ジョセフ・ゼーリック戦
ジョセフは立ち上がると、絆創膏を2枚取り出して人の姿に変えた。
2枚の絆創膏は赤子のような姿に変わると、AIPhoneの女性の太股とジョセフの前腕に、それぞれ抱きつく。
「おいAIPhone。俺ぁ、ごちゃごちゃ作戦考えるのは苦手だから、テメェが代わりにアイツら殺す方法考えろ。俺が必要になったら言え」
「かしこまりました。それではジョセフさんの健闘を祈ります!」
AIPhoneの女性のおでこにあるマークは、再び六角形の結び目のようなマークになる。
そしてジョセフは俺達に近づいてきて、大きく拳を振り翳した。
対する俺は、透明化で拳を回避しつつ、変身の異能で熊になって襲う。
ソイも、炎や土の異能を繰り出してジョセフを攻撃した。
「サスケ殿。ジョセフ殿の異能は『擬人化』と『重量操作』でござる。アンソニー殿と同様、重量を重くして攻撃していると思われるため、ゆめゆめ攻撃が当たらぬよう気をつけるで候」
「わかった。ところで擬人化の異能って、道具が人になるだけ? 攻撃しても大丈夫なの?」
「それは拙者にも皆目わからないでござる。擬人化された物は、元の姿由来の能力が使えるで候。されどその能力がどのような能力かは、拙者の鑑定の異能でも判別不能でござる。その上、能力は一つとは限りませぬ」
「厄介な異能だね」
鑑定できない以上、擬人化された物の能力は、元の道具から推測するしかない。
絆創膏の赤子を腕に抱きつかせているところから察するに、赤子の能力はよほど重要な能力なのだろう。
「おしゃべりは終わりか?」
するとジョセフは大きくジャンプして、落ちるように俺達に向かって蹴りかかった。
それを躱したものの、ステージの床は粉々になり、地面に大きなクレーターができた。
重量操作で重量を上げているとはいえ、これほどの威力を出しているとは想定外だ。
「重量操作の異能って、反動ダメージは食らうんじゃなかったの?」
「左様でござる」
「だったら、なんで彼は無傷なの?」
アンソニーですら反動ダメージを無くすために一旦粘液化していたのに、回復系の異能を持たないジョセフが無傷で済むわけがない。
そもそも、さっきから俺達の攻撃を何度か食らっているはずなのに傷一つないのも不自然だ。
彼が無傷な理由は、十中八九、絆創膏の赤子の能力によるものだろう。
「あの腕にくっついている赤子を先にどうにかするでござる。でないとジョセフ殿に攻撃が一切入らないで候」
「わかった」
ソイは金属の異能で槍を作ると、絆創膏の赤子に突き刺す。
そして引き剥がすように大きく振りかぶるも、赤子はジョセフに抱きついたまま微動だにせず、逆に槍が赤子から外れて空振りした。
絆創膏の赤子は、槍で刺されたにも関わらず無傷だ。
「びくともしないでござる」
「赤子自身にも攻撃が通じないのか。厄介だな」
解決策が思いつかない俺達は、とりあえず手当たり次第に攻撃して攻略の糸口を探す。
「ジョセフさん、準備ができました。こちらをどうぞ」
するとAIPhoneの女性はジョセフに向かって何かを投げた。
歪な形をした道具が2つ投げられる。
見たことのない形をしているが、アレはなんだ?
「おっ、コレを変えりゃいいんだな? ほらよ」
ジョセフは受け取った道具を擬人化させる。
すると道具は、レンズの大きな眼鏡をかけた、マラソン選手を彷彿とさせる見た目の男性に変化した。
もう一人の道具も擬人化させると、同じような姿の男性に変わった。
唯一違う点は、もう一人の男性の眼鏡は、レンズの片側がサングラスのように黒くなっていることくらいだろう。
とりあえずジョセフを倒す目処が立っていないし、先に彼らを倒そう。
そう思って近づいたその時、男性達の眼鏡から強烈な光が出てきた。
太陽を直接見た時のように、眩しすぎて何も見えない。
「くっ! 前が見えない!」
目元に手を当てながら、そっと周囲を見回す。
だけど周囲も光源のように光っているため、目が慣れない。
完全に視界を奪われた。
とりあえず透明化しながら光の外に出よう。
だけど、どれだけ移動しても光の外から出られない。
「サスケ殿! 今はどこにいるでござるか?」
「わからない! 眩しくて何も……ぅああっ!!」
「サスケ殿っ?!」
クソッ!
何が起こったんだ?
