アンソニー・ゼーリック戦②
アンソニーは殺人鬼のような冷酷で鋭い目を、俺達に向ける。
「とりあえず死ね」
彼は天井に向かって大きく飛び跳ねると、天井を蹴り、勢いをつけて俺達を蹴りにきた。
俺達はそれを避けるも、ステージの床は轟音とともに大きく穴が空き、地面まで抉れていた。
「忍法・火遁の術!」
落ちてきたアンソニーに対して、ソイは火を吹きかける。
だけどアンソニーは粘液化して、溶けるように火を回避し、ゆっくり俺達に近づいてきた。
「なら、これはどうだ! 忍法・土遁の術!」
ソイはその粘液を覆うように、山のような土砂を繰り出した。
だけど粘液は土の隙間からじわじわと滲むように出てくる。
「ダメ押しの…火遁の術!」
ソイは敵の動きが遅いうちに、土砂の山を炎で燃やした。土砂は、燃えていないのに炎に包まれる。
「やったでござるか?」
土砂から粘液が出てくる様子はない。
ソイが炎を消した後、俺は恐る恐る中を覗こうとした。
だがその時、ソイは急に大きな声で叫びながら、しゃがむように倒れた。
彼の足元を見ると、粘液化したアンソニーが腕だけ実体化してソイの足を強く握っていた。
アンソニーは足を掴んだまま、全身を実体化させて立ち上がる。
「小賢しい真似するじゃねえか」
あの土砂の山から、いつの間にか抜け出たんだ?
とにかく、ソイを助け出さないと。
アンソニーは眉間に皺を寄せながら、透明化した俺を探すように辺りを見回した。
「10秒以内に透明化を解除しろ。じゃねえと、コイツを殺す。勿論、変な動きをしても殺す」
「わかったでござる」
素直に従ったところで、きっとソイを手放さないだろう。だから俺は透明化した分身を出した上で、分身の方の透明化を解除し、あたかも分身が本体であるかのように見せかけた。
分身を見つけたアンソニーは、口角を上げて笑みを浮かべた。
だけどその目は笑っておらず、氷のように冷たかった。
「そうだ。…そのまま俺に大人しく殺されろ」
アンソニーは分身に向かって大きく手を振って、粘液化した身体の一部を飛ばす。
分身はそれを避けると、熊に変身して、ソイの足を掴む手を叩こうとした。
「あー…うざ」
すると突然、アンソニーの半径1メートルの範囲に無数の粘液が豪雨のように降り注いだ。
その粘液は重量操作のためか、一粒一粒が地面を抉るほどの威力で落ちてきた。
粘液の雨はまるで機関銃のように、俺達の身体に無数の穴を開ける。一方のアンソニーは粘液化して降り注ぐ粘液の雨と一体化した。
なぜ天井から粘液が?
と考えると同時に、ふと先程の行動を思い出す。
アンソニーは天井へ向かってジャンプしていた。
恐らく天井を蹴った時に、自身の一部を粘液化して天井でスタンバイさせていたのだろう。
そして俺達を狙えるタイミングで粘液の雨を降らせたのだろう。
アンソニーの思惑通り、分身は透明化する間もなく粘液の雨に当たってしまった。
ソイも、分身も、全身が穴だらけになって息絶えた。
……というわけで、テイク2だ。
俺は死に戻りで、少し前の時間まで遡った。
「あぁ〜〜……だっる。女にできねぇんだったら意味ねーじゃん。一気に白けた。もういい。やっぱり、お前ら殺す。とりあえず死ね」
俺を女にできないと悟ったアンソニーは、殺気を帯びた目で睨みながら、再び天井まで高く飛んだ。
「サスケ殿、作戦通りにやるでござる」
「了解!」
前回はこの時に、天井を蹴ると同時に粘液化した自身の一部を天井にくっつけていた。
また粘液の雨が降ると厄介なので、ソイには事前に打ち合わせていた通り、風の異能で下降気流を作り阻止してもらった。
アンソニーは天井に届くことなく、そのまま重量を重くして俺達めがけて落ちてくる。
それを回避すると轟音とともに、再び地面を抉るほどの大きな穴がステージに空いた。
「忍法・鋼鉄の術!」
前回はこのタイミングで火遁の術を使ったが、今回はその前に地面を鉄で覆ってもらった。
前に粘液化したアンソニーを土砂で覆った時、いつの間にか俺達の目を掻い潜って、別の場所から出てきた時があった。
恐らくだが、あの時は地面の奥の方まで溶け込んで移動したんじゃないだろうか?
