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第67話:屋上の密談と、王者の戦略


ももかは受け取ったばかりの台本を抱え

逃げるように帰宅した。


自室でページをめくりながらも

頭の中では先ほど事務所で見た

「異様な光景」がリピート再生されている。


(……マジだったんだ。

社長が本当に恐ろしい人で

クリスタルさんがその実権を握ってるっていう噂!)


「ひぃぃ!」と思わず声が漏れた。


自分に厳しい指導をしていた時の

クリスタルも怖かったが

それはあくまで「愛の鞭」のようなものだと信じていた。


しかし、社長を見下ろしながら

「事務所潰して吸収合併やな」と

不敵に笑うあの姿は、間違いなく

「裏の支配者」そのものだった。


(本性はどっちなの? どっちも本性なの!?)

ももかは首を傾げる。


ただ、一つだけ確かなのは

クリスタルが「自社のタレントを守るため」には

手段を選ばないということだ。


(……怖いけど、クリスタルさんが

悪徳役員たちをボコボコに叩き潰すところ

ちょっとだけ見てみたいかも)


恐怖と好奇心が入り混じり

ももかの心臓はまだバクバクと音を立てていた。



その頃、ミサキがふとアプリを開くと

そこには華やかなバナーが出ていた。


『白百合ももか、女優デビュー決定!

山本勇次、美月さゆみと共演』


勇次から「ももかと一緒だよ」と聞いてはいたが

改めて公式の告知を見ると感慨深い。


しかも、ドラマのオープニング曲は

自分たちスマイリングが担当するのだ。


ミサキが配信一覧を眺めていると

ももかのライブサムネイルが目に留まった。


(……ブロック、されてないよね?)

恐る恐るタップすると

画面には以前の「狂気」が嘘のように

にこやかで愛らしいももかが映っていた。


「本当に、別人だ……」

ミサキは意を決してコメントを打ち込んだ。


『ミサキ:久しぶり、ももかちゃん』


「あ、ミサキちゃん! 久しぶりだね

来てくれてありがとう!」


ももかが嬉しそうに弾んだ声を出す。


そこへ海斗も合流し

コメント欄は和やかなムードに包まれた。



そこへ、画面を割らんばかりの

ド派手なエフェクトと共に

絶対王者クリスタルが入室した。


『殿、お疲れ様です!』

『クリスタル様、降臨!』と

リスナーたちが一斉に背筋を伸ばす中

ももかも

「お、お疲れ様です、クリスタルさん!」と声を張った。


(……この人、中身はめちゃくちゃ怖い

黒幕のボスなんよね……!)


ももかが内心で震え上がる中

クリスタルは不敵に笑いながらコメントを打つ。


『クリスタル:女優デビュー祝いに来たで』


直後、画面いっぱいに「おめでとう」の

超高額ギフトが舞った。


「わあぁ! ありがとうございます!」と

お礼を言うももか。


ミサキは「なんて優しい世界……」と安心していたが

当のももかは、画面越しのクリスタルの視線に

「ヘマしたら消される……!」と

内心ビビりまくっていた。



その日の夕方、クリスタルと村谷社長は

事務所ビルの屋上で珍しく二人きりでいた。


社長はタバコを燻らし

クリスタルは缶コーヒーを手に

遠くの街並みを眺めている。


「……ももかに、バレちゃったなぁ」


社長がポツリとこぼすと

クリスタルは鼻で笑った。


「芸能の奴らは事務所に来るからしゃーない。

でも、ももか含め

うちの連中は口が堅いから心配いらんわ」


「そうだと信じたいけどねぇ。

俺、怖がられてへんかな」


「心配すんな。

外に出たらあんたの顔はちゃんと立てたる。

俺を誰や思うてんねん」


クリスタルの不敵な笑みに

社長は苦笑いを返す。


「お前、すぐ機嫌悪なるやん?」


「今まではな。

でも今は、あんたに芸能界を支配して貰わな困る。

俺はLIVE配信業界を総なめにするから、頼むで」


「……怖いこと言うわぁ。配信業界もかいな」


「スターエイトが

全部のアプリを牛耳ったらオモロいやろ?

俺はゼロQのプロやけど

事務所としては全部さらってまう」


クリスタルはニヤリと笑い

社長の肩を叩いた。


「あんたがいてくれるから

俺は安心して余裕ぶっこいておれんねん」


「……それは、信用されてるってことでええのん?」


「当たり前や。

サラの件もユカリの件も感謝しとる。

芸能界で思いっきり暴れてくれや。

後ろ盾は俺がどうにでもしたるわ」


社長は二本目のタバコに火をつけながら

内心で溜息をついた。


(まぁ、えっか。

俺の上に立ってるのがこいつやったら

やりたい放題暴れても尻拭いしてくれるってことやろ。

……それにしても、俺より年下で俺より怖いって

どういう教育受けたんや、この王者は)


二人の支配者の影が

夕暮れの屋上に長く伸びていた。




お読み頂きありがとうございます

次回最終回になります。

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