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追放されたトップヒーロー、海外進出する〜俺がいなくなったら劇的に治安が悪化するけど日本の皆さん大丈夫?〜  作者: サトウミ


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トニー・トッコ戦

会場に現れたクライムファミリーのボス──ジョセフ・ゼーリックは、真っ直ぐステージまで近づいてくる。


その後ろには、アンダーボスのヴィクトリア・ジャカローネ、顧問役(コンシリエーレ)のトニー・トッコ、ジョセフの息子で幹部(カポ)のアンソニー・ゼーリック、それから数十人の構成員(ソルジャー)達……と、クライムファミリーのメンバーが勢揃いしていた。


彼らは、ただでさえ一般人とはかけ離れたイカつい風貌だが、さっきのパフォーマンスのせいか鬼気迫る表情をしていて、より一層恐ろしく感じた。

その気迫にあてられてか、観客も、審査員も、この場にいる誰もが彼らを止めることはできず静かに見守っている。


だがその中で一人、死人のように顔から血の気が引いている男がいた。

トニー・トッコだ。

恐らくW不倫がボスにバレたからだろう。

彼は葬式にでも行くのかと思うくらい、生気の感じられない表情をしていた。


ジョセフ・ゼーリックはステージに上がってくると、スーツの上着を脱ぎ捨てた。

その上着は床に落ちる前に人の姿に変わり、四つん這いになる。

ジョセフはそれを椅子代わりに、腰を下ろした。


「……待たせたなぁ、クソ忍者」


クライムファミリー全員の視線は、俺に集まった。


「俺らと戦いてぇから、晒し者にしたんだって? 大した度胸じゃねえか」


「お褒めにあずかり、光栄の極みでござる」


「俺達を目の前にしても怖気付かねぇとは、よっぽど自分の能力を過信しているか、ただの馬鹿か……どっちにしろ、イカれた奴に変わりねぇな」


ジョセフが鼻で笑うと、他のメンバーも見下したように俺をあざ笑った。


「俺達を呼び出したその度胸を讃えて、テメェには()()()()()を用意してやるよ。なぁ? トニー!」


すると名前を呼ばれたトニーは大きく震えて、裏返った声で『はいぃ!』と叫ぶように返事をした。

トニーは額に汗を流しながら、強張った表情でジョセフと目を合わせる。


「トニー。この際、お互いやったことは水に流そうじゃねえか。ぶっちゃけ、テメェを海に沈めてぇけど、お前の女を寝取った俺にも非がある。だからよ、俺はお前を許すことにした」


「ほ…本当ですか?!」

トニーは、安堵と恐怖が入り混じったような、歪な笑みを浮かべた。


「ただし! あのクソ忍者どもを、テメェが()()()()


「わ、わ、私が…ですか?」


「そうだ。俺が満足できるまで、丁寧にもてなしてやれよ? そしたら、本当に許してやる」


ジョセフは笑顔でトニーに語りかけていたが、そこから発する凄まじい怒気に、重い鉛のような圧力が場を覆った。

…というかジョセフだって不倫しているし、何なら部下の奥さんも何人か寝取っているよな?

なのになぜ彼は、自分のことは棚に上げて上から目線で威圧できるんだ?


