アンソニー・ゼーリック戦①
トニー・トッコを捕まえた俺は、透明化を解除してソイとハイタッチをした。
「やったね。間一髪だったね」
「この調子でどんどん倒すでござる!」
「だけど、どうやってここから出る? 僕はフーマみたいに裂け目の間を移動なんてできないよ?」
ソイは俺達の周りを囲うように切り刻まれた時空の裂け目を、呆然と眺める。
「それなら大丈夫で候。出口はあちらでござる」
俺が天井を指差すと、ソイは『なるほど』と感嘆の声を漏らした。
トニーはドアを介して攻撃していたため、ドアの置ける範囲でしか攻撃できない。
つまりドアが置けない上空までは、切り刻むことができなかったのだ。
その上、素早くドアを閉じるために縦方向にしか切っていなかった。
ドアの上の方から腕を出して横方向に切られていたら閉じ込められていただろう。
そこまでされていなくて良かった。
出口を見つけたソイは、天井を見ながら俺達の間に木を生やした。
「フーマも掴まって! ここから出るよ」
「有り難きお言葉でござる。されど、自力で出られるで候」
「そう? じゃあ先に出るね」
ソイはその木に捕まると、木はどんどん上へ伸びていき、天井付近まで成長した後、枝葉がまるで傘のように大きく広がった。
そして時空の裂け目よりも高い位置まできた段階で、木を手放し、裂け目を飛び越える。
俺もソイの後を追うように、鳥に変身して時空の裂け目の外側へと移動した。
すると、そんな俺達を讃えるような小さな拍手が聞こえてきた。
拍手をしていたのはジョセフ・ゼーリックだった。
「やるじゃねえか、オメェら。俺ら相手に粋がるだけはある。トニーもヒーロー二人相手に、まぁまぁ健闘したじゃねえか」
「ほ、本当ですか!」
ジョセフに褒められたトニーは、顔を上げて希望の眼差しで彼を見つめた。
「あぁ。だから特別に、オメェには2つ選択肢をやることにした」
「選択肢、ですか?」
トニーは『ごくり』と大きな音を立てて唾を飲み込む。
「オメェは、ヴィクトリアに食われるのと、アンソニーに食われるの、どっちがいい?」
「え…? く、食われる、というのは?」
「さぁ? どういう意味かはオメェの想像に任せるぜ」
するとトニーの顔から血の気が引き、ヴィクトリアとアンソニーの顔を交互に見比べた。
「ちょっと待てよ親父。冗談キツいぜ。俺は姐さんみたいな食人文化は無えって」
「あ? お前、熟女は射程圏外か?」
「あぁ〜、それならギリ射程圏内かも。爺さん案外、見た目良さそうだしなぁ」
「だとよ、トニー。どうする? コイツだったら優しくしてもらえるかもよ?」
ジョセフ達はゲラゲラと品のない笑いで盛り上がる一方、トニーは絶望したように再び項垂れた。
「…そんなことは、させないでござる」
「あぁ? なんだオメェ」
「トニー殿には、刑務所で罪を償ってもらうで候。もちろん、アンソニー殿もヴィクトリア殿も……ジョセフ殿にも」
トニーは私刑にさせない。
彼の…いや彼らの罪は、法で裁かれるべきだ。
俺が話に割って入ったからか、笑い声はピタリと止み、ジョセフ達は蛇のような鋭い目つきで俺を睨んだ。
「そういやトニーがしくじったせいで、まだゴミが生きてたんだったなぁ! おい。誰かアイツらをぶっ殺すって奴はいねぇか!?」
「はいはーい! 俺がコイツら始末してやるよ、親父」
名乗り出たのは、幹部のアンソニー・ゼーリックだった。
「でも、コイツら殺すの勿体無ぇから半殺しでもいい?」
「あ? テメェ、なに生温いこと言ってんだ」
「え〜、やっぱ殺さねぇとダメか。威勢のいい奴ほど、女にした時の反応が最高なのになぁ〜…」
「それなら半殺しでも許してやる。テレビの前の視聴者に、ソイツらが女にされるところを見せつけてやれよ」
「へへ、りょーかい♪」
