パフォーマンスタイム開始
「それでは、シャドウズのお二人さん。パフォーマンスを始めてください!」
司会者の合図とともに、俺達のパフォーマンスタイムがいよいよ始まった。
俺が先に行動したら、ソイのパフォーマンスの邪魔になる。
そう思って、ソイのパフォーマンスがある程度終わるまで、俺は何もせずに彼を見守ることにした。
「僕たち忍者は、様々な忍術を使うことができます! まずはこの術から…忍法・火遁の術!」
ソイは観客席に向かって大きく息を吹く。
それと同時に、人一人が入りそうなくらい大きな火の玉を、口から出てくるように演出しながら繰り出した。
その演出に、観客席から感嘆の声が漏れる。
「素晴らしい術ね。ジュエルみたいにキラキラ輝いているわ」
ソイの異能に見惚れたのは観客だけではなさそうだ。
その後もソイは水遁の術、土遁の術、風遁の術など、様々な異能の術を見せつける。
「いいわねぇ、彼! 見栄えだけでなくて異能もヒーロー向きだわ! これだけ強力な異能はパラゴン・ガーディアンズの事務所にもなかなかいないわよ」
ソイのパフォーマンスは審査員の心も鷲掴みしたようだ。
「…で? サスケが凄いのは分かったが、フーマの方はどうなんだ? 何もしないのか?」
フォーゲル社長に指摘されて、会場中の注目は俺に集まった。
ソイのパフォーマンスもひと段落したようだし、そろそろ俺も始めるか。
「それでは只今より、拙者も披露致しまする。拙者、シンガール殿の演説にありました通り、忍者故に情報収集が得意でござる。例えば……忍法・変化の術!」
俺は両手を胸元に持ってきて、印を結ぶポーズをしながら、とある男性に変身した。
その男性は、グレーのスーツに大きな宝石のついた指輪と高級腕時計をしている、イカつい顔つきの大柄な中年男性だ。
「拙者が変化したのはジョセフ・ゼーリックと言う名の男性でござる。この者はデストロイトを牛耳る悪党・クライムファミリーのボスで候」
俺がそう説明した瞬間、さっきまで盛り上がっていた会場が、一気に凍りついたような空気に変わった。
「デストロイトはクライムファミリーの所業により、悪の蔓延る街となっておりまする。しかしながら、ボスのジョセフ殿は仲間に対して不義理を働いているので候。
実はかの者は今、デストロイトのエドワード通り1040番地にあるイタリア料理店『アドリアーノ』で不倫相手と一緒にパスタを食べながらこの番組を見ているのでござる。
しかもその不倫相手とは、顧問役であるトニー・トッコ殿の奥方で候。
その上、ジョセフ殿はただの不倫だけでは飽き足らず、なんと彼女との間に子供をもうけたので候。子供はトニー殿の子として育てているようでござる。いわゆる托卵というものですな」
そこまで説明したところで、突然『ブーッ!』という心臓に悪い音が会場内に広がった。審査員席を見ると、一人だけ合否マークが赤くなっていた。
ブザーを押したのはキム社長だった。
「ダメダメ! 反社を煽るなんて、君は頭がおかしいよ! なんでこんなことをするの!?」
「こうすればクライムファミリーが会場に現れるのではないかと考えたので候。実践ステージで彼らを捕まえれば、実力を証明できると考えたのでござる」
「クライムファミリーを捕まえるって…それは本気かい!?」
「本気でござる」
デストロイトの犯罪防止活動をしているが、彼らにはほとほと困っていた。
クライムファミリーは犯罪を隠すのが本当に上手い。
しかも警察内部に内通者が多いため、俺一人が犯罪拠点を警察へリークしても内部で揉み消される。
それでも俺は、大麻を密輸している人々を改心させたり、ヤク中になった人々を完全回復で麻薬依存から解放したりと、少しでも彼らの資金源をなくして組織を潰そうとした。
だかクライムファミリーはなかなかにしぶとい。
ここ数ヶ月資金源がほぼゼロにも関わらず、未だに潰れない。
ダメ元で直接幹部の人間を改心させようとしても、無駄だった。
だからこの場を借りて、デストロイトの膿を一掃しようと思いついたのだった。
これなら『実践ステージでヴィランが現れない問題』も解決できて一石二鳥だ。
「あり得ない…無謀すぎる!」
「キム社長の言う通りだよ、フーマ!」
ソイも慌てて、俺に止めるように耳打ちする。
だがそんな俺を『いいじゃないか』と肯定してくれる人物がいた。
ウィンフリー社長だ。
「マフィアにケンカ売る度胸のあるヒーローなんて、なかなかいないわ。ウチが求めているのは、そういう気概のあるヒーローよ♪ フーマちゃん、続けて続けて!」
ありがたい言葉に甘えて、俺は話を続けることにした。
「それでは続きをご静聴くだされ。……ジョセフ殿はトニー殿の奥方だけでは満足できなかったのか、なんと組織内メンバー数人の奥方達とも不倫していたのでござる!