ソイの声がした方へ移動しようとした、その時。
「うわぁああ!!」
頭が、腕が、足が、腹が。
身体のあらゆる部分が、気持ち悪い音を立てながら引きちぎられていく。
透明化しているのに何故だ?
引きちぎるスピードは俺が回復するスピードよりも早く、俺はそのまま絶命した。
……というわけで、仕切り直しだ。
俺は死に戻りで、ジョセフと戦う直前に戻ってきた。
「あぁ〜……鬱陶しい野郎だ」
ジョセフは立ち上がって、再び懐から絆創膏を取り出そうとした。
絆創膏を擬人化されたら厄介なので、俺は透明化してジョセフに近づき、絆創膏を奪い取ろうとする。
「あぁ? なんだテメェ」
ジョセフの手からあと少しで絆創膏が取れそう、と思ったその時。
俺の気配を感じたジョセフは、透明化を解除したタイミングを狙って俺に腹パンを繰り出した。
絆創膏を擬人化させる前だからか、腕は重量をそこまで重くさせておらず、パンチの威力はさっきよりも弱い。
それでも、俺を3メートル先まで吹っ飛ばすくらいの威力はあった。
俺が吹っ飛んでいる間に、ジョセフは絆創膏を擬人化させてしまった。
これでまたジョセフには攻撃が通じないのか。
だったらさっきと同じように、戦いながらジョセフを倒す方法を探すしかない。
「おいAIPhone。俺ぁ、ごちゃごちゃ作戦考えるのは苦手だから、テメェが代わりにアイツら殺す方法考えろ。俺が必要になったら言え」
「かしこまりました。それではジョセフさんの健闘を祈ります!」
それと、AIPhoneの女性をどうにかしないとな。
さっきは彼女がジョセフに渡した道具のせいで、死んでしまった。
あの道具を取り出す前に彼女を倒したいが、彼女にも絆創膏の赤子がくっついているため攻撃は無駄だろう。
ならせめて、彼女が道具を渡そうとするタイミングで、それを奪い取ればいいか。
ついでに彼女がどんな能力を持っているのか、分析しよう。
俺は前回の流れに沿うようにジョセフと戦いながら、透明化した分身をAIPhoneの女性の近くに配置して監視する。
AIPhoneの女性はジョセフに命令された後、おでこに六角形の結び目のようなマークを浮かべた。
このマーク、どこかで見たことがあるんだよな。
どこだっけ?
そんなことを考えていると、彼女は突然どこかへと歩き始めた。
彼女が向かった先にあったのは、ヴィクトリアが産卵した虫の死骸だ。
AIPhoneの女性はその死骸をいくつか回収すると、おでこのマークはオレンジ色の右矢印のマークに変わった。
それと同時に、彼女の手から道具が出てくる。
これは偏光サングラスか?
そのサングラスをいくつか出すと、またおでこのマークが変わる。
今度は葉っぱのマークだ。
すると、彼女が手に取っていた虫の死体と、偏光サングラスが合体した。
……彼女のおでこのマークの意味が、なんとなく分かったぞ。
あのマークは、恐らくアプリのマークだ。
アプリを起動したら、そのアプリ由来の能力が使えるのだろう。
だからビデオカメラのマークに変わった時はリアルタイムの映像が流れた。
オレンジ色の右矢印は、某通販サイトのアプリだ。
だから道具を取り出すことができた。
そういえば、葉っぱのマークの画像合成アプリがあった気がする。虫の死骸と偏光サングラスが合体したのは、その能力で合成したからだろう。
六角形の結び目のマークも、思い出した!
アレは最新AIのアプリだ。ジョセフはAIに作戦を考えてもらっていたのか。
アプリを切り替えることで色んな能力が使えるなんて、便利な奴だな。
味方だったら重宝するだろうが、敵だと面倒くさいことこの上ない。
AIPhoneの女性は虫の死骸と偏光サングラスを合成し終えると、今度は通販サイトのアプリを起動した。
出した道具は、懐中電灯とランニングシューズと拡散レンズが2つずつ、それからサーモグラフィーが1つだ。
彼女は画像合成アプリを起動して、それらを合体させる。
するとヘンテコな道具が二つ、出来上がった。
一つは、懐中電灯・ランニングシューズ・拡散レンズを合成したもの。
もう一つは、懐中電灯・ランニングシューズ・拡散レンズに加えて、サーモグラフィーを合成したものだ。
その見た目、見覚えがある。
前回、彼女がジョセフに渡した道具は恐らくコレだろう。
──なるほど、さっき俺達を殺した方法がわかったぞ!