するとアンソニーは、舐め回すようないやらしい目つきで、俺たちを凝視しながら近づいてきたよ。
正直なところ彼は苦手なタイプだ。
俺一人だと捕まえるのは難しい。
だから今回、勝てるかどうかはソイにかかっている。
「忍法・木の葉隠れの術!」
「忍法・火遁の術!」
俺が透明化すると同時に、ソイはアンソニーに向かって炎を吹きかける。
だがアンソニーはジャンプすると、炎を軽々と飛び越え、俺達に向かって落ちるように蹴りを繰り出した。
その蹴りは回避したものの、床には大きな穴ができた。
「身軽な人だ。あれが彼の異能なのかな」
「アレは『重量操作』の異能でござる。自身の体重をほぼゼロにすることで高く飛ぶことができるので候。落ちる時は逆に体重を重くすることで、威力を上げているのでござる」
「せいかーい。だったら、コレは?」
アンソニーはソイに向かって回し蹴りをし、ソイは後ろに下がってそれを避けた。
が、ソイは避け切れなかったのか、顔を塞いで悶え苦しむ。
「大丈夫でござるか?」
俺は完全回復の異能をソイに使った。
「痛っ…避けたはずなのに、なんかが顔に飛んできた」
顔をよく見ると、白くて粘り気のある液体のようなものがついていた。
「コレは恐らく、アンソニー殿の身体の一部でござる。彼は『粘液化』の異能を持っている故、蹴りと同時に足を粘液化し、その雫をサスケ殿に飛ばすようにかけたので候。雫とはいえ、重量を重くしていれば、当たった時の衝撃を大きくすることができるでござる」
「またまた、せいかーい! で、お前はコソコソ隠れて解説するだけか?」
「これでも一応、倒す方法を考えているのでござるよ」
俺はダメ元で、背後から近づいて透明化を解除し、ゴリラに変身してアンソニーを羽交締めにした。
が、すぐに粘液化されて逃げられてしまった。
人の姿に戻ったアンソニーは、重量を増やした腕を俺の顔面にぶつけようとした。
「ヒャハ! そんなんで俺を捕まえられると思ってんのか?」
「やはり無駄でござるか」
俺はその腕が顔に当たる前に、透明化して回避する。
「それなら、これはどうだ! 忍法・鋼鉄封鎖陣の術!」
ソイは直径2メートルほどある鉄の球体を、アンソニーを覆うように繰り出し、中に閉じ込めた。
彼を捕まえる方法は、これくらいしか思いつかない。
「これで大人しくなったらいいんだけど…」
しかし、その思いは届かなかった。
閉じ込めてすぐ、鉄の球体を中から叩きつけるような破裂音が響いた。
その音とともに鉄の球体には突起ができ、数発殴り終えると穴が空いて、そこから粘液化したアンソニーが出てきた。
「へぇ〜、なかなか面白ぇことするじゃん」
人の姿に戻った彼は、口角を上げて高揚したような笑みを浮かべる。
「そんな…! じゃあ彼はどうやって捕まえればいいんだ?!」
「とりあえず戦いながら考えるでござる。今、考えられる手で無難な方法としては、相手を気絶させてから拘束するくらいで候」
「わかった!」
ソイは水鉄砲や岩槍などで狙い撃つ。
俺は透明化して気配を消しながら近づき、熊やゴリラに変身して襲い掛かる。
対するアンソニーは俺達の攻撃を、粘液化と重量ゼロのジャンプで避け、超重量化した肉弾戦で迎え撃つ。
「お前ら、なかなかやるじゃねえか。ますます女にした時のリアクションが楽しみだ。なぁ、そのダセェ忍者マスクを外してみてくれよ!」
「ご希望に添いかねるでござる」
「だったら力づくで外してやるぜ!」
俺は背後から熊になって引っ掻こうとしたが避けられ、逆に腕を掴まれ、潰されそうなくらい強く握られた。
「っ!」
そのまま投げ飛ばされそうになったが、その前に透明化して、掴んできた手を振り解いた。
「へへ、いい声出すなぁ。ガチで強めにやったのに倒れねぇタフさも俺好みだ」
ガチで強めに?