ジョセフ殿曰く『ヒトの女を寝取ることでしか得られない成分がある』とのこと。何ともまぁ、寝取りの常習犯らしい考えでござるなぁ。しかし、不倫や托卵をしているのはジョセフ殿だけではござりませぬ」
俺は再び変身の異能を使い、スキンヘッドで大きな黒縁眼鏡をかけた、小柄な中年男性に変化した。
「次に変化致すのは、クライムファミリー顧問役のトニー・トッコ殿でござる。トニー殿もまた、不倫をしていたので候。
しかもそのお相手は、なんとボスであるジョセフ殿の奥方! トニー殿は今もジョセフ殿の奥方と3番通りの1777番地にあるNGNグランドホテルの最上階で一服しているでござる。
ちなみにジョセフ殿の奥方もトニー殿との子を托卵をしているで候。トニー殿曰く、『ボスにバレたら殺されるかもしれないスリルがたまらない』とのこと。
いやはや、まさか組織内でW不倫どころか、WW不倫からのW托卵まで起こっているとは驚きでござるなぁ。ここまで来れば、もはや両者は不倫相手と結婚すれは良かったのではないのでござるか?」
マフィアの間抜けな情報に、観客席のところどころから小さな笑い声が聞こえた。
そろそろ次の人物を紹介するか。
次に俺が変身したのは、肩から両腕にかけて綺麗にタトゥーが入っている、30代くらいの長身の優男だ。
「次に変化致すのは、幹部のアンソニー・ゼーリック殿でござる。アンソニー殿はジョセフ殿の実子で候。あ、ジョセフ殿、ご安心くだされ。彼はトニー殿の子ではありませぬ。彼の弟妹は全員托卵でござるが、アンソニー殿は正真正銘、ジョセフ殿の子でござる」
そこまで説明すると、観客席から聞こえてくる笑い声が大きくなった。
「アンソニー殿は彼の持つ『性別変更』の異能で、男性債務者を全員、女性に変えて売春させているので候。しかもアンソニー殿はその中の何人かはお持ち帰りしているのでござる。
アンソニー殿は今も、お持ち帰りした元殿方と一緒にルネサンス通りの400番地にあるマリオネット・ルネサンス・ホテルのベッドで横になっているでござる。しかも、その元殿方はお気に入りだとか。
アンソニー殿曰く、『元々男だった奴を女にすることでしか得られない成分がある』らしいでござる。これには流石に寝取りが特技のジョセフ殿でも、寝取ろうとは思わなかったので候。
親子揃って特殊な性癖の持ち主でござるなぁ。何はともあれ、アンソニー殿、良かったでござるね!」
会場もある程度にぎやかになってきたし、そろそろ次の人物を紹介するか。
時間的にも次でラストだ。
俺は変化の術で、上半身がカマキリで下半身が蜘蛛になっている全長3メートルくらいの女性に変身した。
「最後に紹介致しますのは、アンダーボスのヴィクトリア・ジャカローネ殿でござる。彼女はこの見た目が原因で両親に捨てられ、孤児院でもいじめられ、凄惨な幼少期を過ごしていたので候。そんな彼女を唯一、仲間として迎え入れたのがボスであるジョセフ殿でござる。
ヴィクトリア殿はジョセフ殿に恩返しをするために、様々な汚れ仕事を引き受けてきたので候。今日とて、ジェイソン通り3801番地の川沿公園に隠されたアジトで、裏切り者を始末しようとしているのでござる。