AIPhoneの女性は道具を複数結合させることで、擬人化させた時に、それらの道具の特徴を持った能力が使えるように調整したのだ。
あの強烈な光は懐中電灯の能力だろう。俺達が移動しても光から出られなかったのは、拡散レンズの能力によって光が広範囲になったからに違いない。
ランニングシューズをつけ加えたのは、俺達が移動したり手探りで攻撃したりしても避けながら追跡できるような、俊敏な能力を付与するためか?
サーモグラフィーは対俺用だろう。俺が透明化しても追えるように追加したんだ。
で、俺達に強烈な光を浴びせて目眩しをしている間に、虫の死骸を擬人化させて襲わせたんだ。
虫達が持っていた『異能食らい』の異能で、透明化していた俺すらも食われた、ということだろう。
ご丁寧に虫の死骸に偏光サングラスをつけていたのは、あの光の中から俺達を探せるようにするためだったんだ。
……とまあ、AIPhoneの女性が考えた手口がわかったところで、彼女の計画を阻止しよう。
「ジョセフさん、準備ができました。こちらをどうぞ」
彼女が合成した道具をジョセフに対して投げた。
と同時に、俺の分身は実体化して、その道具をジョセフより先にキャッチした。
「あっ! テメェ!」
ジョセフは悔しそうに俺を睨みつける。
これで擬人化されることはない。
ついでに虫達も擬人化されたら厄介なので回収した。
AIPhoneの女性は俺から道具を奪い返すために、アプリを起動する。
が、起動したアプリの能力は俺には通じなかった。
恐らく異能と同じで、俺に直接干渉するものに関しては能力を無効化できるのだろう。
「より良い回答のため思考中……より良い回答のため思考中……応答を生成できませんでした」
俺への対抗手段が尽きたのか、彼女は考えるのをやめるようにそう呟いた。
「あぁ〜! 何やってんだAIPhone! もういい。テメェはそこで寝てろ」
彼女の攻撃を止めたものの、依然として状況は変わっていない。
俺とソイは、引き続きジョセフを倒す方法を模索した。
「やっぱり小細工は性に合わねぇ。テメェらを拳でぶん殴る。それがシンプルで分かりやすいぜ」
ジョセフは握り拳を作って、俺達に振るった。
彼と戦って、分かったことは一つ。
無意識なのか、彼は時折、絆創膏の赤子を庇っている。
ソイが正面から岩を繰り出した時は避けなかったが、腕の赤子に向かって水を出した時は身を捩って躱していた。
絆創膏が剥がれるのを警戒しているのだろう。
彼を攻略するためには、やはり絆創膏の赤子を引き剥がすのが先か。
「サスケ殿、あの赤子を中心に攻撃するでござる!」
「了解!」
ソイは赤子に向かって炎を繰り出す。が、赤子は一切燃えない。
「無駄だ!」
ジョセフは炎を気にすることなく、握り拳を振るう。俺達がそれを避けると、今度は大きくジャンプして、俺達目掛けて急速に落下した。
「なら、これはどうだ! 水遁の術!」
落ちてきたジョセフを覆うように水を吹きかけると、ジョセフは慌てて身を翻した。
「クソッ!」
ジョセフは落下すると同時に、腕を振って水をはらう。
その拍子に、腕にひっついている赤子が、滑って一瞬だけ手を離していた。
「ぅがあぁっ!!」
すると突然、ソイの断末魔のような叫び声が響く。
慌てて振り向くと、ソイは銃弾でも浴びたかのように、身体の数カ所に穴が空いていた。
「大丈夫でござるか?!」
完全回復の異能でソイの怪我は治せたが、もしこの異能がなかったらソイは今頃死んでいただろう。
なぜこんな怪我を?