確かに腕を握る手は強かったが、そこまで強くは感じなかった。
引っかかる言い方だ。
「そっちの忍者は、どんな声で叫ぶんだ?」
今度はソイが標的になり、アンソニーは積極的に蹴りかかる。
その脚を次々と躱すも、全ては避け切れず、脇腹に一撃を食らってしまった。
「あああぁっ!!」
強烈な一撃だったのか、ソイは大声を出して悶絶して倒れた。
「ヒャハ! 最高だよ、その声! 色っぽいじゃねえか」
「サスケ殿、大丈夫でござるか?!」
慌てて完全回復の異能を使ったが、見た感じはそこまでダメージを負っていなさそうだ。
幸い、ソイはすぐに意識を取り戻して起き上がった。
「ごめん、フーマ。脇腹を掠っただけなのに、なぜか凄く痛くなって…」
「凄く痛く? なるほど、そういうことでござるか」
「なにか、わかったの?」
「アンソニー殿は『感覚コントロール』の異能を持っているでござる。この異能で当たった時の痛みを最大まで強めているので候」
きっと俺も、さっき腕を掴まれた時に同じ異能を使われたのだろう。だけど俺は無効化の異能があるから、痛みは強くならなかった。それを見たアンソニーは『痛みを強くしても倒れないタフな奴』だと勘違いしたわけだ。
「またまた、だいせいかーい! ちなみに重量最大で攻撃すれば一撃で殺せるワケだけど、なんでそうしないか、お前ら分かる?」
「さぁ? 変態だから?」
「半分せいかーい! 正解は『後で可愛がるから、なるべく傷モノにしたくないため』でしたー! まぁその分、痛みは最大にするけど」
「なるほど。ということは、どのみち彼の攻撃を受けたら致命的ってことだね」
「その通りでござる。トニー殿の時と同様、攻撃は回避一択で候」
俺達は彼の動きを凝視して当たらないように気をつけながら、まだ試していない攻撃手段を試してみる。
ソイは火炎や手裏剣、水鉄砲などで何度も攻撃するが、その度に粘液化と感覚コントロールの合わせ技でダメージを無効化されてしまう。
俺も虎やゾウ、過去に会ったヒーローなどに変身して攻撃するが、やはり同様の方法でダメージをゼロにされる。
捕まえるのも気絶させるのも難しい。
やはり苦手な相手だ。
「それにしても、お前らばっかり俺らを分析するのは癪だな。…そうだ、俺もお前のことを分析してやるよ。まずは透明忍者の異能はぁ…透明化に変身、あとは異能鑑定ってところか?」
「せいかーい! でござる」
「でもって、お前の異能はそっちの忍者と違って、攻撃手段が限られてくるわけだ」
「ん?」
その指摘に、俺の頭にクエスチョンマークが浮かんだ。
異能は人より多いから、むしろ攻撃手段は多い。だが俺の異能を知らない彼からしてみれば、そう感じるのかもしれない。
俺はアンソニーの言うことを気にせず、背後に回って透明化を解除してから頭を殴ろうした。
が、また見切られ、腕を掴まれてしまった。
「お前の攻撃手段は肉弾戦のみで、攻撃系の異能はない。強いて言えば動物に変身して戦うくらいか? しかも攻撃する時は透明化を解除しないといけないから、そのタイミングを狙えばお前にダメージを与えられるわけだ。こんな風にな」
腕を握り潰されそうになったのを察して、俺は透明化して振り解く。
なるほど。彼の言い分は一理ある。
そういう意味では、攻撃手段は限られてくる。
「貴重なご意見、感謝するでござる」
「お前、その声! …やっぱり、そうか」
俺が喋った途端、さっきまでいやらしい笑みを浮かべていたアンソニーは大きなため息をついて、まるで凍りついたかのような無表情になった。
「女になってねぇ、ってことはお前、無効化の異能も持ってるだろ」
「ご名答で候」
あの一瞬で性別変更の異能も使われていたのか。
無効化の異能があって良かった。
「あぁ〜〜……だっる。女にできねぇんだったら意味ねーじゃん。一気に白けた。もういい。やっぱり、お前ら殺す」
アンソニーの目は、獲物を狙う鷹のように殺気を帯びていた。




