の言語で文章が書かれている。すると、覆いかぶさるように小さな白い画面が出てきた。「プレローマ共通語変換モジュールを適用中……」と書いてあるその真下には緑色のバーがあり、左から右へジリジリと、不規則なリズムで伸びていく。

「あっ、バーが満タンになった」

 直後、パソコンに映る全ての文字が読める言葉へと変化した。

 サツキは特段意識していなかったが、つまりプレローマ共通語という名前が言語にはついていたのだ。

「えーっと『《総合実験用隔離塔【賢者の塔】・内部情報システム》へようこそ』か。うん、さっぱりだ」

「読めるのに読めないね……とりあえずこの塔が賢者の塔という名前なのは分かったけど」

 この文字列の読解は早々に諦め、サツキは青い背景に置いてあるアイコンを見ることにした。まずは「階層マップ」と書かれたものをクリックする。

「私、これ触ったことない……サツキくんはさすがだね」

「マウスで二回クリックする、という知識くらい、規定世界育ちなら持ってると思うぞ」

「私は規定世界育ちじゃないもん」

「いいんだよ、俺に任せておけば」

「格好いいこと言えるようになったねぇ。お姉さん感動だよ」

 画面には白いウィンドウが現れ、左側に「第一階層」「第二階層」「第三階層」「多目的階」「無限空間」と並んでいた。試しに第一階層をクリックすると、右側に図形が現れる。

「サツキくん、これって——地図、だよね」

「しかも寸分違わない。規定世界を精確に示している」

 何かを思いついたらしいシアはシャワールームの前へ行き、ライアを呼んだ。地図がどこにしまってあるか尋ねたのだ。

「下の箱に右から手を入れると入ってるよぉ~~~」

 くぐもった声で伝えられた情報を基に探すと、確かに地図が丸められて収納されていた。それを広げて画面と見比べてみる。

「まるで設計図だ……人が描いたものと違って歪みも縮尺のミスもない」

「第二階層も見てみようよ」

 第二階層は内部でさらに階層が別れている。話によれば大きな建物らしいが、サツキは画面の地図を見てとある確信を持っていた。

「こっちは学校だ。シアが俺を連れて飛び降りた、あの」

「ってことは……四階のこの教室だよね? サツキくんがいたのは」

「だな。俺たちの出会った場所だ」

「そ、その言い方はちょっと……恥ずかしい……」

「事実を言ったまでだからな!? かっこつけるつもりはっ——!」

「二人ともなーにしてんのぉ?」

「「うわぁっ!?」

 いつの間にかシャワールームを出ていたライアが、下着のままサツキを覗き込んできた。髪は結ばれておらず、顔が近くにあることでほんのり温かな温度を感じる。

「サツキも服を脱いで、シア姉もブラウスのボタン開けて……これは……」

「違うから! 暑くて脱いでただけだから! ねっ!?」

「くひひっ、ほんとかなぁ~?」

「それを言うなら下着のライアはどうなるんだ? さっき『見るな』とか言ってたのに」

「そうだそうだ! サツキくんっ、もっと言ってやって!」

「『もっと』も何も、もう全部言っちゃったよ……」

 サツキが反論している隙に、ライアはベッドに腰掛けていた。愉快そうに細い足をぶらぶらと宙で揺らしている。

「この部屋涼しいし、服はまだ汗で湿ってるし、別にいっかな~って」

「諦めたならまぁ……いいけど……」

 サツキは内心残念な気持ちでいた。これがライアではなくシアだったならば、幸運な出来事として脳に刻まれているだろう。クラスメイトにもライアに近い体型の女子がいたが、サツキは彼女に興味を抱かなかった。というより、人間にさえ興味がなかった。

 サツキは時々考えるのだ——もしシアがクラスメイトだったなら、どんな関係であったか。親友、あるいはそれ以上であればいい。そう願って止まなかった。

「こほん。さて、この地図は他に何が見れるんだろうな」

「ここに『ステージ2実験タイムテーブル』ってあるよ。押してみて」

 すると、小難しい単語も含む長い文字列が縦に現れた。ざっくり目を通すと、ステージ2で出現する敵が記してあることに気がつく。

「アラクネ、ハウンド、ドローン……この三種類がそれぞれ十体ずつ出現、だって」

「俺は聞き馴染みがないな……詳細は……ここか」

 そこにあったのは、冗長で堅苦しい資料だった。

 サツキは専門家であるシア——本人には否定されたが——に頼み、分かりやすく要約・翻訳してもらった。

 アラクネは蜘蛛を模した機械で、八本の脚による三次元移動と攻撃、鋭利な金属線による捕縛と防御が可能。

 ハウンドは狼を模した機械で、機動力と牙による噛みつきが武器。

 ドローンは鳥を模した機械で、空中を自由に動き、針を飛ばして戦う。

「……どれも厄介そうだな。空飛んだり天井に張り付けたり」

魔獣ノーム魔鳥シルフに近いけど、全部機械なのが重要だね」

「血が流れないから壊さないと止まらないのか。ますます面倒だな……」

 次に調べたのは、学校にあるアイテムのことだった。

 塔からは色々なものが出てくる。ダイナマイトなどもその一部だ。

 規定世界はプレローマの中でも魔術に頼らない技術が進んでいる。そのため、マナを使わない道具を手に入れられるのは塔くらいなものなのだ。

「ふむふむ、ここに切り札が——」


「面白い!」「続きが読みたい!」

と思っていただけましたら、

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