ヴィクトリア・ジャカローネ戦①
「やったでござる!」
苦戦したものの、なんとかアンソニーを捕まえることができた俺達は、自然とハイタッチをしていた。
ソイがいてくれて良かった。
俺一人だったら、どう異能を駆使しても捕まえられなかっただろう。
「これで、残るはあと二人だね」
俺とソイは、彼らに視線を送る。
クライムファミリーのボス、ジョセフ・ゼーリックと、アンダーボスのヴィクトリア・ジャカローネだ。
彼らは鬼のような形相で俺達を睨んでいる。
「テメェら、よくも俺の息子をコケにしてくれたな」
「ボス、ここは私にお任せください。若の仇は私が討ちます」
俺達の前に出てきたのはヴィクトリアだった。
彼女の周りには、蜘蛛のような小さな虫達がぞろぞろと集まる。
その虫達をよく見てみると、上半身はカマキリで下半身は蜘蛛…と、ヴィクトリアの姿と瓜二つだった。
おそらくあの虫達は『産卵』の異能でヴィクトリアが産み出した、彼女の分身だろう。
「貴様らは私が喰らいつくす」
すると無数の小さな虫達は、ゾロゾロと一斉に俺達に向かってきた。
虫嫌いの人が見たら、さぞトラウマになる光景だろう。
かく言う俺も、その光景に恐怖し、思わず意味もなく透明化した。
「ハッ! 無駄だ! 透明化したところで貴様の居場所は丸わかりだ」
ああ。知ってる。
なぜなら彼女は『サーモグラフィー』の異能を持っているからだ。
透明化していても俺の体温を感知して、居場所がすぐにバレる。
分身の虫達も彼女と同じ異能を使えるため、透明化しながら移動しても、正確にその後を追いかけてくる。
「忍法・火遁の術!」
「あっ、サスケ殿! 待つでござる!」
ソイは俺が止めるよりも先に、一直線に襲いかかる虫達に向かって大きな炎を繰り出した。
だが虫達は燃えるどころか、むしゃむしゃと咀嚼音を立てて炎を口の中へ入れていく。
炎を食べた虫達はみるみるうちに大きく成長していく一方で、ソイの炎はだんだん小さくなっていった。
「そんな…! どうして?」
「あの虫達はヴィクトリア殿の『異能喰らい』の異能と同じ能力を持っているのでござる。炎でも土でも、異能でできたものはなんでも喰らうことができるため、無闇に異能を使うのは逆効果で候」
「その通り! そこまで分かっている貴様なら、もう気づいているだろ? たとえ透明化していようと、私はお前を食えるのだと!」
俺の足元まで近付いていた虫が、足の爪先に食らいつく。俺は透明化していたにも関わらず、足の小指を食いちぎられた。
「っ!」
完全回復の異能によって傷は治ったものの、精神的にコレはきつい。
『人間を食べる』という攻撃方法で集団で近付いてくるさまは、ゾンビ映画並の恐怖を感じる。
しかも透明化していても襲ってくるから、余計に恐ろしい。
「異能喰らいって…じゃあ、どうすれば彼女を倒せるんだ?」
「あくまで『異能を食べられる』だけであって『異能攻撃を無効化する』わけではありませぬ。それ故、彼女達に食われないように配慮すれば、異能で攻撃することも可能で候」
「食われないように配慮って、難しいよそれ!」
俺とソイは大勢で襲いかかる虫達に戸惑い、全速力で彼女達から逃げる。
…って、俺の場合、普通に透明化したまま蝿になれば逃げる必要はないじゃないか。
蝿は変温動物だからサーモグラフィーで感知されない。
俺が蝿に変身すると案の定、虫達は俺を見失い、きょろきょろと探すように周りを見回した。
落ち着け、俺。
冷静さを失うな。
「ハッ! 忍者どもは逃げるので精一杯のようだな。貴様らの相手は私だけだと思っているのか?」
「え? …あっ、しまった!」
俺達が虫に苦戦している間に、ヴィクトリアはアンソニーを閉じ込めていた鉄の檻に近付いていた。
そして大きな鎌の腕を振り下ろすと、鉄の檻は真っ二つに切り裂かれた。
これはまずい。
檻の中から粘土と一緒に、白い粘液が出てくる。
その粘液は徐々に人の姿へと変わった。
──アンソニー・ゼーリックが復活してしまった。
「若、大丈夫でしたか?」
「…あぁ。気分は最悪だけどな。サンキュー、姐さん」
嘘だろ?
ただでさえヴィクトリアを倒す目処が立っていないのに、アンソニーまで加わるのか?