「…も、もてなす、というのは……?」

「自分で考えろ」

「アイツらを、バラバラにする…とかですか?」


「んー? その程度?」

「いえいえ! バラバラにした上で、海に沈めます!」

「へぇ〜、お前のもてなしって、つまんねぇな」


「先程のは冗談です! アイツらのバラバラにした身体をつなぎ合わせて、見せしめに気持ち悪いバケモノにします!」

「……まぁ、いいんじゃねえの? 合格」


なかなかにグロテスクな発想だな。

ジョセフの『合格』の一言で、トニーは胸を撫で下ろし、今度は俺を睨みつけた。


「おい、テメェら! その辺の雑魚ヒーローどもを片付けろ! そこの忍者どもはトニーに任せるから手を出すな」


ジョセフの掛け声とともに、数十人の構成員(ソルジャー)達が一斉に動き出し、ステージにいた他のヒーロー達に襲いかかった。


とりあえず、俺達の最初の相手はトニーだな。

相手の異能は使いようによっては詰むから、先手必勝がベターだ。


「いくでござるよ、サスケ殿!」

「あぁ、フーマ!」


「忍法・火遁の術!」

「忍法・木の葉隠れの術!」


ソイは息を吹きかけるようにトニーに炎を浴びせようとする。

その間に、俺は透明化してトニーに近づいた。


「させるか!」


トニーは両手を大きく振り翳すと『切断』の異能で炎を斬り落とす。

と同時に、空間までもが切断されてしまって、宙に時空の裂け目のようなものができた。


「僕の炎が…!」

「サスケ殿、彼の手の動きに気をつけるでござる。トニー殿の異能は、あのように手を振り翳すと何でも斬れるので(そうろう)。防御してもソレごと切断されてしまうで、回避一択でござる」

「了解」


まぁ、俺の場合は『無効化』の異能があるから斬られることはない。

が、斬られた拍子に時空の裂け目に入ってしまう可能性もあるから、油断はできない。


「初見でそこまで察することのできる洞察力は褒めてやろう。…だが知ったところで無駄だ」


「あっ!?」


まずい、先手を打たれた。

トニーは俺が近づく前に、周りの空間を切断しまくって誰も近寄れないようにした。

時空の裂け目越しに、トニーのいる空間がポツンと浮いているのが見える。


「やられたでござる。これでは拙者達は近づけないで(そうろう)

「でも、アレだと自分も身動き取れないでしょ? お互い攻撃できないだけだし、むしろ相手は逃げられないから不利なんじゃ?」


「そうとも限らないのでござるよ。…あっ、サスケ殿! 右に避けるでござる!」


ソイが避けると同時に、背後から手刀で空間が大きく斬られた。

俺が咄嗟に洗脳の異能で指示したお陰で、間一髪で攻撃を躱すことができた。


「そんな…なんで?! 彼は目の前にいるのに!」

「アレをよく見るでござる」

「アレって? …あ!」


トニーの目の前に注目すると、ドア枠と一体になった単独設置型のドアが置いてあった。

彼がドアを少し開けて手を入れると、入れた手はまるで切断されたかのように途切れた。


「今度は斜め左後ろでござる!」


ソイは指示通りに避けながら、空間が切れた跡を追うように、斜め右後ろに目をやる。

するとそこには、トニーの前にあったものと同じような単独設置型のドアが、少し開いた状態で置いてあった。

ドアからは、腕が少し出ていた。


「あっ!」

ソイがドアを見つけると同時に、その腕はドアの中へと消えて、速やかに閉じられた。


「トニー殿は『レプリカ』の異能で自身の前と拙者達の背後にドアのレプリカを作り、『ドア』の異能でドア同士を移動しているのでござる」


「ご名答! これで貴様らから攻撃を受けることなく、私が一方的に攻めることができるのだ!」


「なんだって?! 卑怯な!」


「ハハハ! 何とでも言えばいいさ! 非戦闘要員の私が、真正面からヒーローと戦うわけがなかろう!」


卑怯かどうかはさておき、困ったことになったな。

俺は試しに、近くに出現したドアが開いたタイミングで、素早く中に入ろうとした。

だけどトニーがいる空間には行けず、ドアの裏側へただ移動しただけに終わった。


こういう時に限って『無効化』の異能は不便だ。

きっとソイや他の人だったら、トニーのいる空間へ移動できたのだろう。

しかし俺は『ドア』の異能を無効化しているせいで、ドア移動ができなかったのだ。


「どうしよう。このままじゃ防戦一方だ」


俺とソイは辺りをくまなく見回しながら、ドアが現れた瞬間に動きを警戒して手刀を避ける。


「フハハハ! どうだ忍者ども、手も足も出まい! 貴様らは、このまま私にバラバラにされるのだ。…特に、私の不倫を暴露した方の忍者! 貴様だけは絶対に許さない! 透明化したところで私の異能は回避できないぞ! そのまま切り刻んでやる!」