だから俺達は気づけなかった。
この仮説が正しければ、地面を鉄で覆うことで地面に潜るのを阻止できる。
ソイの異能を警戒したアンソニーは、全身を粘液化する。
だが攻撃ではないと悟ったのか、すぐに元の姿へと戻った。
「なんだ。またあの檻を作るのかと思ったじゃねーか」
その一言に、ソイは「ん?」と怪訝そうな声を漏らした。
「どうしたでござるか?」
「いや、なんとなく違和感があって…」
「仲良くおしゃべりか? 余裕だな」
ソイとの会話を遮るように、大きくジャンプして踵落としをする。その足を避けると、地面を覆っていた鉄は大きく凹んだ。
「チッ、ちょろちょろ避けんじゃねえよ」
アンソニーは足を粘液化させると、なぜかすぐに元に戻した。
「もしかしてサスケ殿の違和感は、アレでござるか?」
なぜ、すぐに戻るのに無意味な粘液化をするんだ?
俺達を煽るため…とも思えない。
何か理由があるはずだ。
そういえば最初に戦った時も、天井から勢いよく落ちてきた後に粘液化していた。
あの時はソイの攻撃を避けるためだと思ったが、もしかして別の理由があるのか?
そんなことを考えていると、アンソニーが再びジャンプ蹴りをして、地面を覆う鉄を凹ませる。
するとまた足を粘液化して、すぐに戻していた。
無意味のように感じる行動だが、何度もするということは、きっと理由があるに違いない。
「…そうか! わかったでござる!」
重量操作の異能は、本人には直接影響はない。
だから仮に腕を極限まで重くさせても、普段通りに動かせる。
しかし、反動ダメージは別だ。
重くさせた腕や足で相手を攻撃すると、その反動エネルギーが手足に伝わり、大ダメージを受ける。
だから、そのダメージを打ち消すために粘液化するのか。
粘液化の厄介なところは、一度粘液になってから元に戻ると外傷がなくなるところだ。
その特性を利用して、重量操作により反動ダメージをゼロにしているのだろう。
けど、それならなぜ全身粘液化してから攻撃しないんだ?
と思ったが、愚問だな。
全身が粘液になったら俊敏に動けないから、攻撃する時は極力人の姿になるのだろう。
粘液の雨や、粘液の雫を飛ばす時のように、粘液で攻撃する時はある程度動きをつけていた。
ノロノロ動くだけの粘液では、仮に重量を操作したところで大した攻撃はできない、ということだろう。
ここまで分析すると、雷に打たれたかのような閃きが、俺の中に浮かんできた。
「名案を思いついたで候!」
そのアイデアをこっそりソイに耳打ちすると、『それはいい』とソイは早速行動に移してくれた。
「忍法・火遁の術!」
ソイが炎を繰り出すと、アンソニーは天井に向かって大きくジャンプする。
また彼が天井にくっつかないように下降気流を作って阻止すると、彼は再び勢いよく落ちるように攻撃してきた。
「さっさと、死ねやぁ!」
落ちてきたアンソニーを俺達が避けると、彼は想定通り、全身粘液化させた。
「今でござる!」
「忍法・泥団子の術!」
ソイは粘液化したアンソニーを包むように、泥で覆った。
「忍法・鋼鉄封鎖陣の術!」
その次に、泥にコーティングするように、素早く鉄で隙間なく覆った。
これでもう、逃げられないはずだ。
鉄の檻は泥で埋め尽くされているから、人には戻れない。
仮に戻ったとしても窒息する。
粘液の状態だと、たとえ重量を重くしたところで、さっきのように鉄の檻を破ることはできないだろう。
案の定、しばらく様子を見ていたが、アンソニーが鉄の檻を破って出てくることはなかった。
── よし。これでニ人目確保だ!




