第61話:ミックスジュースと画面越しの再会
クリスタルはリビングでひとり
常備してあるミックスジュースに口をつけた。
この甘酸っぱい飲み物には
彼に似合わない「後悔」が詰まっている。
数年前に喧嘩別れした
元カノ・女優の千葉ユカリ。
彼女の好物だったミックスジュースを
彼は「いつ遊びに来てもええように」と
別れてからも絶やしたことがない。
「……結局、俺が飲むことになるんやけどな。
未練がましいわ」
自嘲気味に笑うが
彼の活動の根底には常に彼女がいた。
不倫報道(後に誤報と判明)で
彼女が一度表舞台から消えたとき
「自分がメディアに出れば
彼女がどこかで見てくれるかも」と思ったのが
芸能系イベントに本気を出した
きっかけだったのだ。
今や彼女は復帰し
美月さゆみとも共演している。
さゆみが「サラの件」で動いたということは
ユカリの耳にも
「クリスタルが狙われている」という話が
届いているかもしれない。
「あの不倫騒動
誰かに嵌められたんとちゃうか。
……あの時、そばに居てやれたらな」
柄にもなくセンチメンタルに浸り
クリスタルは少しだけ
戦いの日々に疲れを感じていた。
そんな静寂を切り裂いたのは
大西直也からの絶叫混じりの電話だった。
「クリスタル! テレビ見たか!?
お前と千葉ユカリの報道が出てんぞ!」
「はあ? なんやそれ、寝ぼけとんのか」
半信半疑でテレビをつけると
ワイドショーの画面にデカデカと文字が躍っていた。
『女優・千葉ユカリの元交際相手は
今注目のゼロQ王者クリスタル!?』
「なんやこれ! どこから漏れたんや……」
「クリスタル、これマジなんか!?」
直也の問いに、クリスタルは苦々しく
「……ああ、付き合っとったわ」と認める。
画面の中では、スタジオにいる千葉ユカリ本人
がMCから質問を受けていた。
「この報道、事実ですか?」
誰もが否定すると思ったその瞬間
ユカリはふわりと微笑んだ。
「はい、お付き合いしてましたよ。
っていうか、なんで今更なんですかね?(笑)」
「認めちゃったーー!!」と
電話越しに叫ぶ直也。
クリスタルの額には冷や汗が流れた。
隠すことでユカリの立場を悪くしたくはないが
よりによって「捕食者」姫宮サラが
目を光らせているこのタイミングで公表されるとは
最悪の巡り合わせだった。
テレビの中では
ユカリが懐かしそうに語り続けている。
「テレビで見て、相変わらずやなぁって。
よく笑わせてもらってました」
「なぜ別れてしまったんですか?」
「……喧嘩別れですね。
本当に、些細なことだったんですけど」
少しだけ寂しそうに目を伏せた彼女の表情が
クリスタルには泣きそうに見えた。
胸が締め付けられるような痛みが走る。
そこでCMに入り
直也が興奮気味に言った。
「クリスタル……これ、元カノさん
まだお前に気持ちあるんじゃねーの?」
「……そう見えるか?」
その時、クリスタルの部屋に
「ピンポーン」とインターホンの音が鳴り響いた。
「直也、客や。ちょっと待っとけ」
エントランスのモニターを確認したクリスタルは
持っていたコップを落としそうになった。
そこには
今さっきまでテレビの中にいたはずの
泣きそうな顔をした
千葉ユカリが立っていたのだ。
「……直也、切るわ」
クリスタルは短く告げると
オートロックを解除するボタンを押し
マイク越しに震える声で言った。
「……上がってこい。ジュース、冷えとるぞ」
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