「なぜでござるか? 『ボスに殺されるスリルがたまらない』のでござるよね? であれば、現状はとてもスリルがあって楽しいのではないでござるか?」


「馬鹿が! スリルというのは結局、ギリ安全圏にいるから楽しめるのだ! 殺される一歩手前の状況で楽しめるわけがないだろう!」


だったら不倫するなよ。

そんな会話をしながら攻撃を避けていると、状況を打破しようとしたソイが、火遁の術をトニーのいる空間へ放った。

だけどその炎は時空の裂け目のせいでトニーに届かない…かと思いきや、頭頂部に当たった!


「熱っ!?」


トニーは慌てて頭を押さえる。

彼がスキンヘッドでなければ確実に河童のようなヘアスタイルになっていただろう。


「切り込みが甘かったか」


彼は念入りに手を振り回して、時空の裂け目(バリア)を広げた。


「…そうか、思いついたでござる!」


俺がある作戦をソイに耳打ちすると、『それはいい』と乗ってくれた。


「忍法・草縛りの術」


ソイは印を結ぶポーズをしながら、床一面に太い蔓を這わせる。

そのタイミングで新たにドアのレプリカが現れたものの、蔓が波のように床を這っているせいで自立できずに倒れてしまった。


倒れたドアが少し開いて、中から腕が出てきたが、その腕は空めがけて的外れに振り下ろされた。


「これでトニー殿の攻撃は封じたも同然でござる」

「ハッ! 甘いな小僧!」


再びドアが出現したと思ったら、そのドア枠の下部分は、2メートル四方の厚めの板になっていた。

そのため蔓で不安定な床でも安定し、今度は倒れなかった。


「だったら、これなら…!」


ソイは這わせた蔓を動かして、開いたドアに侵入させる。


「ちょこざいな!」


入ってきた蔓に気づいたトニーは、それを手刀で切り落としてドアを閉めた。


「駄目でござるか」

「だけど、うまくいけば次は捕まえられるかも!」


その後もソイとトニーの攻防が続いた。

トニーがドアを出すと、すかさずソイが蔓で追う。その蔓をトニーが斬って再びドアを閉める。

それを繰り返すうちに、ソイはどんどんドアに侵入するタイミングが早くなっていった。


「僕が捕まえるのも時間の問題だ。観念するんだ!」

「それはどうかな? 周りをよく見てみろ」

「あっ…まずいでござる!」


いつの間にか俺達の周りは時空の裂け目だらけになっていて、トニーのように孤立した空間の中にいた。

これじゃあ逃げられない。


「チェックメイトだ!」


トニーが俺達の前にドアを出して、開けようとした、その時──。


「捕まえたでござる!」


ゴリラに変身した俺の分身は、トニーの背後から抱きつくように拘束した。


「なっ?!」


困惑して暴れだしたが、分身が手を動かせないように拘束しているため切断の異能は発動しなかった。


「なぜ貴様がここに…?」

せっかくだし、種明かししてやるか。


「サスケ殿が貴殿の気を引いている間に、気づかれないよう透明化した分身を出して、こちらに忍び込んだのでござる」

「馬鹿な。切断された空間の向こう側へ行ける異能があるとでもいうのか?!」


「拙者はトニー殿のような、移動ができる異能は持っておりませぬ。しかしながら、姿を変えることで、こちらの空間へ辿り着くことができたので(そうろう)

「姿を変える? それで、どうやって移動できるというのだ」


「小さな虫に変身して、切り込みの甘い部分を探し、そこから侵入したのでござるよ。

一見、隙なく空間が切れているように見えても、ところどころに虫が入れる程度の小さな隙間があったので(そうろう)

そういった小さな隙間を見つけながら移動した結果、ようやくトニー殿のところへ辿り着いたのでござる」

「…なるほど、そういうことか」



そこまで説明すると、トニーは観念したように力なく項垂れた。


── よし。これで一人目確保!

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