15
ひらひらと服を揺らしながら、地面へと降り立つ。
「俺はそれでもいいけどな。離れる気なんかないから」
「……ま、またそんなこと言っちゃって」
シアがそっぽを向いたことに首を傾げながら。サツキは周囲を見渡す。
太陽の光もほとんど当たらず、手入れもされておらず、人の気配もしない寂れた街。それがミカレスタの第一階層であった。
もしかしたら、この騒ぎで住人も逃げてしまったのかもしれない——そんな予感さえしてくる。
「なぁシア、ここで誰か人を一人でも見かけたか?」
「うーん、上空からじゃ見えなかったよ。屋根の影とかで隠れて見えてないのも有り得るけど」
「そうか……とりあえず、軽く探してみるか」
そう言って路地に入ったサツキは、頬を引きつらせた。
「……言ったそばからかよ」
「そろそろ魔獣どももいなくなった頃か。オラ、立て女」
「ライアちゃんに向かって命令とかしないでよぉ。何様のつもりぃ~?」
「ちっ、うるせぇ女だな……なぁ、腹を一発殴るだけなら良かったよな?」
「痛いのもやめてよぉ~! うっかりキミを殺しちゃったらどうするのさ!」
路地の奥には、男が三人と薄紫髪の少女が一人。
少女の腕は縄で縛られている。男たちは皆屈強で、細い身体の少女はなす術など無さそうだが、妙に強気だ。
「うん。ここの住人はいないっぽいな」
見なかったことにしようと、サツキが一歩後ずさる。
「ん……あ~!! 助けてくださ~い! 暴漢に襲われてるんです~!」
サツキの顔を見て、目をキラキラと輝かせ、男に囲われているとは思えないほどニッコニコで助けを求めてきたのだ。
(助けてと言われたからには助けたい……けども)
助けてほしそうな人間の表情ではなかった。
今だって、笑顔で薄紫のツインテールを揺らし、サツキを呼び続けている。
「ねぇ~! 助けてよぉ~! 襲われて……というか誘拐! 誘拐されかけてるの! あれ、そうだよね?」
コテンと首を傾げながら、少女は隣の男に問いかけた。
男は顔に青筋を浮かべ、拳を握りながら答える。
「なんで俺に聞くんだ! まぁそうだよ、俺らはお前を誘拐しようとしてる。……なんで俺が説明してんだよクソ!」
「ほら! 誘拐して奴隷にするんだって! 乱暴されちゃうよ~! だからそこのキミー! あたしを助けてよ~!」
「奴隷にするとは言ってねぇ! するけど!」
果たして何を見せられているのか。
サツキはそう思いながら、一応悪人なので懲らしめようと剣を握った。
「サツキくんっ。一つ提案があるんだけどさ。ここは私に任せてくれないかな」
姿を見せず、壁越しにシアが語りかけてくる。
声色から悪巧みを考えていそうな雰囲気で、サツキは男たちの命が心配になった。
「それは別にいいが……」
「ふふっ、ならやっちゃうね。サツキくんはそのまま注意を引き付けておいて」
「頑張ってみるよ」
「ほーらー! はーやーく!」
「駄々こねる子どもか!」
漫才をする男たちへ、サツキは剣を向けながら近づく。
「きゃー! かっこいー!」
「うるせぇな……」
「あはは……」
相手は一応剣を持っている。本来は苦笑いしている場合ではない。
「あんまり殺しはするなって言われてるんだけどな……邪魔するならガキ、お前で鬱憤を晴らしてやる」
「うーん、出来るものならやってみろ?」
「ガキぃ……!」
このまま爆発でもしてしまいそうなくらい顔が赤い。あまりに血が昇りすぎている。
剣を強く握りしめ、地を踏みしめながら男たちがその距離を縮める。
「〈岩よ、起き上がれ〉」
次の瞬間、地面から棒が生えた。それも男たちの足元から。
「うわああああ!?」
「なんだこれぇ!」
「たっ、たかい……!」
見上げるほど高い岩の棒は、男たちを空中へ送り出した。
落ちたら大怪我は免れない高さ。想像しただけでも見がすくむ。
「……えっと、大丈夫?」
