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第66話:王者の執務室と、冷え切ったコーヒー

ももかが見たものは?!


ももかは自宅で

送られてきたばかりのドラマ資料を

食い入るように眺めていた。


「あ、山本勇次さんだ

……ミサキの枠にいた人よね?」


配信者同士の繋がりを見つけ

ももかの顔に笑みがこぼれる。


さらにキャスト表には

千葉ユカリや美月さゆみの名前もあった。

さゆみの枠にはたまに遊びに行く仲で

「共演できたらいいね」と

声をかけられたこともある。


「知ってる人がいるのは

本当に心強いなぁ……」


新しい芸能担当マネージャーは

物腰の柔らかそうなベテラン男性だ。


元々スターエイトにいたが

芸能マネジメントの経験が豊富なため

今回の部門移行で抜擢されたらしい。


今日は、台本を受け取りに

「スターエイト事務所」へ行く日だ。

電車一本で着く距離だが

初めて足を踏み入れる「本拠地」に

ももかの心臓は朝から激しく鼓動していた。


彼女はまだ知らなかった。

その扉の向こうで

自分を育てたクリスタルが

どのような「王座」に座っているのかを。



「お、おはようございます……」

ももかがそっと事務所のドアを開けると

そこには異様な緊張感が漂っていた。


出迎えてくれたマネージャーが

「今ちょっとピリついてるけど

気にしないでね」と小声で言い

来客用スペースへと促す。


そこから少し離れた席で

聞き慣れた野太い声が響いた。


「……で、どうすんねん?」

不機嫌そうなクリスタルの声だ。


ももかがこっそり覗くと

デスクでパソコンを叩く男性を

クリスタルが背後から見下ろしている。


そのデスクには『社長』の札が置かれていた。


(あれが社長さん!?

……え、クリスタルさん

めちゃくちゃ上からじゃん!)


「よし、完了!

さてと、この事務所潰せるけど

人気役者も多いんだよね。

吸収合併して

腐った役員たちは首切るって手もあるけど……」


社長の口から出た言葉に

ももかは飲もうとしたコーヒーを

吹き出しそうになった。


(えぐっ! 事務所潰す!?

何したのその事務所!?)


「ふーん。合併して役者陣を

こっちに引き受けるんはアリやな。

芽が出てへん奴はライバーやらせるんも手や」


「吸収合併……する?」


(なんで社長さんが

クリスタルさんに決裁を仰いでるの!?)


ももかの混乱をよそに

クリスタルは不敵な笑みを浮かべる。


「ええんちゃう?

役員はライバー部門で俺が叩き直したろか?

人権無視したやり方は気に食わんしな」


「……楽しんどる。この人怖ぁ……」と呟く社長。


ももかの持つカップが

カタカタと音を立てて震えた。


担当マネージャーが耳打ちする。

「これ、口外禁止ですよ。

クリスタルさん

見ての通り社長より上の立場ですから」


ももかは顔面蒼白で

力なく頷くしかなかった。



その時

「りりあのマネージャー!おるかぁ!!」と

社長の怒鳴り声が事務所中に響き渡り

ももかは「ひっ!」と椅子から浮き上がった。


「 仕事取ってくるんはええけど

ちゃんとその子に合う仕事か見極めんかい!

あ?!先輩に押し付けられた?

なら俺に確認せい!」


伝説の黒幕の迫力に

担当マネージャーは震えながら平伏している。


そこへクリスタルが追い打ちをかけるように

冷ややかに言い放った。


「これで女優辞める言うたらどう責任取るんや?

俺は芸能には首突っ込まん気でおったけど

今の話は胸糞悪いわ

面倒事増やさんといてくれる?」


「き、気をつけますっ!」

深々と頭を下げるスタッフを見て

クリスタルは社長に向き直り

ニヤリと笑った。


「あんた、案外やるねぇ。

あんたを芸能界に戻して正解やったわ」


「ほ、褒めてるの……?」


「当たり前や。

まさかここまでとはな。オモロいわぁ

……さて、腐りきった役員どもを叩き潰すん、

楽しみやわぁ」


「あかんと思ったらいつでもそいつら

切って構わんからな」という社長に

クリスタルは「言われんでもそのつもりや」と不敵に笑う。


ももかは、もはや味のしなくなった冷めたコーヒーを

涼しい顔を装って一気に飲み干した。


(ひぃぃー! 怖い、怖すぎるよこの事務所!

なんで私、ここで女優デビューすることになったの!?)


華やかな芸能界の裏側に潜む

「最強の二人」の会話を聞きながら

ももかは自分の未来が

さらに激動のものになることを確信し

密かに震えが止まらなかった。




お読み頂きありがとうございます

次回も楽しみに♡

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