第64話:黒幕の上を行く男と、震える捕食者
モデル事務所「K・Kカンパニー」の社長室では
社長が文字通りガタガタと膝を震わせていた。
「サラの野郎、何してんだよ
……村谷さんに目を付けられたら
マジで終わりだってのに……!」
『村谷』。
それはスターエイトの
お飾り社長の本名である。
異様な怯えように
周囲のマネージャーや事務員たちが
不思議そうな視線を送る中
一人のメンズモデルマネージャーが恐る恐る近づいた。
「社長……ゼロQのクリスタルさんの枠で
サラさんの注意喚起があったそうです。」
「な、泣きたい。
ワシの教育が悪かったんか?
あそこの社長、村谷さん
元々『芸能界のドン』なのよ!
村谷さんからサラの監視と管理の
連絡が来たんだよー!」
マネージャーは戦慄した。
(え? アプリ内では
クリスタルが実権を握ってるって聞いたけど
……あの王者は『黒幕』を従えてんの!?
怖すぎだろ!)
そこへ、社長に呼び出された
何も知らない姫宮サラが
ヒールを鳴らして入ってきた。
「はーい、なんですかぁ?」
「サラ! お前、もう変なことしてないよな!?」
詰め寄る社長に
サラは「なんのことですかぁ?」ととぼけるが
背中には冷や汗が流れた。
(まさか、千葉ユカリとの件
バレてないよね?)
「村谷さんを知ってるだろ?
今、お前が狙ってるライバーの事務所社長だ!」
サラが「あの、村谷さん……?」と聞き返すと
社長は絶叫した。
「そうだよ! 村谷さんのお気に入り女優を
妊娠させたモデルを業界から消し炭にし
ついでにその事務所まで潰した
あの伝説の黒幕だよ!」
「え……クリスタルさん
村谷さんのお気に入りなの……?」
サラの顔から、一気に血の気が引いていった。
同じ頃、クリスタルはリビングで
千葉ユカリを抱き寄せ
のんびりとくつろいでいた。
「最近、姫宮サラが嫌に大人しいな。
枠におるんかどうかも分からんわ」
「ふふ、雅樹が村谷さんの
事務所所属だとは思わなかったなぁ」
ユカリがポツリと漏らした言葉に
クリスタルは眉を上げた。
「……なんで社長の名前知っとるん?
ユカリの事務所の社長が後輩なんは聞いとるけど」
「知り合いではないけど
芸能界では有名よ。
村谷さんって元々は『芸能界の黒幕』って言われてて
めちゃくちゃ顔が利く人なんだから」
「……はぁ!? あの人が黒幕!?」
クリスタルは内心、激しく動揺した。
(え、俺、とんでもない人を尻に敷いてたんか?
あれが? あの、いつもワタワタしとるお飾りが!?)
「うちの社長が情報を広めてるみたいよ。
『あの村谷さんがライバー事務所の社長をしてる。
スターエイトのライバーに手を出したら
事務所ごと潰されるから気をつけろ』って」
「……へー」
クリスタルは平然を装いながらユカリを抱き寄せたが
口元には不敵な笑みが浮かんでいた。
(社長が芸能事務所に移行したがってたんは
そういうことか。
また暴れたいんやな。
……まあ、そのドンを顎で使うとるんも
最高にオモロいか)
彼はユカリの肩に顔を寄せ
静かにニヤリと笑った。
翌日、クリスタルは悠然と
スターエイトの事務所に乗り込んだ。
「おつかれ。……聞いたで」
事務作業をしていた社長の肩に
ポンと手を置く。
「おつかれ、クリスタル。……何を?」
「芸能界の黒幕、村谷社長」
「ひっ……! なんでそれを!?」
椅子から転げ落ちそうになる社長を眺め
クリスタルは耳元で囁いた。
「ユカリから聞いたわ。
……ええで、芸能事務所に移行しよか」
「……良いの!?」
「ライバー部門はちゃんと残せよ。
辞めて芸能界に行った子らも
戻したいならええ。
あんたの才能が発揮できる場が芸能界なら
その方が俺もありがたいしな。
ドンの上におるんも、オモロそうやし」
不敵に笑うクリスタルを見て
社長は背筋を凍らせた。
(……こいつ、俺の上におりたいだけやろ!
俺よりよっぽど怖いわ!)
「なんやったら
ユカリの事務所と合併してもええで?」
「い、いやそれは! 俺の立場(お飾り)が
後輩にバレてまうやん!」
クリスタルは大笑いした。
「せやな。最強ライバーに実権握られとるなんて
知られたら、ドンの顔丸潰れやもんな」
焦りまくる社長を尻目に
クリスタルは満足げに言った。
「冗談や。安心せい。
表向きはあんたの下におる方が
俺も動きやすいんでね」
事務所内のスタッフたちは
一連のやり取りを見て震え上がっていた。
(社長、マジでヤバい人だったんだ……。
そしてその社長を完全に
手のひらで転がしてるクリスタルさん
この世で一番怖すぎる……!)
お読み頂きありがとうございます
次回も楽しみに♡