「この魔術はキミがやったの? すご~い!」
少女はそう言いながらサツキの右腕に抱きついてきた。
咄嗟に剣をしまい、その衝撃を受け止める。
「ちょっ——サツキくん! 避けてよ!」
「なんでだよ!?」
「むっ、サツキ。あの女は誰? サツキの何?」
「いきなり馴れ馴れしいなおい」
「私はサツキくんの相棒! ずっと旅をしてきた、ね!」
シアはそう言いながらサツキの左腕にしがみつき、引っ張り始める。
「なんで二人して腕を掴むんだよ!?」
振りほどこうと無理やりよじるが、柔らかな壁がそれを吸収してしまう。そのうえ腕によるホールドが相まって抜け出せない。
まさに徒労。疲れるだけだった。
「そもそも俺、自己紹介してないよな? なんで名前を——」
ふと、サツキは既視感を覚えた。同じ質問を以前、どこぞの誰かにしたからだ。
となれば、答えも自ずと予想できる。
「そりゃ、そこのキラキラ女が言ってたから」
「だろうなぁ! おかしいぞ、自己紹介をしたことがないまま冒険してる……!」
「ちなみに、あたしの名前はライア。よろしくぅ~」
言葉尻を伸ばすのと同時に、ライアが腕を掴む力は強くなった。
しばらく腕の自由はないな——と、肩が悲鳴を上げるサツキはぼんやりと考えるほかなかった。
◇
「……う、うで……が……」
サツキは天を仰いでいた。
視界に塔と無数の円が並ぶのは異様だが、壮大でもある。
寝転がらなければ見えなかったな、と思いつつ、感覚のない両腕を地面に転がす。石畳の感触なんてものはなく、自分の腕が肉であることを感じるのみだった。
それらを挟むように、二人の少女が立っていた。
「それで。ライアちゃんはなんで誘拐されかけてたの?」
「ミカレスタ……初めて来る街で迷っちゃってぇ~。迷ってたら誘拐されかけちゃった! てへっ」
「はぁ……そんな子が、サツキくんを取ろうだなんて人生一周分早い。不死の身体くらい手に入れてからにしてよね」
シアも随分厳しい条件を押し付ける。不死の身体なんて持っている人間はいるのだろうか。さすがのシアも不死ではないはず。
「それは……さすがに無理だろ……」
「そーだそーだ!」
「ふんっ」
サツキがそれを突っ込むと、ライアも便乗してきてしまった。
シアが端を曲げないことをサツキは祈るばかりだった。
「でも仲間にはして欲しいな~って。あたし荷物持ちする! だから……サツキお願い!」
「まずは私に頼むべきじゃないのかな? な?」
「見捨てられたらあたし、またあいつらに捕まって奴隷になっちゃうかもだし……」
ライアは横槍をどれだけ入れられても、サツキの目をじっと見たままだった。
サツキとしては、ライアを助けたい気持ちはある。
実際、ライアは誘拐されそうになっていた。岩柱の上の男たちはギルサと似たようなものだと理解はできる。
それに、荷物持ちはそろそろ必要だった。
ゲーテから逃げるとき、シアも「荷物持ちがいれば」と口にしていたのだ。旅をするのに路銀だけ、というのは本来あり得ない軽装なのだ。
サツキは起き上がり、ライアの目を見つめ返して言う。
「ライア。俺たちは世界を旅するつもりだ。いずれプレローマの外へ行く。その途中で塔を全て攻略する。着いてこられるのであれば——志を同じとするならば、俺はライアを歓迎しよう」
ライアは瞼を閉じた。
息を吸って、吐いて。
「うん——いいよ。その旅、あたしも着いていきたい。よろしくね、サツキ! あとシアも」
「私にはなんか雑だねライアちゃん???」
「……大丈夫かなぁ」
サツキは心配を呟きながら手を差し伸べた。
意味を理解したライアは、その手を握った。
「くふふっ、大丈夫だよ。きっとハッピーエンドになるから!」
「面白い!」「続きが読みたい!」
と思っていただけましたら、
画面下にある☆☆☆☆☆を押して頂けると幸いです!
ブクマも是非!
それらがモチベになります!!!