しかし、そこはご安心くだされ。彼女が始末しようとしている相手は、変化の術で化けた拙者の分身で候。始末しても無意味でござる。
それはともかく、ヴィクトリア殿はその忠誠心の高さとトップヒーローをも葬る実力の甲斐もあり、アンダーボスの座についたのでござる。
ヴィクトリア殿曰く、『私にはここしか居場所がない。だから例え悪事に手を染めようが、この命が尽きようが、最後までクライムファミリーは私が守る!』とのこと。
…彼女を救った相手がヒーローであれば、彼女の人生は全く別のものになっていたかもしれぬでござるな」
彼女の半生を聞いた観客達は笑うのをやめ、会場は一気に静かになった。
観客達はみな憂いを帯びた表情をしてヴィクトリアに同情していた。
「…以上が、拙者がクライムファミリーから得た情報の一部でござる。」
俺が変化の術を解くと、会場は再び緊張に包まれた。
「さぁ、クライムファミリーの諸君! コケにされて悔しければ、拙者達を倒しにくるでござるよ! 貴殿達が来られないのであれば、それでも構いませぬ。ここまでコケにされても現れない小悪党は、拙者達が成敗するまでもなく滅びる定めで候」
流石にここまで煽ったら、俺達を倒しに来るだろう。
だけど生放送中に来ずに、後で来られても困るな。
ダメ押しでもう少し煽るか。
「ちなみに『後で始末する』と考えていそうでござるが、今ここに来なければ拙者達を倒す機会は永遠になくなるでござるよ? なぜなら拙者達は変化の術に木の葉隠れの術も使える故、正体を悟られずに生活するのは容易いで候」
俺は印を結ぶポーズをして透明になってみせた。
これを見れば『今を逃すと後で捕まえられない』と嫌でも理解できただろう。
俺が透明化を解除すると、会場は時が止まったように静かになった。
「…それで? 貴方のパフォーマンスは、もう終わり?」
静寂を破るように声を出したのは、パーフェクトジュエルだった。
「左様でござる」
すると彼女は勢いよくブザーを叩き、会場中にその音が響き渡った。
そんな……!
2つ目のブザーが押され、俺は頭の中が真っ白になった。
「残念だけど、さっきのパフォーマンスで貴方からはジュエルのような輝きを感じられなかったわ。私はマフィアの個人情報より、貴方自身の魅力を知りたかった」
俺自身の、魅力?
俺自身の魅力って、何だ?
俺はふと、日本でヒーローをしていた時を思い出した。
日本にいた時も、散々地味だと言われた。
アメリカに来ても、魅力がないと言われる。
俺には、人を惹きつけるような魅力は備わっていないのか?
そんな絶望が頭の中をぐるぐると駆け巡る。
絶望で足に力が入らず、その場で膝をついて項垂れた。
「最後の最後で、まさかの2つ目のブザーが押されてしまいました! シャドウズのお二人は、残念ながらここで…」
司会者が『失格』と言いかけた、その時。
観客席が、いきなり歓声と拍手で湧き起こった。
顔を上げると、視界が金色に輝いていた。
その理由が金色の紙吹雪が天井から降ってきたからだと気づくのに、1秒も要らなかった。
── ゴールデンブザーが押されたのだ。




