第63話:王者の包囲網とファクサーの休日
お飾り社長の正体が……
美月さゆみとの「緊急毒出しバトル」を
終えたクリスタルは
真剣な面持ちでリスナーに語りかけた。
「ええか、みんな。
サラが普通にしとる分には普通に接してな。
けど、もし裏で嫌がらせ受けたり
枠で変な動きがあったら
すぐに俺か古参の男性リスナーにDMしてこい。
俺が気づかんかったら配信中でも連絡してな」
コメント欄には
『御意!』
『かしこまり!』
『了解、速攻で報告します』と
さながら軍隊のような
統制の取れた返答が並ぶ。
その後、2時間ほど何食わぬ顔で
配信を続けたクリスタル。
終了15分前に姫宮サラが入室したのを
見逃さなかったが
彼女は何もせず静かに去っていった。
配信を切ると
タイミングよくスターエイトの
「お飾り社長」から電話が入る。
「クリスタル、姫宮サラのことやけど……」
「おつかれ。
俺も頼みたいことあってん。先に話聞くわ」
「俺の知り合いがサラの所属事務所
『K・Kカンパニー』と繋がりがあってな。
サラがクリスタルを狙ってるって噂
あっちの社長に伝えて管理と監視を頼んどいたわ」
「……へー。仕事早いね。
こうゆう時、頼もしいわ」
クリスタルが褒めると
社長は「ハハッ、任せとき!」と上機嫌だ。
「あとさ、千葉ユカリの話知っとる?
実は、あいつと寄り戻したんや。
ユカリの事務所の社長に
サラから守ってくれるよう頼んでくれへん?」
「……ガシャーン!」
電話の向こうで何かが崩れる音がした。
「……は、はい? よ、寄り戻した!?
わ、分かった、すぐ連絡する!」
「何動揺してんねん。しっかりしーや」
苦笑しながら
電話を切ったクリスタルだったが
心の底では
(……なんだかんだ、あの社長使えるんだよな)と
少しだけ見直していた。
クリスタルは「作戦チーム」の
グループチャットを覗いた。
【姫宮サラの事務所特定。K・Kカンパニー】
【情報:サラは最近まで山本勇次を狙い
ミサキを排除しようとしていた形跡あり】
クリスタルはそこに
『スターエイト社長がK・Kの社長に
圧をかけて監視を頼んだ』と書き込む。
すると、偵察部隊のメンバーから
新たな報告が上がった。
【姫宮サラがクリスタルの枠で
小さな『Love』ギフトを数個投げていたと
リスナーから通報あり。これはアウトですか?】
(……そのくらい問題ねーわ。過剰反応すぎやろ)
クリスタルは『それは大丈夫や』とだけ
返信し考え込んだ。
ミサキが排除対象だったとは。
確かに勇次とミサキは仲が良い。
だが、ミサキは「普通のライバー」だったはずだ。
(ミサキの元カレ情報とか調べても
地元の友達でも調査せん限り何も出てこんやろ。
サラも暇やなぁ……)
ヤレヤレと首を振るが
その「暇」な執着が最も厄介であることを
王者は知っていた。
その頃、お飾り社長は後輩である
千葉ユカリの事務所社長に電話をかけていた。
「先輩じゃないですか!
お久しぶりです、どうしました?」
「久しぶり。いきなりやけど
ゼロQのクリスタル、うちの所属なんや。
ユカリさんと寄り戻したらしいな。
あいつから『ユカリをちゃんと守ってくれ』って言伝や。
頼むで?」
千葉ユカリの事務所社長は
電話越しに背筋を凍らせた。
(……ヤベェ、先輩のところの所属かよ。
これ、ミスったらうちの事務所が潰される……!)
実は「お飾り」と呼ばれているこの男
芸能界では
「本気を出せば事務所の一つや二つは簡単に潰せる」
フィクサーとして恐れられているのだ。
クリスタルだけが
その事を知らずにその力を
おもちゃのように扱っているのだが。
「姫宮サラの事務所にも
圧かけといたから、安心してや」と
サラリと言う社長。
「ハ、ハハッ……流石です。
でも先輩、スターエイトも
芸能事務所にしたらどうですか?
もっと力発揮できるのに」
(……いや、クリスタルの許可が降りんのや。
……なんて言えるか。
実権握られとるの知られたら俺の顔が立たん!)
社長は適当に誤魔化して電話を切ると
クリスタルに
『千葉ユカリの件、バッチリやっといたわ』と
メールを送信。
クリスタルの知らないところで
芸能界の勢力図が王者のために書き換えられていた。
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