「ありがとう、フーマ。……まさか水まで重量を重くできるとは思わなかった」
そうか。
ソイの身体を貫いたのは、さっきジョセフが振りはらった水飛沫だったんだ。
重量操作は触れているものの重量も変えられるから、ジョセフは水の重量を重くさせてから水を振りはらったのだろう。
たとえ水飛沫でも重量が重ければ、かなりの威力になる。
だから水飛沫を浴びたソイは銃弾を浴びたかのような怪我を負ったわけだ。
「チッ! 完全回復の異能か。しゃらくせぇ」
ジョセフは鋭い目つきで、透明化している俺を探すように目を動かす。
「オイ、透明の忍者ぁ! さっきからずっと透明になって逃げてて恥ずかしくねぇのか? テメェそれでも、タマついてんのかぁ?」
「忍者は本来、影に潜む存在故、羞恥心は皆無でござる。どちらかと言えば人質を取って脅すことの方が恥ずべき行為で候」
「人質ィ? それだ!」
するとジョセフはステージを離れ、観客席の方へと移動した。
「カタギに手ェ出すのは癪だが、仕方ねぇ。おい忍者ども。ここにいる観客どもを殺されたくなかったら、大人しく俺に殴らせろ」
「観客を殺す? どうやって? パーフェクトジュエルが出したダイヤモンドで守られているのに?」
「ハッ! こんなダイヤモンドでガードしたつもりかよ? 俺が本気出して最大重量でパンチすりゃ、中の人間ごと粉々に吹っ飛ばせる」
ジョセフは先程までの苛立ちが嘘のように、落ち着いて、薄ら笑いをしている。
その余裕からして、ただのハッタリだとは思えない。
「……わかった、でござる」
俺は透明化を解除して、両手を上げた。
ソイも俺の後に続くように、大人しく手を上げる。
「やけに素直じゃねえか。胡散臭ぇ。おい、AIPhone!」
「なんですか、ジョセフさん」
「コイツらが嘘をついているか、確認しろ」
するとAIPhoneの女性のおでこにあるマークが変化し、別のアプリが起動される。
恐らく嘘発見器的なアプリなのだろう。
「おい、お前ら。何を企んでいる? 正直に答えろ」
「別に、何もないよ。強いて言えば、この状況で貴方をどう倒すか、考えているだけさ」
「左に同じでござる」
「ジョセフさん。彼らは嘘をついていません」
「そうか。だったら今、異能を使っているか?」
「僕は使ってないよ」
「拙者は異能無効化の異能と、分身の異能を使っているでござる。分身の異能はトニー殿を拘束するのに使っているで候。それ以外の分身はございませぬ。無効化の異能は自分でも解除できませぬ故、お許しくだされ」
「ジョセフさん。彼らは嘘をついていません」
「そうか、そうか」
無抵抗であると確信したジョセフは、満面の笑みで俺とソイの顔を交互に見た。
「だったら、気兼ねなくぶん殴れるな。よし、お前ら。どっちから先に死にたい?」
さて、どうしたものか。
強行突破でジョセフが観客達を殺す前に食い止めるか?
だとしても、ジョセフを止める算段がなければ無謀だ。
せめて絆創膏の赤子を剥がす方法があれば、対策を打てるのに。
……ん?
ちょっと待て。あの時、確か……。
──閃いた!
「よし決めた! 先に死ぬのは、俺をコケにした透明忍者! テメェだ」
ジョセフは俺の前に来て、握り拳を作る。
今がチャンスだ。
俺は急いで下準備をした。
「あの世で、俺らに喧嘩売ったことを後悔しろ」
その握り拳を、俺の腹へぶつけた瞬間。
腕にしがみついていた絆創膏の赤子を、引き剥がした。
「なっ?!」
それと同時に、最大重量で殴った反動ダメージが、ジョセフを襲う。
俺はすかさず、ジョセフを完全回復させた。
反動ダメージがどれ程のものなのか分からないが、完全回復させたにも関わらず、ジョセフは気を失って倒れてしまった。
その事から、一歩間違えれば即死もあり得るレベルのダメージだったのだろう。
「……何が起こったの?」
ソイは、倒れたジョセフをまじまじと見つめながら俺に尋ねる。
俺は端的に、ジョセフを倒した方法を説明した。
まず、ジョセフがさっき殴ろうとした相手は、俺の分身だ。
殴られる直前に、本体は透明化し、それと同時に本体と重なるように分身を出した。
だからジョセフは、最後の最後まで本体が分身と入れ替わったことに気づかなかった。
次に、ジョセフが分身を殴ったタイミングで本体が実体化し、赤子を掴んで無理矢理引き剥がした。
さっきソイがジョセフに水遁の術を使った時、絆創膏の赤子は手が滑っていた。
絆創膏は、水につけると剥がれやすい。
だから絆創膏の子供も、水に濡れると剥がれやすくなるのではと考えたわけだ。
ジョセフがソイの水攻撃を警戒して避けていたのも、これが理由だろう。
案の定、赤子を力ずくで引っ張ったら、あっさりと引き離せたというわけだ。
あとは反動ダメージを受けたジョセフを完全回復させて、今に至る。
「そうだったんだ。間一髪、だったね」
「左様。これにて一見、落着でござる」
これでボスのジョセフ・ゼーリックも倒した。
──クライムファミリーは、全員捕まった。