しかも泥と鉄で覆う作戦は、さっきの戦いで警戒されているだろう。同じ手は使えないと考えた方がいい。
…よし。
一旦、やり直そう。
俺は死に戻りで、ヴィクトリアと戦う直前に戻ってきた。
戻ってきて早々に、ソイにヴィクトリアの能力を端的に説明した。
「貴様らは私が喰らいつくす」
無数の虫達が俺達に襲いかかる中、ヴィクトリアはゆっくりとアンソニーを閉じ込めている鉄の檻に近付いている。
「サスケ殿、彼女の狙いはアンソニー殿でござる! あの檻を破壊される前に彼女を止めるでござる!」
「了解!」
俺とソイは檻のそばへ移動し、ヴィクトリアと虫達が近づかないよう牽制した。
ソイは金属の異能で鋭い槍を何本も作り、虫達に食われないように避けながら腹部を刺し、一匹ずつ駆除する。
だが虫達はヴィクトリア同様、鋭い鎌を持っているため、ソイが作り出す槍を切り落として食べた。
槍を食べた虫は、成長してサイズが一回り大きくなり、どんどん追い詰める。
俺は透明化して蝿になりながら、ヴィクトリアの背後に回る。そして人に戻って透明化を解除し、檻を破壊されないように鎌を攻撃した。
「目障りな奴だ。私の目に映らなければ掴まらないとでも思っているのか?」
攻撃した後、すぐに透明化して蝿になる。しかし、それを見計らったようにヴィクトリアは大きな口を開けて、俺に食らいついた。
俺は彼女の口の中で咀嚼され、発狂しそうになりながら死に戻りをした。
蝿になった俺の居場所は、サーモグラフィーでも感知できない。
にも関わらず、彼女は『認識できなくとも食べることはできる』と判断して、当てずっぽうで食らいついたのだろう。
今回はたまたま彼女の思惑通りになった、というわけだ。
その恐ろしいまでの執念は、流石としか言いようがない。
──その後も、何度も死に戻りをするが、そのたびに俺かソイのどちらかが食われて死んでしまう。
辛うじて食われずに済んでも、その代わり鉄の檻を壊されてアンソニーが脱出してしまう。
防戦一方で、なかなかヴィクトリアを捕まえるどころか倒す目処すら立たない。
せめてアンソニーがいなければ、鉄の檻を気にせず戦えるのに。
…ん、待てよ?
『アンソニーがいなければ』?
閃いた!
その手があったか!
俺は再び死に戻りで、トニー・トッコを倒した後の時間帯に戻ってきた。
ジョセフ達は、俺達を倒せなかったトニーをどう処分するかで、ゲラゲラと品のない笑みを浮かべながら盛り上がっていた。
「…そんなことは、させないでござる」
「あぁ? なんだオメェ」
「トニー殿には、刑務所で罪を償ってもらうで候。もちろん、アンソニー殿もヴィクトリア殿も……ジョセフ殿にも」
ここまでは前回通りでいい。
問題は次だ。
「そういやトニーがしくじったせいで、まだゴミが生きてたんだったなぁ! おい。誰かアイツらをぶっ殺すって奴はいねぇか!?」
対戦相手を変えるタイミングは、ここしかない。
死に戻ってすぐ、俺はヴィクトリアとアンソニーに気づかれないよう、透明化した蝿の分身を2体出し、2人の身体に重なるようにスタンバイしていた。
そして今のタイミングで分身達をヴィクトリアとアンソニーにそれぞれ変身させる。
本人の身体にピッタリ重なるように変身すれば、ヴィクトリアのサーモグラフィーでも気付かれないだろう。
分身達は洗脳の異能を使って、二人をこっそり誘導した。
アンソニーに変身した分身は、彼に『ここは姐さんに任せよう』と囁き、名乗りでないようにした。
ヴィクトリアには逆に『コイツらは私が始末しよう』と囁いて、前に出るように促す。
「ボス、ここは私にお任せください」
すると俺の狙い通り、ヴィクトリアが名乗り出た。
これで防戦一方だった彼女との戦いも、ラクになるはずだ。
アンソニーを逃がさないように守りながら、ヴィクトリアを倒すにはどうするか?
答えはシンプルに『アンソニーを捕まえるのを後回しにする』だ。
なにも倒す順番にこだわる必要はない。
ヴィクトリアを先に倒してから、後でアンソニーを倒せばいい。
これならヴィクトリアと思う存分、戦える。
「貴様らは、私が喰らいつくす!」
ヴィクトリアは再び、無数の虫達と一緒に、一斉に俺達に襲いかかった。




